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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
10 三神殿攻略
873/999

10-64 女神の間

―1―


 俺は映像を映し出されていた上空を、ただただ、茫然と見つめている事しか出来なかった。


 ……信じられない。


 14型が自爆した? 嘘だろう? これは俺を動揺させる為の罠だよ……な?


 14型との思い出が甦る。闘技場を優勝した景品として貰った家――その地下室で眠っていたのが14型だった。何故か俺をマスターとして目覚め、その後も俺の後をついてきた。俺に不味い飯を食わせようとしたり、水ばっかり飲ませようとしたり、皮肉ばかり言っていたり、最初は本当にポンコツで、それでも何処か憎めない奴だった。それがいつの間にか戦闘にも参加するようになって、そのうち、戦力としてなくてはならない存在になって……。

 俺が死にかけた時に駆けつけてくれたのも14型だった。その後、皆の助けがあって――なぁ、嘘だろう? これは俺を動揺させる為の罠だろう? それだったら、充分に効果を発揮しているぞ。俺はこんなにも動揺している。

 14型だけじゃない。太陽の神殿のジョアンだってそうだ。出会った時は鎧に着られているような小憎たらしい餓鬼で、何で俺の後をついてくるんだって煩わしいと思っていたさ。それがいつの間にか無くてはならない盾役になって、そして、セシリーという守る者の為に神国へと向かい、俺たちと別れて、そして、その神国で再会した時には、すっかり大きくなっていて――さらに勇者様だ。魔王討伐の勇者だもんな。魔王にも勝った男が、何で倒れているんだよ。何やってるんだよッ!


 ああ!


 ああああッ!


 俺は目の前の光の輪を見る。


 そうだ、あの先に進めば、映し出されていた映像が偽りなのかどうか分かるんじゃないか? そうだよ。


 俺はふらふらと吸い寄せられるように光の輪の中へと進んでいく。




―2―


 光の輪に入ると周囲の景色が変わった。


 足下は真っ白でふわふわとした、まるで絵本の中に存在するかのような雲の床だ。凄くファンタジーだな。遠くには見た事もないような歪に絡み合った木の姿も見える。何処だ、ここは?

 俺の転送に併せたのか、皆も次々と転送されてくる。


 いつになく真剣な表情のセシリア、疲れ切った表情の紫炎の魔女ソフィア、ジョアンの盾を持ったステラ、そして、その足下に小さな姿のままのエミリオだ。

 続けて利き腕に傷を負ったミカンとその手に回復魔法をかけ続けているシロネが現れた。


 ジョアンと14型の姿はない。いや、魔人族の長デザイアも、探求士の3姉妹も、おっさん二人の姿も――ない。


「な、敵?」

 回復魔法を唱え続けていたシロネが驚き、こちらを見る。

「いや、待つのだ」

 しかし、それをミカンが止める。

「もしや、主殿か?」

 あ、ああ。俺だ。俺は小さく頷く。


 にしても、皆の姿が、まるで俺が見ていた映像、そのままだ。嫌な予感がする。

「むふー、紛らわしいですよー」

 そういえば、今の俺は変異変身しているもんな。皆には初お目見えか。と、まずは皆を治療しないとな。

 何か、回復、回復……多分、こうかな?


――[キュアオール]――


 皆が癒やしの力に包まれていく。ミカンの深かった腕の傷も元通りだ。

「主殿、これは……?」

 なんとなく、今、思いついた魔法だからなぁ。

「むふー、どれだけ回復魔法をかけても、ミカンちゃんの傷の進行を抑える事しか出来なかったのに……」

 そうか。それも、クロアが使っていたあの異質な剣の能力だったんだろうか。いや、まだ、あの映像を真実だと、そうだよ。


「14型やジョアンたちの姿が見えないようだが?」

 俺の問いに、皆は顔を背ける。


「ジョアンは頑張りすぎたのじゃ。後はわらわたちに任せて欲しいと、無理矢理休憩の為、残って貰ったのじゃ」

 セシリーは震える声で教えてくれた。そうか、休憩中か。

「むふー。14型さんたちは、た、そうですねー、戦ってます」

 そうか。じゃあ、女神の問題が片付いたら迎えに行かないとな。あいつは、本当にポンコツだからなぁ。


 皆が頷き合う。


 行こう、後は女神だけだ。




―3―


 雲の絨毯の上を、何処かへと吸い寄せられるように、導かれるように歩いて行く。やがて、何かが見えてくる。


 小さな丸いテーブルと簡単な椅子。そして、その椅子の上で女神が、優雅にティーカップを持ち、何かを飲んでいた。紅茶か何かか?


 くつろいでいた女神は、すぐにこちらへ気付き、笑顔を向ける。


 俺たちが近寄ると、女神はティーカップをテーブルの上に置き、ゆっくりと立ち上がる。そして、まるで演劇でも行っているかのように喋り始める。


「やっと来ましたね」

 女神は俺たちが来るのが当然だと言わんばかりの態度だ。

「話をしに来た」

 俺は声を押し殺し喋る。そう、その為に、ここまでやって来た。


 しかし、女神は俺の言葉を無視して手を叩く。まるで、小さな子どもを褒めるかのように手を叩く。

「おめでとう。ゲームクリアですね」

 ゲーム? いや、それよりもだな。


「話を聞いて欲しい」

 しかし、女神は俺の言葉を無視する。


「ゲームクリアのご褒美は何がいいですか? 使えなかったあの子たちの代わりに、新しい世界の守護者をやってみますか?」

 女神は楽しそうに聞いてくる。


 新しい世界?


 新しい世界だとッ!


「褒美をくれるというなら、この世界を滅ぼすのは止めて欲しい」

 俺の言葉を聞いた女神は不思議な生き物でも見るかのように首を傾げる。

「何故です?」

 いや、何故って、何故もクソもないだろうが。

「女神、あなたは俺と約束したはずだ。3つの神殿を攻略したらチャンスを与えると」

 しかし、女神は首を傾げたままだ。

「だから、あなたたちが生き延びられるようにチャンスを与えようとしたのですが」

 いやいや、そうじゃないだろう。

「もう一度言う。この世界に生きている人が居るんだ、人が生きているんだ。その世界を滅ぼすなんて止めてくれ」

 俺の言葉を聞いた女神は笑い始めた。


「逆らう、まるで意志を持ったかのように意見を言う。そう、これは! ゲームのように楽しめる世界を一から頑張って作ってきて、初めて意志を持ったヒトモドキが作れたのかもしれませんね」

 女神は嬉しそうに俺を見ている。

「そうですね、そうですね。生きたいと思うのは人のサガですものね」

 女神は笑い続ける。


 こいつは創造主って力にあぐらをかいて、俺たちの話なんて元から聞く気がねぇ。くそがっ、くそがッ!


 分かったよ、分かったぜ。


 これもこの世界のルールだよな。


 このクソ女神に俺の力を分からせて、まずは話が出来る状況にしてやる。


 俺は真紅妃とスターダストを握る。そして、振り返り、皆を見る。俺が皆を見れば、皆も武器を構え頷いていた。

「あらあら? 創造主に挑むつもりですか? いいですね。壊される前に創造主の力を目に焼き付けなさい」

 女神は、まるで演劇をしているかのように、自分に酔った表情で、その言葉を吐き出していた。


 ああ、いいぜ。俺の力も目に焼き付けてくれよ。

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