10-55 フェンリルとの戦いで
―1―
青い狼、分身体とともに通路を歩いて行く。にしても、この青い狼、よく、その咥えた両刃の剣を壁に引っかけないよな。ホント、器用だなぁ。
『何処まで続いているのだ?』
延々と歩き続けている気分になるよ。でもさ、こういう通路を歩いていると闘技場に向かっていた時を思い出すな。
『もうすぐだ』
青い狼は振り返りもせずに答える。そうですか。
ところで、だ。
「私の存在を無視しているようだが、いいのか?」
とりあえず分身体で、それっぽく話しかけてみる。
『ややこしいことをするな。それはお前のスキルで作った、お前の武器の1つだろう? 俺相手に武器を1つ落として戦うつもりなのか?』
あ、はい。この青い狼からすると、そういう扱いなのか。微妙なところもあるけど、分身体のことを正確に言い当てているな。前回の闘技場での戦いの時もそうだったけどさ、このフェンリルって青い狼、スキルとか特性を見抜く鑑定のような力を持っているっぽいんだよなぁ。なかなかズルいぜ。
通路の先から光りが漏れてきた。おや? 終わりかな?
通路の先は――異質な空間だった。
明るい、まるで昼間のように明るい。なのに、空には星が瞬き、2つの月が赤々と輝いている。ここは外なのか? そして夜なのか? いや、でも明るすぎる、何だ、これ?
そして、その空間は無駄に広かった。一応、周囲には壁が張り巡らされ、その壁の上、向こう側には数え切れないほどの星獣たちが居た。何だ、この数……。百や二百って感じじゃ無いよな? こんなにも星獣が居たのか。
その無数の星獣に囲まれた空間の中央には石のようなモノで作られた舞台がある。天下一を決めるかのような、そんなおあつらえ向きの舞台だな。
『心配するな。周囲の雑魚どもには手出しさせないからな』
青い狼が首を動かし、顔だけをこちらへと向け、ニタリと笑う。周囲の星獣は、さしずめ観客の代わりってとこか。
『で、いつ戦うのだ?』
何処かにレフリーでもいるのか? 居そうだけどさ。何かゴングでも鳴るのか?
『ここはすでに戦場だが、そうだな。あの舞台に上がったときが勝負の開始と行こうか』
ふむ。つまり、俺が舞台に上がらなければ、いつまで経っても勝負は始まらないというわけだな。それはなかなかに魅力的な発想だぞ。
―2―
青い狼はこちらを気にせずに一気に駆け、舞台の上へと上がる。たく、心の準備くらいはさせてくれ。
俺は青い狼と距離を取り、かなり離れた位置で舞台の上へと上がる。
その瞬間、青い狼が吠えた。周囲の空間を震わせるほどの吠え声とともに鋭い矢のような水の球が浮かび上がる。水の矢が次々と生まれ、青い狼の周囲に漂う。魔法か? 魔法かぁ。魔法も使うって言っていたもんな。
青い狼が水の矢を放つ。放たれた水の矢がくるくると回転する水の輪っかを纏う。ん?
俺の眼前に輪っかを纏った水の矢が次々と迫ってくる。まぁ、でも魔法だよな?
――[ウォーターミラー]――
俺の前に水の鏡が生まれる。はい、反射っと。
しかし、水の矢は反射せず、水の鏡に突き刺さった。へ? 何で? 飛んできた水の矢が次々と水の鏡に突き刺さっていく。いや、だから、何で反射しないんだ?
驚いている俺を横目に青い狼が咥えていた両刃の剣を地面の影の中へと差し込む。まずいッ!
俺は飛び、とっさにその場から離れる。それを追いかけるように水の矢が飛んでくる。そして、俺が居た場所には地面から両刃の剣が生まれていた。危ね。って、水の矢がッ!
――[ウォーターミラー]――
新しく作成した水の鏡に水の矢が次々と刺さっていく。どんだけ飛んでくるって言うんだよ。無限か、無限か?
と、俺は嫌な予感がして、その場から飛び退く。そして、先程まで居た場所に両刃の剣が生えていた。またかッ! って、水の矢ッ!
――[ウォーターミラー]――
水の鏡に水の矢が刺さる。水の矢は際限なく飛び続け切れ間が見えない。マシンガンのようにやたらめったら撃ちやがってッ! って、いやいや、よく考えたら、この水の矢って水属性の魔法だよな? それなら、俺、喰らってもなんともないんじゃないか? だよな、だよな。わざわざムキになって反射にこだわらなくても……。
と、そこで俺はまた、飛び退く。その場所を目掛けてか、眼前に両刃の剣が生えていた。あぶねぇ、あぶねぇ、ゆっくりと考え事も出来ないな。
で、だ。この飛んできた水の矢は無視して……、
――[ウォーターミラー]――
いや、ダメだ。嫌な予感がする。この赤い瞳を持たない芋虫状態だと読み切れないけど、凄く嫌な予感がする。
次々と水の矢が迫り、地面からは俺を追うように剣が突き出てくるとか、ホント、厄介だな。逃げ回る事しか出来ないなぁ。
やれやれ、地味だが堅実で確実な攻撃だよ。受ける方としては、凄く鬱陶しいな。この初手だけでも、前回の闘技場でどれだけ、手加減してくれていたのかが分かるな。あの時のままの俺だったら、何も出来ず、ジリジリと削られて終わっていたかな。
が、俺は世界の敵になるくらい成長しているんだぜ?
――[ウォーターミラー]――
目の前に水の鏡が生まれ水の矢を防ぐ。さあて、次は足下からかな。
俺は足下から生まれる両刃の剣を待ち構える。
……。
今ッ!
――《インフィニティスラスト》――
そして、生まれようとしている両刃の剣にあわせ真紅妃を突き刺す。真紅妃より生まれた無限の螺旋が生まれてきた両刃の剣を次々と砕いていく。俺が成長したように真紅妃も成長しているからな。
フェンリル、お前が持っている両刃の剣、たいそうな業物なんだろう。だがな、今回も、俺の真紅妃の方が上だったなッ!
そして、今の俺の武器は真紅妃だけじゃないぜッ!
――《スイッチ》――
《スイッチ》スキルを使いスターダストを呼び出す。そのままサイドアーム・ナラカに持たせ、振り払い槍形態に変化させる。
――[エル・アイスウェポン]――
スターダストが巨大な氷で作られた特大剣へと作り替えられていく。そして、その氷の特大剣を飛んでくる水の矢ごと叩き潰すようにフェンリルへと振り落とす。
驚き顔を上げた青い狼が超巨大な氷の特大剣によって潰される。
……。
ま、これで終わったら楽なんだけどな。
叩き付けた氷の特大剣の横に影が生まれ、そこからフェンリルが現れる。
『やれやれ、その剣は女神様から授かった神具だったんだがな』
まだまだ余裕そうだな。
2021年5月7日修正
いるぽいんだよなぁ → いるっぽいんだよなぁ