10-45 魔人族の頼み事とは?
―1―
「まずは一つ目、ここから行けるのは星の神殿だ」
魔人族の長が帝都を指差す。
「ここを守っているのはスターマインという天竜族と星獣……」
と、そこで言葉を句切り俺の方を見る。な、何だよ?
「そうだな、星獣様たちが守っている」
帝都が星の神殿なのか。星獣は元々、その神殿を守っているから星獣って呼ばれていたんだよな?
「次に二つ目、ここから行けるのは月の神殿だ」
魔人族の長が迷宮都市近くを指差す。
「ここを守っているのはルナティックという天竜族と機械で造られた人らしいな」
ルナティック? それに機械で造られた人? って、もしかして、あのメイドロボたちかッ!
『デザイア、そのルナティックなら、すでに自分が殺した』
「な、んだと?」
魔人族の長が驚いた顔で俺を見る。おや? この情報は手に入れていないのか。もしかして、情報が結構、古いのか? それに、な。
『すでに、その二つなら見つけている』
んだよなぁ。今更、その情報を貰ってもな。対応している神殿が分かったのは、有り難いけどさ。
「さすがは世界の敵と呼ばれるだけはあるということか」
魔人族の長は一人でブツブツと呟き、何やら納得していた。そして、元のこちらを馬鹿にしているかのような笑い顔へと戻る。
「しかし、三つ目は見つからない。そうだろう?」
魔人族の長が自信ありげにこちらを見る。まさか、知っているのか?
「ここだ」
魔人族の長が石を置く。
それは机の上に広げた地図から左側に外れ、何も無い場所だった。地図外?
ん?
ちょっと待てよ、これ、この地図。
今更だけど、あー、多分、そういうことかッ!
これ、上下が逆だけどさ、俺の居た世界と、そっくりじゃないかッ!
ナハンが小っちゃな島国で、あー、そうだよな。そういうことか。もしかすると、この世界は俺の居た世界の平行世界とか、そういう感じなのだろうか。近い世界だと似た部分が出てくるとか、SFで良くあるよな。俺は、そういった世界に落ちてしまったんだろうか。
で、だ。
改めて、そう考えると、この地図には、あるはずの大陸がないよな。つまり、そういうことか。
『そこにあるんだな?』
俺の天啓を受けた魔人族の長は、その顔からにやついた笑いが消えた。
「ここも知っていたのか?」
いやいや、知らなかったし、思い付きもしなかったよ。
「そうだ。最後は、ここ、封印大陸にある」
魔人族の長の言葉に、皆が首を傾げる。皆、知らないのか? まぁ、俺も知らなかったんだけどさ。
「封印大陸とは何なんだぜ?」
キョウのおっちゃんが審議を正すように目を細め、魔人族の長を見つめる。そうなんだぜ。
魔人族の長はキョウのおっちゃんを無視し、俺を見る。
「何者かが、まぁ女神だろうが、大陸ごと結界で覆い、見えなくした大陸だな」
魔人族の長が俺へと説明する。大陸ごと見えなくするとか、まぁ、そんなことをするのは女神くらいだろうけどさ。陰険だよなぁ。3つの神殿を攻略しろって言ってさ、その1個を見つからないように隠しているとか、攻略させる気がなかったんだろうな。
「何で、それを、見えないはずの大陸を知っているんだぜ」
キョウのおっちゃんの視線は鋭い。そりゃあ、疑わしいよなぁ。
「急ぐな」
魔人族の長はニヤリと笑う。
「それが俺の頼みと直結する内容だからな」
あー、そういえば交換条件で手助けして欲しいって言っていたよな? でも、ここまで教えてくれたら――そうだよな、教えすぎだよな? この魔人族の長ってさ、駆け引きとか得意そうなのに、今回は教えすぎている気がする。何を企んでいる?
「俺たちの頼みは、俺たち魔人族の願いは、お前たちにとっても悪い物ではないはずだ」
魔人族の長が煽るように両手を広げ、皆を見回す。もったいぶるなぁ。
「この地にある砂漠の中心から行ける、この神殿は、太陽の神殿。守っているのはソルアージュという天竜族だ」
あれ? 日の神殿じゃないんだ。太陽だったか? うーん、まぁ、名前はどうでもいいか。
「そして、そこに一人の星獣様が囚われている」
囚われている? 星獣なのに女神の味方じゃないんだ。まぁ、俺みたいな例外もいるから、他にもいたのかな。
「そこに囚われている星獣様のユエイン様を助け出して欲しいというのが、俺たちの頼みだ」
魔人族の長が頭を下げる。えーっと、意外というか、そんなことなのって言っていいのか、どうなのか、もっと無理難題を言われるかと身構えていたから、女神に敵対する人物を(って、星獣か)を助けるのはやぶさかでもないし、本当にそれでいいの?
「頼む」
頼む、か。
「主殿、どうするのだ?」
話の流れに奇跡的についてきていたミカンちゃんが聞いてくる。
「王様、俺は反対なんだぜ。話がうますぎるんだぜ」
まぁ、それは俺も思うよな。
「俺はお前たちには聞いていない」
そのキョウのおっちゃんの言葉を聞きとがめたのか、魔人族の長が反応する。
「俺は、あの全てが思い通りになると、無関心な女神が、唯一、世界の敵と名付け関心を寄せている、この王様にだけ用があるんだよ」
なるほど。だから、周囲を小馬鹿にした態度だったのか。最初から、この魔人族の長には俺しか眼中になかったわけだ。だから、俺には頭を下げる、と。
『分かった。その頼み引き受けよう』
「引き受けてくれるか!」
魔人族の長が喜びの声を上げる。
『しかし、だ。自分の今の力は皆の助けがあってこそ。自分の仲間をないがしろにして欲しくはない』
そうなんだよなぁ。
これから、三神殿を攻略するにしても、皆の協力が必須だからな。これからさ、仲間になるんだったら、やはり皆と仲良くやって欲しいわけよ。