10-60 星々の地雷振りまいて
―1―
映し出された映像は壁が立ち並び、まるで迷路のような場所だった。奥には月の神殿が見える。俯瞰視点なら、迷路も構造が一発で分かるな。にしても、月の神殿の周辺って、あんな感じだったのか? うーむ、それとも、こいつらが俺たちとの決戦に併せて周囲を作り替えたのか? 謎だ。
映像を見ながらも群がってくる星獣たちを捌いていく。こいつら、確かに強いし、硬いし、ヤバイ攻撃ばかりだけどさ、何というか単調なんだよなぁ。一撃必殺のスキルや魔法をただ連打するだけ、馬鹿の一つ覚えって感じだよな。まぁ、数が数だから、それはそれで脅威ではあるんだけどさ、それでも負ける要素は無いな。
あれだけ強かったフェンリルも黒い鎧を纏って、ただ強力なスキルを連発するだけの固定砲台になっている。何だろうなぁ、ホント、何だろうなぁッ!
こんな感じで決着がついて良かったのかよッ!
どれだけ強化されても、使う側がお馬鹿じゃあ、お話にならないってのッ!
映像が迷路の中を進んでいく。たく、嫌らしい演出だぜ。
その途中で映像が止まった。そこには寄り添うように集められた3つの石像があった。その石像の姿は探求士3姉妹とそっくり同じだった。
……。
いや、見間違いだよな? あいつら、迷宮都市の守りに回るから、三神殿の攻略には参加しないって言っていたもんな。それにさ、人が石化するなんて、あり得ないじゃないか。魔法なんかじゃないんだからさ。
映像は続いていく。
迷路の道にはおびただしい量の血痕が残っており、まるで、それが正解への道を導いているかのようだった。何で、こんなにも血が? しかも消えていないって、どういうことだよ。
迷路の映像は進み、石壁を抜け、やがて月の神殿へと到達する。そういえば、月の神殿の守護者であるルナティックは俺が倒したよな? となれば、どうすれば、攻略達成になるんだ? まさか、さっきの太陽の神殿の守護者、ソルアージュとやらが、ルナティックを甦らせたのか?
映像は神殿の中へと切り替わる。
そこでは3人のメイドと戦う14型の姿があった。3人? あれは0型と2型、それに13型か? いかにもやり手のお姉さんって感じの0型、大剣を持ち赤髪の大柄な2型、大きな鎌を持ち右目に眼帯をつけた13型――それ以外、他のヤツらは何処に消えたんだ? 人形遣いの3型と成りすましが得意な11型は倒したはずだ。でも釘バットを持った不良ぽい4型、鉤爪をつけていたもう一人の6型、眼鏡をかけ、大きな盾を持った9型が他にも残っているはず。どういうことだ? 他のヤツらは参戦しなかった? それとも月の神殿までの間に14型たちが倒した? うーむ、そうだな、神殿に向かう間に倒したって可能性の方が高いか。
14型がひゅんひゅんと姿を消し、2型と13型の攻撃を翻弄しながら戦っている。おー、3対1でも大丈夫そうだな。さすがは14型さんだぜッ!
「機械のお人形同士でつぶし合うなんて、前の人たちは余程お馬鹿だったんだろうね」
スターマインの言葉が聞こえてくる。機械のお人形って言うけどな、14型は確かにポンコツだったけど、それでも愛すべきポンコツだったんだぞ。俺の仲間なんだぞ。
映像はさらに奥へと進む。
そこではシロネとミカンの二人がクロアと戦っていた。やはり、クロアさん、か。仕方ないこととはいえ、敵に回る、か。
「死んでいたのをソルアージュが復活させて聖遺物を持たせてみたんだけど、こうしてみると意外に掘り出し物だったのかな」
クロアさんは『世界樹』で死んでいた。そう、『世界樹』の最奥、あの遺品があった場所で、本当は眠りについていたはずだった。
太陽の神殿も月の神殿も、この星の神殿と同じく最強で最悪な場所のようだ。それでも、皆なら大丈夫だ。俺は一緒に旅した中でそれを知っているからな。
―2―
――《二重分身》――
何度目かの分身体の呼び出し。今度は盾を持った分身体2号も一緒に現れた。また、こいつはやられたのか……。
って、ん?
少し様子がおかしい。現れた分身体2号は、その手に、もう一つ新しい盾を持っていた。あれ? その盾、何処かで見た事があるぞ?
分身体2号は分身体1号に向き直り、二人で頷き合う。そして、そのまま星獣たちとの戦いに参戦していた。戻らなくて大丈夫なのか? 拳聖、剣聖たちとの戦いは終わったのか? キョウのおっちゃんたち、無事かなぁ。凄い不安なんだが……。
太陽と月、二つの神殿での戦いを見ながら、応援しながら、星獣たちと戦っていく。星獣たちの数が減れば減るだけ、こちらは有利になっていく。
俺の体は疲れを知らず、MPも魔素を吸収すれば、いくらでも回復出来る。通常なら、物量に押され、疲弊させられ、ジリ貧になっていくところだ。しかし、俺にはそれがない。この体に感謝だな。この魔獣の体では無く、普通の人であったなら、この難局は乗り切れなかっただろう。
ああ、俺たちの勝利だ。
「ふふふん、そろそろ僕も参加しないと駄目かな」
その言葉通り、空が歪み、中から天竜族のスターマインが現れた。そんなところに隠れていやがったのか。
「やっと現れたか」
俺の言葉を聞いたスターマインはにこりと笑う。
「僕はね、ルナティックみたいに甘くも油断もしないからね」
スターマインの登場に併せて、周囲から何やらポップな感じの曲が流れ始める。
「音楽が流れると戦意が昂揚するよね」
ホント、こいつら俺たちを舐めているよな。
現れたスターマインが両手を挙げる。その瞬間だけ、頭上の映像が消え、星空が浮かび上がる。
「ネビュラストリーム」
俺たちの周囲が、立っていた場所が、まるで宇宙空間に取って代わられたかのように星が瞬く黒い空間へと変わる。星々がうねり上げ、俺たちの周囲を回り、包み、そして降ってくる。
「君たちは、まだ勝てるつもりだったのかな?」
スターマインが首を傾げ微笑んでいる。これは星属性の魔法か?
渦巻く星々は、俺たちの周囲にいた星獣たちも飲み込み、喰らっていく。これが、こいつの奥の手というか、最強技っぽいな。でも、なッ!
分身体二人が盾を持ち合い、俺を庇うように立つ。
「フェンリルとの戦いが事実上の最後の戦いだったんだ。お前が要らない事をした所為で、お前は俺からの勝ちを逃してしまった」
俺は分身体を下がらせ、前に出る。
「後は、この星々に飲まれるだけの存在が負け惜しみかな?」
スターマインは笑っている。
「お前が俺を一段階上へと押し上げたんだよ」
俺は右手を前に出す。そう、俺の瞳は、この魔法の情報を読み取っている。今のこの変異変身した状態なら出来るはずだ。
やつのネビュラストリームの魔法の流れを操作し、奴自身に向かわせる。
「な、何がっ!?」
そして、スターマインは自身の生み出した星雲の流れに飲み込まれていた。まぁ、さすがにこの一撃では終わらないだろうが、しかし、もう俺には、お前の攻撃は通用しないぞ。
2021年5月7日修正
最強技ぽいな → 最強技っぽいな