10-63 それぞれの結末へ……
―1―
「きたぞ、きたぞ、きたぞ」
スターマインが腰に手を当て力を溜め始める。そして、その周囲に黒い液体が生まれ、スターマインを包み込んでいく。体の内に邪神を封じていて、その力を使うってはずなのに、その黒い液体を呼び出すのか? おかしく無いか?
黒い繭が出来上がっていく。
そして、生まれる。
繭が一気に膨張し、弾け、中からは蝙蝠のような翼を持ち、二本足で立ち上がった巨大な竜が生まれていた。
『ふふふん、みなぎる、みなぎる、みなぎるよ』
スターマインの姿が変わった。天竜族だもんな、最後は竜化か。普通に喋る事が出来なくなったからか、念話を使い出したな。天竜族が基本念話なのって、竜化した時の為とか、まさかな?
『邪神フィアトゥの力を吸い出し、自分のモノとしたことで生まれた、この姿。怯え、恐れ、震えるがいいっ!』
そうか、じゃあ、死のうか。
――[エルネビュラストリーム]――
――[ネビュラストリーム]――
――[ネビュラストリーム]――
俺と分身体は協力し同時に魔法を発動させる。
【魔法の併せが発動します】
久しぶりのシステムメッセージ。
――[エルネビュラストーム]――
俺が放ったエルネビュラストリームの魔法と分身体二人の放ったネビュラストリームの魔法が合わさり、エルネビュラストームという一つの魔法として発動する。
周囲を暗闇へと包み込み、星々が瞬く星雲が生まれ、やがて、それは気流から星の嵐へと変じていく。
災禍の中心にいたスターマインは何も出来ず、何も喋らず、何も残さず――消滅した。
星の瞬きが消えた後、そこには何も残っていなかった。昏倒しかねないくらいのほぼ全MPを使い切っての魔法だからな、さすがの威力だな。スターマインの最後の言葉は震えるがいい、か。震える余裕も無く終わってしまったな。フェンリル戦が、あんな中途半端に終わってしまったからな。コイツなんて、この程度なんだよ。
分身体も全てのMPを使い切ったからか消滅してしまっている。MPが無いからか、さすがに今の俺でも、すぐに分身体を呼び出せそうに無い。
威力があるのはいいんだが、俺のMPは空っぽでへとへと、さらに分身体二人も消滅、か。次の戦いがあるとヤバそうだな。これも使うタイミングを考えないと駄目な、本当に、とっておきの必殺技だなぁ。油断してMP枯渇で気絶したら――洒落にならんな。
スターマインを倒したからか、周囲が真っ白な壁に閉ざされた世界へと変わる。もしかして、さっきまでの空や舞台は映像を映し出していただけだったのか?
そして、真っ白な世界に光の雫が生まれた。雫が地面へと落ち、そこにミルククラウンのような光の輪を作り出す。もしかして、これが次の場所への転送装置か? スターマインを倒したから現れたのか?
俺は光の輪へと踏み出そうとして、そこで未だ上空に太陽と月の神殿の映像が流れている事に気付く。あれ? これ、スターマインが俺の動揺を誘う為に作り出していたんじゃないのか? 何で、消えないんだ?
俺は足を止め、二つの映像に映し出された戦いを観戦する。
―2―
太陽の神殿では戦いが佳境に入っていた。
ジョアンたちの目の前には黒い放電を発している巨大な球体が浮いており、その中央には大きな単眼を持った存在が浮かんでいた。アレ? ソルアージュと戦っていたんじゃないのか?
ジョアンたちは傷だらけで、何とか立っているような状況だ。特にジョアンの状態は酷く盾を持って立っているのがやっとの様子だ。
ジョアンが皆へと振り返り、何かの覚悟を決めたかのような顔をする。
巨大な単眼から黒い電撃が放たれる。ジョアンは盾ごと、体で受けるように、皆を庇うように、その黒い電撃を受け止める。そして、そこから盾を手放し、己が全ての命を燃やしているかのような光り輝く巨大な剣を生み出す。
ジョアンの光りの剣が巨大な単眼を斬り裂く。放電しているかのような黒い外郭が斬り裂かれ、中の核が剥き出しになる。そこで、ジョアンは力尽きたかのように膝をつく。
核へと、紫炎の魔女の火の魔法が、エミリオのブレスが、セシリーの光の魔法が、ステラの闇の魔法が放たれる。その攻撃に耐えきれず、核にヒビが入る。
ジョアンが動く。死に体を無理矢理動かし、ヒビの入った核へと、その拳を叩き付ける。核が砕け、黒い単眼は霧散した。そして、ジョアンはニヤリと笑い、そのまま前のめりに崩れ落ちた。
黒い単眼を倒したからか、太陽の神殿にもこちらと同じような光の輪が生まれていた。
ステラは倒れ込んだジョアンの元へ駆け寄り、泣き叫んでいる。セシリーは唇を噛み締め、何かを耐えていた。紫炎の魔女は顔を背け、下を向いている。エミリオはステラの足下にすり寄り、慰めるように頭をこすりつけていた。
ステラがジョアンの持っていた、俺が渡した王者の盾を持ち、立ち上がる。そこで、太陽の神殿の映像は消えた。
―3―
月の神殿ではシロネ、ミカンとクロアの戦いが続いていた。ミカンが自身の腕で異質な剣を受け止めている。クロアが異質な剣を引き抜こうとするが動かない。そのまま力を入れて切り落とす事も出来ない。クロアが困惑する。そして、ミカンが無事なもう片方の手で長巻を振るう。クロアはとっさに異質な剣から手を離し距離を取る。
ミカンは腕の半分まで達していた異質な剣を引き抜き、遠くへと投げ捨てる。腕は動かなくなったのか垂れ下がった状態のままだが、もう片方の手で長巻を握りクロアを見る。
距離を取ったクロアが何本もの燃える木の槍を空中に生み出す。シロネが、そこへ走る。放たれる燃える木の槍を打ち払い、躱し、駆けていく。
そして、クロアの元へ。
クロアが必殺の魔法を放とうとしたところで、シロネが懐から1枚の布を取り出し、クロアへと投げ放った。それは『世界樹』でクロアが残していたマントだった。クロアの動きが一瞬、止まる。シロネは、その隙を逃さずクロアの胸元へと短剣を突き入れていた。
クロアが一瞬、驚いた顔をする。しかし、すぐに何かを受け入れたかのような、愛しい人でも見るかのような優しい笑顔を浮かべシロネを抱きしめていた。シロネとクロアが言葉を交わす。しかし、映像を見ているだけの俺には聞こえない。
シロネの瞳から一筋の雫がこぼれ落ち、クロアの姿は霧になったかのように霧散して消えた。
クロアを倒した事で月の神殿を攻略したことになったのか、月の神殿にも光の輪が生まれていた。
これで三神殿攻略か。
この映像が本当なら、全ての神殿が終わったのか。
……。
あ、ああ。
―4―
しかし、月の神殿の映像は終わらない。
場面が変わり、14型たち戦闘メイドたちの戦いを映し出す。
一部体の中の機械部分を覗かせた14型が2型を羽交い締めにしている。そして、その14型と対峙する位置に立っていた0型が驚き慌てていた。何やら必死に叫んでいる。13型が怯えたようにへたり込み震えている。
何をするつもりだ?
14型、もう月の神殿は攻略済みなんだ。クロアさんが居なくなった今、もう無理をする必要は無いんだぞ。
14型が空を、映像を見ている俺の方を向く。それは、まるで俺が見ているのを察知しているかのようだった。
そして、14型が微笑む。
それは、いつもの機械が行っているような形だけが作られた笑顔では無く、心を持った存在としか思えない優しい笑顔だった。
そして、口を開く。
ゆっくりと言葉を紡ぐ。
言葉が聞こえない、こちらに伝わるように、ゆっくりと。
――マスター、一緒の旅、楽しかったです。
過去形は止めろッ!
そして、14型の中で何かが弾けた。
大きな爆発が起こり、周囲を破壊の渦へと飲み込んでいく。それは映像を映し出していた何かをすら飲み込み、そこで映像は途切れた。