10-62 だから、どうしたって
―1―
「そうだ、面白いモノをやってるよ」
スターマインの言葉とともに上空に再度、映像が映し出される。
それはまたしても太陽の神殿と月の神殿の映像だった。しかし、先程までとは状況が変わっていた。
太陽の神殿ではソルアージュの放った火柱のような魔法からステラを守る為に紫炎の魔女が立ち塞がり、そのまま燃え上がり崩れるように倒れていた。復活した4魔将と魔王を一人で相手していたジョアンは間に合わない。
月の神殿では、何か重しでもつけられたかのように14型の動きが鈍くなっており、2型の大剣を回避しきれず、その身に受け斬り刻まれていく。それでも14型はチャンスを覗うかのように凶悪な篭手に身を隠し、繰り返される攻撃に耐え続ける。
太陽の神殿でも戦いは続き、ソルアージュが熱線のような魔法をセシリーへと放つ。それに気付いたジョアンがセシリーを守る為に盾とともに駆けつけるが、その盾とジョアンごと熱線が貫き、その後ろに居たセシリーをも貫いていた。二人が驚いた顔のまま倒れ込む。
月の神殿ではシロネ、ミカンとクロアの戦いも続いている。クロアの振るった花のつぼみが開いたかのような形状の剣を防ごうと、シロネが短剣を上段に構える。しかし、その短剣ごと断ち切られ、シロネに異質な剣が迫る。そこへ、小柄なミカンが体ごと割り込み、異質な剣を手甲で受け止めていた。いや、受け止めきれず、刃が腕の半分にまで食い込んでいる。しかし、その状況でもミカンは笑っている。
……。
何だ、この状況は?
先程までと打って変わって、みんなピンチじゃんかよ。
いや、待てよ。
よく考えろ。よく考えるんだ。
おかしいよな? このタイミングで皆がピンチってのもおかしいけどさ。それよりも、だ。
俺たちはバラバラに出発したはずだよな?
まずは羽猫に乗って、ジョアン、セシリー、ソフィア、ステラ、デザイアが。
次にファット船長のネウシス号に乗って、14型が、シロネ、ミカン、グルコン、クアトロのおっさん二人に、キャッツルガ、ウリュアス、ゼロターの探求士3姉妹が。
そして最後に、俺たち、キョウのおっちゃん、ソード・アハトさん、バーン君で軍隊を移動させながら出発したはずだ。
それが、何で、俺と同じタイミングで戦っているんだ。タイミングが重なるなんて、そんな偶然があり得るのか? あり得ないだろ。
そんなのさ、それこそ、神的な存在が運命を操作するとか、そんな奇跡のような力でも働かない限りは起こるはずがないッ!
なるほど、そういうことか。
「時間稼ぎのつもりか?」
俺が言葉を飛ばすと、俺と同じように映像を見ていたスターマインは信じられないモノでも見ているかのような不可解な表情をしていたが、俺の言葉に反応し、先程までの顔が嘘のように嫌な笑顔を張り付けこちらへと向き直った。
「そう、その通りだよ」
スターマインが楽しそうに微笑む。まだ奥の手があるってか。随分と余裕があるようだな。
「女神セラ様に禁じられた力、それを解放する」
……前言撤回だ。
「その奥の手は、女神でも対処出来ないような代物なのか?」
俺の言葉を聞いたスターマインは、わざとらしいくらいに大きくため息を吐いていた。
「僕を恐れる気持ちは分かるけどさ、セラ様が対処出来ない? そんな力がこの世に存在するはずが無い事くらい常識だと思うんだけどね」
「では、お前の奥の手はたいしたことが無さそうだな」
「はぁ、馬鹿なの? ねえ、馬鹿なの? セラ様は、この世界の創造主だよ? 創造主。その意味がわかる? 何でも出来る方なんだよ。それと比べる事の方がおかしいって気付けよ」
何かされる前に完全にぶっ潰すつもりだったけどさ、こいつは、その何かごと叩き潰してやる。女神が対処出来る力だって言うのならさ、それに対処出来るくらいじゃないと女神に舐められるだけだからな。あの、ふざけた性格をした女神だ、同じくらいの力を持っていなければ、会話すらしてくれそうにないもんなッ!
―2―
「絶望しながら聞け」
スターマインが腕を組み、こちらを見下すようにニヤリと笑っていた。
「僕たち三人の中にはかつての旧世界を影から支配していた三柱の邪神が封じられている」
唐突に邪神とか言い出しましたよ。女神だけでは無く、邪神も居たのかー、へー、そうなんだー。
「三柱の邪神、長兄カースァト、次兄クライオン、末弟フィアトゥ」
こいつ、その邪神の説明でも始める気か? これも時間稼ぎなのか?
「セラ様ですら、その力を滅ぼせず、僕たちの中に封じることしか出来なかった存在だ」
女神しょぼいなぁ。さっきは創造主だから、凄い言っていたのに、滅ぼせないとか矛盾してないか? してるよなぁ。
「今、ここで、僕の中に眠る三邪神の一柱フィアトゥの力を呼び覚ます」
はいはい。何だろうな、やっぱり、こうやって語っている途中で、こいつを倒すのが正解な気がしてきた。その邪神とやらが凄い力を持っているとしよう、でもさ、今、お前を倒したら、殺したら終わりなんだろ? だってさ、コイツの話が本当ならさ、俺が殺したルナティックの中にも、その邪神は眠っているはずなんだよな? それが呼び覚まされはしなかったもんな。
なんだかさ、その、こいつらの中に封じられた邪神とやらも女神のお遊びの気がしてきた。こいつらを騙して、そう信じ込ませて、よく分からないモノを植え付けているんじゃないか?
あの女神、性格が悪そうだったもんなぁ。