10-65 女神セラ
―1―
何やらあーあーと何かを賛美するかのような曲が流れ始める。
なんだ、このおんがくは!
やはり音楽が流れるのか。相手は神で、流れる音楽は相手を賛美する歌……まるでゲームのラスボス戦だな。女神も、それを分かった上で演出しているぽいのが嫌らしい。どうせ、そういう意図があるとか、こっちは気付かない、知らないとでも思っているんだろうな。
皆が武器を構え、何か踏み出そうとして、その一歩が踏み出せず逡巡していた。そうだよな、創造主に逆らうんだもん、躊躇っちゃうよな。まずは俺から動かないと駄目だよな。
真紅妃を構え突撃する。まずはッ!
――《インフィニティスラスト》――
俺の必殺技だ。真紅妃が無限の螺旋を描く。しかし、それを防ぐように女神が纏っていた白竜輪が動き、真紅妃へと絡みついてくる。白竜輪は元々、女神の装備だもんな、そうなるよな。でもな、そんなモノで俺の真紅妃は止められないぜッ!
真紅妃の螺旋が巻き付いてきた白竜輪を振り払い、さらに回転速度を上げる。そうだ、そのまま貫けッ!
それを見た女神は薄く笑い、左手の人差し指1本で真紅妃を受け止めていた。へ? 指1本? 真紅妃の回転が止まる。
「神の左手はあらゆるものを防ぎ、そして右手はあらゆるものを打ち砕く」
女神の右手から波動がほとばしる。
――[エルスターアイスウォール]――
星の力を秘めた氷の壁を作り波動を防ぐ。しかし、すぐに打ち砕かれ、周囲へと波動が広がる。その一撃で皆がバタバタと倒れる。俺自身も何が何やら分からぬうちに激痛とともに片膝をつく。何だ、これ……。
――[キュアオール]――
覚えたばかりの回復の力を使う。癒やしの力に包まれ、先程のよく分からないダメージが消えていく。外傷がないのが怖いな。何だろう、自分という存在が破壊されたというか、そんな感じのダメージだな。
いち早く回復したミカンが飛ぶように、一気に女神との間合いを詰める。そして、そのまま長巻を振るう。しかし、それを先程と同じように女神が左手の人差し指1本で受け止める。
「無駄です」
しかし、そこへ紫炎の魔女の炎の魔法が降り注ぐ。女神は回避することもせず、そのままその身に魔法を受ける。
「なるほど、考えましたね。上位属性なら私にも通りますからね」
女神が解説してくれる。通るって言ってる割には随分と余裕だよなぁ。
にしても、上位属性なら通る、か。つまり、星や月、太陽の属性って事だよな?
ミカンが長巻を納め、刀に持ち替える。そして、そのまま女神へと刀を振るう。女神が左の人差し指1本で、その一撃、一撃を防いでいく。そこへシロネが短剣を投げ放つ。忍者スキルの効果か、短剣はレーザーのようにまっすぐ突き刺さるように飛ぶ。女神が飛んできた短剣を睨むように見つめると、その場で跳ね返った。飛び道具無効系か? しかし、その隙を突くかのようにシロネも女神へと駆け出していた。ミカンと並び、次々と両手に持った短剣を振るう。シロネとミカンの攻撃を左手の人差し指1本で受けていた女神が、その勢いに押されるように少しずつ後退していく。
紫炎の魔女も次々と魔法を放つ。
よし、このタイミングならッ!
――《二重分身》――
併せ魔法に耐えきれず消滅した分身体を呼び出す。そして、このままッ!
――[エルスターバースト]――
――[スターバースト]――
――[スターバースト]――
ネビュラストリームだと皆を巻き込んでしまうからな。上位属性なら通るってのなら、これしかないだろッ!
【魔法の併せが発動します】
――[ツインスターバスター]――
星の力を秘めた槍があわさり、星を打ち砕く砲撃となって放たれる。ミカンとシロネが飛び退き、そのまま女神が砲撃の閃光に包まれる。
その一撃だけで力を使い果たした分身体が消滅する。なんだか、魔法発動の為だけに呼び出したみたいになってしまったな。しかし、これでどうだ? 俺の変異変身の効果時間内になんとか押し切りたいところだけど、やったか? って、つい、やったかなんて……。
「やりますねぇ」
砲撃の閃光が消えた後には半身が吹き飛び、傷付いた女神がいた。お? 思っていたよりも効果があったぞッ! これならッ!
「なるほど、魔法の併せですか。それなら、これはどうでしょう」
女神の姿が一瞬で元に戻る。
そして、上空に魔法の球体を浮かべる。
紫、青、緑、黄、橙、赤、黒、白……さらに俺が見た事のない金、銀、赤銀、青銀、緑銀色の球体が浮かんでいる。何かヤバイッ!
ミカン、シロネが発動を止めようと女神に斬りかかる。しかし、何か不思議な力の障壁によって、全ての攻撃が弾かれる。
――《永続飛翔》――
俺もミカン、シロネの元へと飛び、スターダストを握る。
――《フェイトブレイカー》――
星を描くように斬撃が放つ――横切り、袈裟斬り、斬り上げ、斬り降ろし、斬り上げ、そして、その運命を打ち砕くような必殺の突き! 全てを放つ。しかし、その全てが見えない壁によって弾かれる。お、おい、馬鹿な、こんなことが。
「皆さん、私の後ろに……!」
ステラの声。振り返ればステラがジョアンの盾を構えていた。この障壁は破壊しきれない……くっ。
――《永続飛翔》――
俺はミカン、シロネを引っ掴み、《永続飛翔》スキルでステラの後ろに回る。
ステラがジョアンの盾を地面に叩き付けるように構える。
「結界を張ります……」
ジョアンの盾を中心に黒い菱形の文様が次々と浮かび上がる。
「わらわも手伝うのじゃ」
セシリーがジョアンの盾を持ったステラの手の上に、自身の手を乗せる。黒い菱形に白い菱形が加わっていく。
「これから行うのは私が作った最後の属性、混沌」
女神の上空に浮かんだ球体が回転を描き、混じり合っていく。そして、それは俺たちの元へと飛び、弾けた。いつものように魔法を読み取ろうとする。くっ、この女神が放つ魔法は『併せ』だからか、ウォーターミラーでは防いだり、反射したりは出来そうにない。全て読み切るには時間が足りないッ! くそッ!
「言うなれば混沌の新星」
全てが歪み、全てが弾け、全てを飲み込む。
ステラとセシリーの盾が混沌の新星を防ぐ。ビリビリと菱形の文様が震える。その度にステラとセシリーのMPが吸われるているようだ。二人の額から汗が流れる。
永遠とも思えるような数秒を耐え抜き、新星の渦が消える。耐えきった?
ステラとセシリーはホッとしたように息を吐く。
「やりますねぇ」
女神から楽しそうな言葉が放たれる。それに反応して、そちらを見る。そして、絶望した。
先程と同じ球体が上空に浮かんでいる。まさか、次、か?
驚いた顔をしていたステラとセシリーだったが、すぐに表情を引き締め、盾を構える。
「彼なら……ここで諦めません!」
「そうなのじゃ」
再度、ジョアンの盾から白と黒の菱形が、こちらを覆うように生まれる。
そしてまたも混沌の新星が生まれる。
二人が必死の思いで混沌の新星を乗り切る。そう二人は防ぎきった。
そして、混沌の新星の余波が消えた後の女神を見る。
その上空には先程の球体と同じものが2つずつ浮かんでいた。
「1個で足りないのであれば、もう一つどうですか?」
2つの混沌の新星が生まれる。
ステラとセシリーはそれでもジョアンの盾を構える。俺も、何か……? どうする、どうする?
ジョアンの盾を持った二人の手の上に俺の手を乗せる。そして、そのまま流れを読む。
――《魔素操作》――
魔素を操作し、流れを変える。こちらを弱々しく明滅しながらも覆っていた白と黒の菱形が輝きを増す。俺の膨大なMPで強化するぜ。
「さすが、ランなのじゃ!」
セシリーがこちらを見てニヤリと笑う。そうだろう?
俺の手の上に紫炎の魔女が手を乗せる。そして、シロネが、ミカンが、手を乗せる。さらに小さな羽猫がその上に乗っかる。って、乗るなよ、お前、邪魔だぞ。
皆の力があわさり、ジョアンの盾が強化されていく。
俺たちの盾が女神が生んだ混沌の新星を押し返す。
2つの混沌の新星から生み出された破壊の渦が消えていく。その中から、無傷の女神が現れる。
「まだまだ侮っていたみたいですね」
女神はこちらを見て微笑んでいた。
―2―
女神との戦いは続く。
「光よ」
女神の言葉とともに光が溢れる。しかし、何も起こらない。ただの目潰し?
そして、女神が指をパチンと鳴らす。
――《魔素操作》――
魔素の流れを操作し、こちらへと進んできていた魔素の流れを防ぐ。
「おや?」
女神が首を傾げる。前回はギリギリ間に合わなかったけどな、今の俺なら、ちゃんと追えるんだっつーの。こちらを作り替えるような力を使わせてたまるかッ!
今度は女神が右手を伸ばす。そこから破壊の波動が生まれる。
――[キュアオール]――
避けられなくて喰らうしかないような、そんな攻撃でもッ! 回復出来るならッ!
「自分で世界の敵と名付けてなんですが、なかなかに厄介な力を持っていますね」
女神は大きなため息を吐いていた。
「そう思うなら、止めようぜ。俺たちとしては世界を残してくれれば文句はない。あんたと戦いに来たわけじゃ無いしな」
俺の言葉を聞いた女神は驚いた顔でこちらを見ていた。
「本当に、何者ですか?」
えーっと、どうしよう。言っちゃうか、言っちゃうか? ああ、それで止められるなら、俺の事情なんて関係ないよな?
「実はな、俺は異世界から、この世界に来たんだよ。だから、あんたの支配するような力が効かないんだと思う」
俺の言葉を聞いた女神は不思議なものでも見るかのような顔をこちらに向けていた。しかし、すぐに嘲るような表情を作る。
「戯れ言を」
通じない、か。敵対する女神とも仲良く、なんて無理、か。
こちらを無視して女神が指を鳴らす。すると周囲の魔素が全て消えた。なんだ、と?
「これで防ぐ事は出来ないでしょう」
女神が再度、球体を浮かべていく。ひ、卑怯だろうがッ!
「ラン、盾がっ!」
「私の結界の力が……」
魔素が無いから、か。
どうする、どうする?
俺は……。
俺は、皆の前に立つ。
「ラン、どうするつもりなのじゃ」
「主殿!」
「にゃう……」
任せろって。
周囲の魔素は無くても、俺の中には――そして、この纏っている外骨格を作っているのも魔素だからな。
女神が混沌の新星を作る。
お前の魔法は見せて貰ったぜ。さすがに時間はかかったが全て理解した。
俺は体内の魔素を、外骨格の魔素を削り、女神と同じように各色の球体を作っていく。何度も同じコトをやり過ぎなんだぜ。
作り上げた球体を合成する。
――[カオスノヴァ]――
女神が放った混沌の新星と俺の放った混沌の新星がぶつかり、対消滅する。そして、全てを使い切った俺の姿が元の芋虫状態へと戻る。は、は、はは、ここで戻るか。
「な、な、な、な……」
女神は驚き、信じられないモノでも見たかのように後ずさっている。さすがに同じ技を使われるとは思わなかったか?
……。
ここが、こここそがッ!
最後のッ!
――《永続飛翔》――
俺は女神へと飛ぶ。
「そんな、そのすが……」
女神は驚いたままだ。
――《スイッチ》――
《スイッチ》スキルを使い、真天鎖剣を呼び出す。
ここしかないッ!
俺は、呼び出したそのまま、その凶悪な回転する光の刃を、無限の螺旋を振るう。
そして、女神はバラバラになった。
2021年5月16日修正
名付けてなのですが → 名付けてなんですが
赤、青、緑 → 紫、青、緑