10-52 想像していない世界で
―1―
蛇のような、竜のような、そんな姿の黒い液体がこちらへと迫る。
――真紅妃ッ!
真紅妃を振り払い、黒い竜体を弾き飛ばす。思いっきりぶちかました、その威力に液体が弾け、姿を歪めながら地上へと吹き飛ぶ。液体は地上の建物を打ち壊し――いや、建物の姿が歪む。ぐにゃりと歪み、建物が黒い液体へと変化していく。ど、どういうことだ?
いや、まずはッ!
分身体1号が巨大な雷霆の斧を片手に吹き飛んだ黒い竜体へと飛ぶ。分身体1号が雷霆の斧を振るう。下から上に、建物を融解させ、めり込んでいる竜体を真っ二つにする。そして、そのまま雷霆の斧を掲げる。
雷霆の斧からは眩しい稲光とともに破壊の雷光がほとばしり、黒い竜体を貫く。
と、その時だった。
俺の中に衝撃が走る。
分身体1号も何かに気付いたのか、それは一瞬だったが――俺との接続が切れる。
まさか、分身体2号がやられた?
また?
さっき戻っていたところだよな? 早すぎないか。ま、まぁ、とりあえず、もう一度呼びだそう。
――《二重分身》――
俺の目の前に盾を持った分身体2号が現れる。現れた2号はすぐに《永続飛翔》スキルを発動させ、俺と併走するように飛ぶ。しかし、本当に何が起こったんだろうか。いくら、剣聖のじじいに拳聖のフロウ、人攫いのダナンがいるからって、おかしいだろう。キョウのおっちゃん、ソード・アハトさん、それに半分とはいえ、俺の力を受け継いでいる分身体に最強の盾があって、これはおかしすぎる。何が起きているんだ?
皆は無事か?
ああ、分身体と会話が出来ればなぁ。さすがに無理だよな。だってスキルで作った程度の入れ物だもんなぁ。俺の意識しない部分で自動行動が出来ると言ってもさ――俺からだと余り見えていないから分からないけどさ、オートモードなんて、多分、戦う、回避とか、機械的に返事をするとか、そういう反応程度の動きだろうからなぁ。だから、負けているのか? うーむ、これ、戻った方がいいんだろうか。
俺の隣を併走していた分身体2号が下でザクザクと雷霆の斧を振り回していた分身体1号を見る。すると、分身体1号が一瞬だけ、こちらに振り返った。おや?
それが合図だったのか、分身体2号は併走を止め、門の方へと飛んで行く。戦闘を再開するため、皆の元へ戻ったのか。今、オートモードだしな。俺の皆を守れてきな思念を受けて、その通りにさ、機械的に行動しているのかなぁ。
まぁ、次は頑張ってくれ。
―2―
下では分身体1号の戦いが終わっていたようだ。黒い竜体は吹き飛び、黒い液体となって周囲に飛び散っている。しかし、これは何なんだろうな。こいつがビルを融解していた? いや、見た感じ、ちょっと違っていたよな?
俺は分身体1号の近くへと降りる。そして、周囲の建物を見回す。
おかしい。
異質だ。
しかし、だ。
俺が上から、透明な壁の中から見たときは、こんな建物だったか? おかしいよな。
俺はとてとてと歩き、1つのビルの前に立つ。そして真紅妃を構える。
――《インフィニティスラスト》――
真紅妃から放たれる無限の螺旋がビルを撃ち抜く。大穴が空いたビルの中は生活感が無く、ただの黒い液体に包まれているだけだった。
何だ、これは?
この黒い液体は何なんだよ、何だよ、これ。てっきり、俺の元いた世界と同じようなモノが、この世界の過去にもあって封印されていたとか、そんな感じかと思ったのに、これは違う。
黒い液体が何かを再現しているのか? それがモノを作っているのか?
もしかして、俺の記憶を元に、この世界を作ったのか?
……。
いや、それは無いな。俺の記憶から作ったのなら、何で、こんな崩壊後の世界みたいになってるんだよ。おかしいよな?
ビルはボロボロ、車なんてタイヤが腐り落ちたのか胴体部分しか無いしさ、どう考えても漫画とかで見たような崩壊後の世界じゃん。俺の記憶なら、そうだよな、こんな崩壊後の世界みたいにはなってないはずだ。
どういうことだ?
見れば遠くの方のビルなんて、何かの爆発で融解したような姿になってるのもあるしさ、おかしいよな?
その瞬間だった。
俺と分身体1号の周囲にあったビルが、家が、建物が、全て融解し、黒い液体へと姿を変えていく。やはり、この液体が、この世界を作っていたのか。しかし、何の為に、だ? よくわからんな。この辺も女神に聞けば分かるのかな? まぁ、聞けるような間柄でも雰囲気でも無いけどさ。
――《永続飛翔》――
足下の地面までもが黒い液体へと姿を変えていく。俺はそれに飲み込まれる前に《永続飛翔》スキルで宙へと逃れる。逃げ遅れた分身体1号が足下の液体に飲み込まれ、そのまま強い圧力をかけられ、体をねじ切られる。うひぃ、グロい。そして、分身体1号が消滅する。ああ、やられちゃったな。仕方ない。
――《二重分身》――
俺の目の前に雷霆の斧を持った分身体1号が現れる。空中に現れた分身体1号は、そのまま落下し、下の黒い液体に飲み込まれ――ずに、ぼよよーんと跳ね返っていた。へ? そして、黒い液体から伸びた触手のような液体に足を掴まれ、その液体の中へと引きずり込まれ、先程と同じように圧殺されていた。
俺の不注意で生まれたばかりの分身体があぁぁ。あー、うん。グロいな。
また呼び出すか。
――《二重分身》――
改めて雷霆の斧を持った分身体1号を呼び出す。
――《永続飛翔》――
すぐに《永続飛翔》スキルを使い分身体1号を浮かせる。危ない、危ない。俺は学習するからなッ!
黒い液体の一部が盛り上がり、姿を変えていく。次々と、黒い液体から色々な形の生き物が生まれていく。はぁ、こんな中、空を飛んで神殿まで行かないとダメなのか。