10-57 試して確認するように
―1―
ガリガリと削られる音に合わせて、何かが砕け散った音が繭の中に響く。ついにアイスコフィンが破られたか。
しかし、
しかし、だッ!
俺は繭の外へと『手』を伸ばす。繭から引き裂くように両の手を伸ばし、そのまま突き破り――それを掴む。
――《パワーストライク》――
俺はフェンリルの今にも閉じられようとしていた牙と牙を持ち、その巨体を持ち上げ、そのまま放り投げる。どっせい。
俺は軽くパンパンと手を叩き、そのまま繭の外へと体を引き出す。
――《魔法糸》――
――《換装》――
すぐに《換装》スキルを使い《魔法糸》で編んだ服とともにガーブオブレインを身に纏う。
間に合ったぜ。
繭の外に出てみれば、首がコキッと曲がった状態で、舞台の上に叩き付けられていたフェンリルが驚いた表情でこちらを見ていた。
驚いたか? これが、俺の変身した姿だッ! って、当たり前だけどさ、名前や種族がおかしくなっている今でも、前の変身状態と変わったような感じはしないな。芋虫状態の時は足の色が変わって、その姿のままで上位魔法が使えるみたいな変化があったんだけどさ。これはスキルで変身しているからかなぁ。
『その姿、まるで天竜族のようだ。ラン、ますます、お前という存在が分からなくなった』
青い狼が頭を振り、巨体を持ち上げ、そのまま体勢を立て直す。その動きだけで地面が揺れる。中身が詰まっていて大きいってのは、それだけで脅威だな。
青い狼が首をコキコキと鳴らしながら動かす。なんだか、妙に人間くさい動きだな。
『その人型へと化けるのが、お前の奥の手か?』
言葉とともに青い狼が吠える。そして、青い狼が青いオーラに包まれていく。
……。
傷と怪我を治し、さらにHPやSP、MPを回復し続けるのか? おいおい、それどんなぶっ壊れスキルだよ。これがゲームだったらクソゲー扱いするぞ。ま、まぁ、回復速度は遅くてゆっくりみたいだから、その回復を上回るだけの攻撃をすればいいんだろうけどさ。それでも、随分と卑怯な技を使ってくるじゃないか。
「奥の手の為の準備さ」
俺はとりあえず強がっておく。にしても、今の俺の姿、分身体とそっくりなはずなんだが、こいつ、分身体の時には反応しなかったよな? なのに、俺の方だと反応するんだ。うーむ、謎だ。
青い狼が水で作られた巨大な槍を浮かべる。アクアランスの魔法か。しかも上位化しているな。
ん?
あれ?
何か妙だ。
俺は右の赤い瞳で魔法を読み取る。
……星のアクアランス?
スターアクアランス?
世界がゆっくりになり、俺が魔法の情報を読み取り続けている中、星の属性を持った水の槍が放たれる。ゆっくりとした動作で俺の元へと水の槍が迫る。なるほど、反射出来なかったのは、吸収出来なかったのは、上位属性である、星の属性が混ざっていたからか。これも複合魔法になるのかな。
そして、目の前に立っていた青い狼がいつの間にか水の作り物にすり替わっていた。この赤い瞳だから、気付いたが、水でそっくりな形代を作るとか器用な真似をするな。そして、自身は、その驚異的な身体能力で俺の背後へと回り込む、と。正面に居たはずなのに、いきなり後ろから攻撃を受けたのは、これか。
だが、今回はちゃんと見えているぜ。魔法で牽制して、必殺の一撃を叩き込むってのがフェンリルの必勝パターンみたいだな。小さいときも大きくなってからも、その傾向は変わらない、と。
俺は左手を迫る水の槍へと伸ばす。えーっと、星の属性を混ぜるんだよな?
――[スターウォーターミラー]――
出来た、出来た、初めてなのに出来ちゃった。やはり、情報を読み取れるのは強いなぁ。俺は背後に迫るフェンリルへと右手を伸ばす。
――[スターアクアランス]――
星の属性を纏った水の槍を生み出し、そのままフェンリルにぶつける。
フェンリルが放っていた水の槍は水の鏡によって跳ね返り、霧散した。そして、俺を喰らおうと大口を開けていたフェンリルに水の槍が突き刺さる。水の槍がフェンリルの口中で炸裂し、フェンリルが驚き、顔を背ける。今度はちゃんと反射したな。では、続けてッ!
――《永続飛翔》――
――《回し蹴り》――
――《パワーストライク》――
驚き顔を背けているフェンリルへと《永続飛翔》スキルを使い飛び上がる。そのまま、その巨大な横っ面に黄金妃を介した《回し蹴り》が炸裂する。《パワーストライク》で底上げされた威力によって、フェンリルが吹き飛ぶ。
フェンリルは驚いた表情のまま舞台に叩き付けられ、一度だけ跳ねる。あの巨体が跳ねると、その振動だけでも恐ろしいモノがあるなぁ。こんなん油断したら潰されて死んじゃうぜ。っと、さてと、こいつ、これで、終わり……じゃないよな。
フェンリルはすぐに体勢を立て直し、起き上がる。
『驚いたぞ、この……』
言わせねぇよッ!
――[スターファイアランス]――
――[スターアクアランス]――
――[スターウッドランス]――
――[スターアシッドランス]――
――[スターアースランス]――
――[スターゲイルランス]――
――[スターライトランス]――
――[スターダークランス]――
――[スターオリジンランス]――
フェンリルの巨体を取り囲むように9本9属性の槍を浮かべる。念話を飛ばそうとしていたフェンリルが大きく口を開け、驚いた顔をしていた。
そのまま9色の槍がフェンリルへと降り注ぐ。
槍に貫かれ、フェンリルが咆哮をあげていた。
俺も、なかなか強くなったろう?
2018年5月30日修正
こんなん油断したら潰された死んじゃうぜ → こんなん油断したら潰されて死んじゃうぜ