2-79 音楽
―1―
分岐路に戻り右の道を進む。すぐに見えてくるミーティアラットの線。
右、左、奥……3匹か。よし、MPが勿体ないし一気にいくぜ。
――[ウォーターカッター]――
俺の手から高圧縮された水のレーザーがほとばしる。そのまま右から左へ水のレーザーをなぎ払う。切断されるミーティアラット達。待たせたな、これぞ、魔法チート。って、そんな場合じゃ無かったな。さあ、急いで進むか。俺は手に残った水のしぶきを飛ばし駆け出す。っと、魔石と隕鉄は取り出さないと、だよね。
これで隕鉄は9個だな。後1匹倒したら帰るかな、それとも最後まで進むかな? ま、こんな気分で進んでもろくな事が無いし帰るか。
で、だ。後、1匹になってからが見つからない。もうね、何だコレ。
途中、またも膨らんだ鍾乳石を見つけたので割ってみる。中には先程と同じように魔結晶の欠片が入っていた。コレ、世界樹の迷宮みたいに勝手に宝箱だと思っていたけど、もしかしたら魔結晶の欠片が精製されると膨らむみたいな感じなのかな。
そのまま進むと、ついに行き止まりに。マジかよ。結局、小迷宮の中を全部回ってしまったじゃないか。ああ、マジで1匹足りないんだが。猫人族の青年が倒したと思われるミーティアラットの死骸からも隕鉄を取っておくべきだったか――いや、それは無いな。俺的には無い行動だ。しかしまぁ、行き止まりなら宝箱くらいは用意しておけってーの。何も無いとか寂しいじゃん。
そのまま来た道を戻っていると入り口に近いところでミーティアラットの線が見えた。お、最後の一匹ッ! というか、こいつ何処から現れたんだ? 全部の通路を見たと思うんだがなぁ。まぁ良い、倒すッ!
――[ウォーターカッター]――
何のイレギュラーも無く、最後のミーティアラットが切断される。さぁ、魔石と隕鉄の回収だ。入り口近くだし、そのまま外に出て転移だな。
そういえばステータスプレート(銀)を見ていなかったな。確認、確認っと。
【レベルアップです】
お、レベルが上がっている。久しぶりだな。
【ボーナスポイント8】
筋力補正:4 (1)
体力補正:2 (1)
敏捷補正:18(2)+8
器用補正:7 (4)
精神補正:2 (0)
ボーナスポイントの8は変わらずか。って、アレ? 精神補正が1増えていないか? 前から2だったか? うーん、どうだったかなぁ、クソ、憶えていない。まぁ、気のせい……かな。まぁ、いいや。振り分けよう。
筋力補正:4 (1)
体力補正:2 (1)
敏捷補正:26(2)+8
器用補正:7 (4)
精神補正:2 (0)
敏捷補正に全部突っ込むんですぜ。ここまで来たら一点突破しか無かろうよッ!
次までの経験値は5000か。うん、レベル×1000が必要経験値で確定ぽいな。まぁ、ゲームとかだと10の位になると条件が変わるモノとかもあるし、油断は出来ないよなぁ。お、弓士のクラスももうすぐレベルアップか。クラスのレベルが上がるとどうなるんだろうな。コレも楽しみだな。
外に出るとすでに日が落ちていた。もう夜か。
さあ、戻ろう。
――《転移》――
―2―
フウキョウの里に到着。
まずは冒険者ギルドだよな。更に高くなった敏捷能力により、あっという間に冒険者ギルドへ。高速で移動する芋虫、ははは、キモかろう。
冒険者ギルドの出張所に入ると、何やら寂しい感じの音楽が流れていた。何で音楽が流れているんだ? というか、コレ、誰が演奏しているんだ?
とりあえず受付に行こう。えーっと、ふさふさ尻尾さんは……って居ないのかよ。受付の人が1人しか居ないや。眼鏡をかけ、キリリと引き締まった顔の猫人族の女性だな。ヒョウのように長くてすらりとした尻尾がチャーミングですね。うん、仕方ないな、この人に聞くか。にしても、この時間だと俺以外に冒険者の姿が見えないな。
『すまないクエストの完了をしたいのだが』
俺は眼鏡の猫人族のお姉さんに声をかける。
「あ、はい。わふ、星獣様?」
はい、そうです。
「え、ええ、かんろうですね」
あ、噛んだ。
「完了ですね」
眼鏡の猫人族のお姉さんは顔を真っ赤にして言い直していた。いや、分かるから良いのに……。
「ステータスプレートをお願いします」
俺はステータスプレート(銀)を渡す。眼鏡さんが何かの機械? に俺のステータスプレート(銀)を入れる。しばらくすると、ぽーんと機械からステータスプレート(銀)が出てきた。これ、アレだ、タイムカードを入れる機械に似ているな。
「はい、トレントの討伐とミーティアラットの討伐の二つのクエストの完了です。GPはすでにプラスされていますが、報酬に関しては後日、あちらのカウンター、換金所でのお支払いになります」
って、だから、後日っていつだよ。『○○日後です』とかさ、正確に教えてほしいものです。まぁ、言っても仕方ないか……。
にしても素材を見せる必要が無いから、トレントの方のクエストも完了になるのか。これはスイロウの里の冒険者ギルドよりも進んでいるな。最悪、明日、狩りに行こうと思っていたからなぁ。って、そうだ。
『何やら、音楽が流れているようだが』
「ええ、これですか? 決められた時間に決められた音楽を流す魔法具ですね。私どもの冒険者ギルド出張所では営業終了間近になると流れるようになっています。終了時間が感覚的に分かりやすい素晴らしい発明だと思います。ちなみにファー様の考案だとか。さすがは守護星獣様ですよね」
なんだと。あの羽猫の発案だと言いましたか。これ、まるっきりスーパーの閉店じゃねえかよ。曲は違うけどさ。やっぱり、あの羽猫って転生者なんじゃないか?
と、音楽に気を取られていたけど、途中で発見した猫人族の青年の遺体をどうするか聞こうと思ったんだった。営業終了間近ってことだし、手早く聞かないとな。
「え? 冒険者の遺体?」
そうそう。
「しかも、持って帰ってきたんですか?」
うんうん。って、駄目だったのか?
「い、いえ、持って帰ってきて戴けると私どもとしては非常に助かるのですが……」
ふむ。
「次からはステータスプレートを持ってきて戴くだけでだけで大丈夫ですよ。持ってきて戴ければGPを付与します。ただ、遺体の方は出来れば燃やすか埋葬してあげてください」
火葬――有りなのか。遺体の取り扱いって宗教的なことが絡むこともあるし難しいよね。
「燃やす理由ですが、アンデッドとして甦られないようにという苦肉の策ですね。冒険者の多くが時間的に余裕が無く、こちらの処理になります。ですが、出来れば埋葬してあげて欲しいです。基本的には放置せず埋葬すれば遺体は魔素へと還りますから、アンデッドとして甦ることはありません」
魔素に還る? というか、やはりアンデッドとか居るのか……。
「後は遺体の持っていた所持品に関してですが、基本的には冒険者ギルドまで持ってきてください。その分もGPに還元します。そのまま盗んでしまうと履歴に残り、場合によってはペナルティが発生する場合もあるので注意してください」
あら、この辺は厳しいのね。てっきり死んだ人から剥ぎ取っても死人に口なし、というか有効利用出来るからオッケーみたいになるかと思ったんだが……。
「ちなみに放置する場合のペナルティは無いですよ」
ああ、面倒なら死体や装備品は無視してオッケーっと。しかしまぁ、それは人としてどうなのかって思うけどね。
俺は魔法のウェストポーチXL(0)から猫人族の青年の遺体を取り出し、眼鏡さんに見せる。眼鏡さんが一瞬、小さな悲鳴を上げた気がした。まぁ、死体なんて見てて気持ちの良いもんじゃ無いしね。俺からすると人に近い猫の死体だけど、同族だと見え方も違うのだろうしね。
「埋葬はこちらで行っておきます。後、ステータスプレートをもう一度預かってよろしいですか?」
俺は言われるがままにステータスプレート(銀)を渡す。また同じように何かの機械にステータスプレート(銀)を通しているようだ。
「はい、お疲れ様でした。こちらもGPを加算しておきました。後、あなたが殺害していないこと、窃盗していないことも証明されました」
うお、マジか。怖いことが証明されてるな……。何というか、不思議な世界というか、こういう部分は俺の居た世界よりも進んでいる気がするなぁ。
俺はステータスプレート(銀)を受け取る。
さ、用事も済んだし、道場に帰りますか。営業時間終了間近に長居しても迷惑になるだけだしな――終了間際に仕事を増やしてごめんなさい。
5月2日修正
アンデット(遊○王) → アンデッド