10-44 魔人族の長、デザイア
―1―
『何の用だ?』
目の前に現れた魔人族の長に天啓を飛ばす。
「相変わらず恐ろしい姿をしているな」
恐ろしい姿? ここには俺と14型と羽猫とキョウのおっちゃんとミカン、シロネくらいしか居ないぞ。まさか14型が威嚇でもしているのか?
「おっと、俺は戦いに来たわけじゃないからな、落ち着けよ? 前も言ったが、俺みたいなチンケな魔人族が、お前たちをどうにか出来るわけがないだろう?」
その言葉とは裏腹に、何とか出来そうな油断ならない表情をしているようだけどさ。本当に何の用なんだ?
『ジョアンとセシリーはどうした?』
「ああ、勇者たちか。『お話』して、通して貰っただけだ。ちゃんと誠意を持って話せば分かって貰えるんだよなぁ」
目の前の魔人族の長が肩を竦める。こ、こいつ……。
「おいおい、落ち着けよ。何度も言っているが、俺に戦う意志はない」
油断ならないヤツだな。
『もう一度聞こう。何の用だ?』
魔人族の長が再度、肩を竦める。
「お前たちの知りたがっている情報を教える。その代わり手助けして欲しいだけだ」
知りたがっている情報? そんなもの、あったか? まぁいい。
『分かった、内容を聞こう』
「ら、ランの旦那?」
キョウのおっちゃんが驚いたように俺の顔を見る。まぁ、魔人族と人って長年敵対していたみたいだからなぁ。でもさ、それも女神によって敵として造られていたからって話じゃんか。俺が敵対する理由にはならないからな。まぁ、でもさ、話の内容次第だけどな。
「いいや、ここでは話せないね」
魔人族の長は俺たちを、周囲を見回す。
「ラン、その男、油断ならない!」
と、そこへセシリーに肩を借りて、何かに打ちのめされたような姿のジョアンが現れた。セシリーの方がさ、背が格段に低いのに、今では背が伸びたジョアンがその肩に寄りかかっていると引き摺られているような姿になるな。って、ジョアン?
俺は改めて目の前の男を、魔人族の長デザイアを見る。
「おいおい、俺は『お話』しただけだからな?」
今のジョアンを何とかするって、こいつ油断ならないな。
「主殿、敵ですか?」
先程まで幸せそうにご飯を食べていたミカンが事態に気づいたのか、刀に手をかける。
「むふー、彼を、あそこまでにするなんて、油断ならないですねー」
シロネも身構える。
みんな戦闘態勢って感じだな。いや、羽猫は欠伸をしているし、14型はこの状況でものんきに俺に水を飲ませる隙を覗っているし、って14型、空気を読めよ。
「おいおい、あんたは話がわかるよな? こいつら、何とかしてくれよ」
魔人族の長は肩を竦めている。肩を竦めるのが癖になっているのか? 皮肉屋ぽいもんなぁ。
『ジョアンが先に手を出したのだろう。仲間の非、そこは謝ろう』
「ラン!」
ジョアンが叫ぶ。
『しかし、だ。仲間に手を出されて自分が黙っていると思うのか? 余り舐めないで欲しいな』
まぁ、戦いに来たのなら、厄介なジョアンにトドメを刺しているだろうからな。ジョアンが無事な時点で話に来たのは本当なんだろうな。
「やるねぇ。さすがは女神が敵と認めた存在だよ。が、断っておくが、その勇者は自分の力で怪我しただけだからな」
反射の指輪か。うーん、ジョアン君も成長して落ち着きが出てきたと思ったのになぁ。鬼人族の血か、今でも、結構やんちゃだよなぁ。
『話す為の条件は?』
俺の天啓を受け、魔人族の長が頷く。
「あんたの仲間、主要な人員を集めて欲しい。それと冒険者なんかの戦える人員も欲しいな。人が揃ったときに話す」
魔人族の長が真剣な表情でこちらを見る。えーっと、大丈夫かなぁ、これ。主要な人員が集まった瞬間、自爆とか、何か一掃するような罠が発動するとか、無いよな?
『疑え、と言っているような内容だな』
「ランの旦那。俺も罠だと思うんだぜ」
「主殿、斬るべき、だ」
魔人族の長は肩を竦める。癖になっているんだ、肩を竦めるの、って感じだなぁ。
「俺からは信じて欲しいとしか言えないな」
敵地と思われる場所に1人で乗り込んで、この態度、か。
「主殿、魔人族、信じるに値しません」
「むふー、私も反対かなぁ」
俺も魔人族には良い思い出がないからなぁ。
まぁ、でもさ、もし、これが罠だったとしても、それを食い破れるくらいじゃないとさ、女神には勝てないだろ。
『分かった。皆を集めよう。14型、頼む』
14型が優雅にお辞儀を返し、その姿を消す。
さあて、鬼が出るか蛇が出るか。
―2―
皆が集まる。いつものグレイシアの面々にセシリア女王と勇者ジョアン、それにバーン君、探求士3姉妹、おっさん2人だ。
「おいおい、呼ばれて来てみれば、魔人族だとぉ」
「芋虫の王様よ、どーなってんだよ」
すぐにおっさん2人が絡んでくる。こいつらは本当に分かりやすいなぁ。
「ラン王、これは……?」
猫人族のユエも少し困惑気味だ。
「これで全員か?」
魔人族の長が俺たちを見回す。
『ああ』
俺の姿だと頷く事が出来ないので、天啓を返す。
「これを見てくれ」
魔人族の長が机の上に1枚の紙切れを広げる。
「こいつぁ!」
キョウのおっちゃんが驚きの声を上げる。
「そうだ。この世界の地図だ」
地図? ああ、確かに地図だよな。そんな驚くような事なのか?
「おい、何で、お前なんかがこんな物を持っているんだよ!」
トンガリが喚く。
「お前みたいな三下には分からない理由だな」
魔人族の長はニヤリと笑い肩を竦める。
「な、なにおぅ!」
トンガリが魔人族の長に突っかかろうとして、隣のおっさんに止められていた。まったくわざと挑発するように言うんだから、この魔人族は性格が悪いな。
『貴重な物なのか?』
俺の天啓にキョウのおっちゃんが頷く。
「俺でも見た事がないんだぜ。これがあれば国が買えるほどの、いや、あらゆる国が喉から手が出るほどの、未だ、どの国も持っていないお宝なんだぜ」
へー。凄いんだ。《転移》スキルもあって、空を移動できる俺には、余り価値があるように見えないな。
「まずはここ」
魔人族の長が帝都の辺りに石を置く。
「次にここ」
次に迷宮都市の近くに石を置く。
ん?
ま、まさか!
「そこの王様は気付いたようだな。そうだ、情報ってのはこれだ!」
そうだよ。
これって地下世界への入り口の場所じゃないか!