10-43 眠りについたフミコン
―1―
やはり、あの超巨大な天使像の中に14型と同じメイドロボがいたんだな。
まぁ、何にせよ、勝てて良かったよ。
で、だ。
この惨状をどうするんだ?
最後に市街地に戻ったから、市街地がボコボコに。いやまぁ、それ以前にこのズタボロ状態の城をどうするんだって話だよなぁ。これ、もう、俺、住めないぞ。コイツが抜け出た穴も凄いコトになっているだろうし、凄いが凄いッ!
『フミコン、勝ったのは勝ったようだが』
「ほっほっほっ。ここの燃料もギリギリだったようじゃのう」
フミコンの言葉を証明するかのように、周囲に映し出されていた外の景色が明滅する。そして持つ力も無くなったのか、氷に覆われた鉄塔が巨大な手から滑り出す。鉄塔を覆っていた凍りも砕け散り、超巨大な天使像から抜け落ちる。そこで外の映像が完全に消えた。エネルギー不足か。
『ところで、フミコン。安易に引き抜いたが、あの鉄塔は何だったのだろうか?』
いかにも武器にしてくださいと言わんばかりのおあつらえ向きなサイズで助かったけどさ。この人型の城の為に武器として用意していたワケじゃないよな?
「あれは城からの声を外に届ける為の施設になる予定だったんじゃがのう」
あー、そういう役割になる予定だったんだ。放送塔みたいなものかな。そのうち、ラジオ放送でも出来るようになったかもしれんのか。
『む?』
室内の灯りも明滅し出した。
「そろそろ持たぬかもしれんのう」
燃料切れか。
「ラン王、そのコンパクトを開くのじゃよ」
コンパクトを? いやいや、ここで開いたらさ、この城の屋上に出るんだよ? 今、こんな状態の城の屋上って、俺、空中にぽんっと現れるんじゃないか? それとも、城の屋上ではなく、さっきまで城があった場所に出るのか? それはそれで大穴の上空に現れるから、不味いじゃん。
フミコンが、どこか疲れたような、しかし、真剣な瞳でこちらを見る。ま、まぁ、フミコンを信じて使ってみるか。
コンパクトを開ける。
……。
しかし、何も起こらない。
あれ?
そして、時間をおいて、立っていられないほどの揺れとともに大きな音が響き渡った。
何が起こった?
「この城が元の場所に戻ったのじゃよ」
な、なるほど。コンパクトを開けた事によって城ごと転送されたのか。そういえば場所が固定されていて動かせない的な事を聞いたような……。
ま、まぁ、これで元通りだな。
と、そこで突然、フミコンが倒れた。
『フミコン!』
フミコンがヨロヨロと顔だけを動かす。
「どうやら、この幻影体を動かす力も無くなってきたようじゃのう」
いやいや、言ってる場合か。って、え?
そ、そういえば、フミコンは燃料って言っていたけどさ。この城の灯りとかって、フミコンの魔力で――そういうことかッ!
「ラン王、申し訳ない……少し……ねむら……せ……ほしい……のう」
少年姿のフミコンの動きが完全に止まる。
お、おいフミコン、嘘だろ。
そんな、そんなことって。
お前、命の炎を全部、これを動かす為に使ったとでも言うのか? お前が居なくなったら、他の魔族はどうするんだよ。まだ幻影体は全員分、完成していないよな? 女神との決戦まで、お前にはまだまだ手伝って貰う事があるんだぞ。
……。
……。
「あ、ラン王。明日には灯りがともせるくらいには回復するからのう。不便をかけるのう」
フミコンが、ひょこりと顔だけ上げて元気に喋っていた。いや、お前、焦らせるなよ。
まったく。
しかし、アレだな。
今日は、この後片付けで一日が潰れそうだな。それもまぁ、皆が戻ってきたら、だけどさ。こんな時間が無いときに、ホント、女神は嫌らしい性格をしているぜ。
―2―
皆で生活が出来るレベルまで片付け作業を行う。
そして、それは次の日のお昼の事だった。
「マスター、マスターに捧げる為の水が足りないのです。気を利かせてささっと水を作るのです」
いや、お前……。俺の為の水なんだよな? なんだか、14型さんもよく分からない存在になってきたなぁ。有能は有能なんだが、この子も大概、バグった存在だよな。
『14型、そういえば、また何か力を取り込んだのか?』
そこで14型がゆっくりと微笑む。
「乙女の秘密ですが、マスターにならばお教えします」
乙女の秘密って、なぁ。
「3型の能力は人形遣いなのです。過度な期待をしているマスターの為に説明すると、あそこで幸せそうに食べ物をがっついていやがる小さな脳みその猫ではありませんが、これを使うよりも殴った方が早い程度の能力です」
あ、はい。さらっと無関係なミカンちゃんをディするのは止めようぜ。まぁ、でも人形遣いって能力だから、あの超巨大な天使象を操っていたんだろうな。無人機のような単調な動作じゃなくなっていた分、俺1人だったら苦戦していたかもしれないからなぁ。意外と操る能力も有能な気がするんだけどな。
「ランの旦那!」
俺たちが食事を楽しんでいると、キョウのおっちゃんが駆け込んできた。慌てているからか、昔の呼び方に戻っているぜ。
『キョウ殿、どうしたのだ?』
俺の天啓を受けたキョウのおっちゃんは、何か喋ろうとするが、上手く言葉にならないのか、クチをぱくぱくと動かすだけだった。
『キョウ殿、落ち着くのだ』
そして、キョウのおっちゃんが大きく深呼吸をする。
「ああ、落ち着いたんだぜ。王様、王様に客人が来ているんだぜ」
客? キョウのおっちゃんの慌てよう、まさか、女神が直接乗り込んできた? いやいや、まさかな。
「今、ジョアンと女王が睨みをきかせているが、対処に困る相手が来ているんだぜ」
誰だ?
『行こう』
まずは会ってみないとな。誰なんだろう。
「いいや、その必要はないな」
誰だ?
そして、その言葉とともに現れたのは、魔人族の長、デザイアだった。
何で魔人族がここに!?