10-49 いざ行かん、帝都突入
―1―
兵と兵がぶつかりあう。
地響きを上げ、大地を踏みならし進み、ぶつかる。剣と剣がぶつかり合い、その隙間を埋めるように矢の雨が、魔法の塊が飛び交う。
「ラン王、ここは任せてください」
兵を指揮していたゼンラ少年がこちらへと振り返る。
むむむ。
「王様、飛んで行きたい気持ちは分かるんだぜ。ただ、これは人と人の戦なんだぜ。俺たちに任せて欲しいんだぜ」
キョウのおっちゃん、人と人って言うけどさ、帝国側で捨て駒のように歩兵をやらされているのはオークやゴブリンなどの魔獣だ。うちの兵隊だって、そういった人と区別のつかない魔獣や魔族が中心だ。言っちゃあ悪いけど、蟻人族の方々も人とは遠い姿をしている。それなのに、それを理由にされるのはなぁ。
「ジジ、ラン王は力を、そのお力を残して欲しい」
盾を持った蟻人族の方にも、そんな事を言われる。この人は指揮官の護衛って感じだな。ソード・アハトさんは敵陣に切り込んで行っているからなぁ。
はぁ、温存って言ってもさ、俺はMPを回復し放題だしさ、俺の力なら味方の被害を少なく出来るんじゃないか?
「ラン王。ラン王は王なのです」
ゼンラ少年が深い事を言う。うーむ。この少年の方が王としては大先輩だしなぁ。でもなぁ。
「皆にも活躍の場を、花を持たせて欲しいんだぜ。全てが終わった後に何もしていなかったと思いたくないんだぜ」
まぁ、その気持ちは分かるよ。それに彼らは彼らで、俺が勝つ事を、その後のことを考えてくれているんだから、俺がお節介を焼くのは野暮なんだろうって事もさ。でもなぁ、そのままって嫌じゃん。
『分かった。機が来るまで、自分はここで待とう』
と言うわけで、まぁ、俺は分身体を二体、ちゃっかり戦場に送り込んでいるのだったッ!
二体の分身体を操作し、戦場を駆け巡り、戦況を変えていく。
あ、バーン君が背後から斬りかかられている!
俺はとっさに盾を持った分身体2号を動かし、バーン君の背後からの一撃を盾で防ぐ。おー、斬りかかった剣の方が折れたぞ。このブルースターって盾、恐ろしい性能だなぁ。
にしてもバーン君は不甲斐ない。冒険者だから、魔獣退治や迷宮の探索が得意でも、こういう乱戦での対人戦は苦手なのかなぁ。
―2―
「開きます」
ゼンラ少年の言葉通り、人の海が別れ、そこに道が出来る。その道の先にあるのは帝都だ。
「王様、今がチャンスなんだぜ」
ああ、皆が作ってくれた、この機を逃すわけにはいかないな。
『行ってくる』
俺の天啓にゼンラ少年が頷く。
「ご武運を」
『卿も無理せず』
俺の天啓を受けたゼンラ少年は笑う。とても少年らしい笑顔だ。
「はい。皆さんが突入された後は、時間を稼ぎ撤退します」
まぁ、この無駄に有能な少年なら大丈夫だろう。この賢い少年が腐敗した帝都でくすぶって何も出来なかったんだから、その気持ちはどれほどだったんだろうな。
「王様、早く行くんだぜ」
ああ、そうだな。
――[エル・ハイスピード]――
風の衣に包まれ、戦場を、その隙間を駆け抜けていく。俺の横にいるのはキョウのおっちゃん。
そして、分身体1号が、
「ちっ。遅いぜ」
次にバーン君と分身体2号が、
「ジジジ、ラン王、切り開いていく」
最後にソード・アハトさんと合流する。
皆で戦場の隙間を抜け、
「ジジジ、ラン王、城門が開く」
皆の協力で開かれた帝都の門をくぐり抜ける。
そして、俺たちが通り抜けたすぐ後に、背後の門が閉じられた。
「ちっ。ギリギリか」
バーン君が長い髪を掻き上げている。
「静かなんだぜ」
門を抜けた帝都の中は静かだった。人の姿が見えない。おかしい。兵の姿が見えないのは何でだ? 外の兵が全て? いやいや、そんな馬鹿げた事をする人間はいないだろう。
なのに、何でこんなに静かなんだ?
普通の帝都の住人の姿も見えない。
おかしい、おかしすぎる。
このまま旧ノアルジ商会まで向かうか?
「ジジジ、ラン王」
ソード・アハトさんが3本の手を伸ばし、俺たちが動かないように合図を送る。
その瞬間だった。
何かが迫る。ソード・アハトさんがとっさに手に持った剣を交差して構える。その場所に何か金属がぶつかり、そのまま抜ける。
「良い獲物よ」
何かが走り抜け、バーン君の元へ迫る。
「ちぃぃぃっ!」
バーン君がとっさに剣を構えるが、それよりも早い。早く、分身体が盾を割り込ませる。何かが盾に弾かれ、そのまま後方へと大きく飛ぶ。オートモードにしていないはずの分身体2号が勝手に動いた? いや、そうじゃない、それよりも、だ。
そして、それが、ふわりと着地する。
現れたのは剣聖のじじいだった。
出てきたかッ!
「次は無いと言ったはずが、のう」
剣聖のじじいがニタリと笑う。
「そんな話、初耳だぜ」
俺は分身体1号で応えておく。
「これは異な。確かに真っ二つにしたはずの者が生きていて、しかも二人とは」
あー、剣聖のじじいの認識だとそうなるのか。
そして、さらに空間が揺らぎ、人が現れる。
「俺は、俺の島を荒らすヤツは許さねぇって、お前たちは知ってるはずだがな」
手首を鳴らしながらフロウが現れた。何処から、どうやって現れた? さっきまで気配なんて無かったぞ。
「やれやれ、結局こうなるだか……」
フロウの影に控えるようにフードの男も現れる。まさか、人攫いのダナンか!? こ、こいつ俺がやっつけたと思ったのに生きていたのかよッ! しかもフロウの味方をしているのかよッ!
「ランの旦那」
キョウのおっちゃんが俺に呼びかける。ああ、分かっているぜ。
こいつらの存在が見えなかった。人が居なかったのもそうだ、
罠だったワケだ。
それだけ自分たちの実力に自信がある、というワケか。




