10-42 見かけだおしなのです
―1―
『言われているぞ、フミコン』
俺の天啓を受けたフミコンが心底楽しそうに口の両端を上げた笑顔を作る。化石扱いは酷いよなぁ。
「どうやら、相手はこちらを知っているのかもしれませんのう。そうであれば、随分と楽なんじゃがのう」
知っている方が楽なのか? にしても、相手は誰だ? あの超巨大な天使像って人が乗り込めるのか? むむむ。
先程まで城だった巨大な人型が浮かび上がる。そのまま、すぃーと滑るように動き、新市街地を乗り越えていく。途中、進行方向に鉄塔があったが、その前でさらに上昇し、乗り越え進んでいく。俺はそれを城の中から眺めていた。何だろう、この城の上空にカメラでも浮かんでいるかのような視点だな。城から見た視点ではなく、俯瞰視点とは――まぁ、これだけ大きい物を動かすとなると、その方が楽なのかな?
『歩くのではなく、飛ぶのだな』
しかも、さっき無理矢理鉄塔を乗り越えていたしさ、方向転換とか出来ないんじゃないか?
俺の天啓を受けたフミコンはふぉっふぉっふぉと楽しそうに笑っていた。
「普通は歩きですじゃよ。ただ、市街地を抜ける為に仕方なく浮かんでおるのじゃよ。これは残り少ない燃料をさらに消費するでのう、余り使いたくはなかったんじゃがのう」
へ?
「飛び跳ねたり出来ないからのう、仕方ないのじゃよ」
飛び跳ねたり出来ない? えーっと、もしかして、こいつ、かなり見かけ倒しか? いやいや、これは普通に戦った方が良かったんじゃないか? 浮かんでいるから、自由に動けなかったんだと思いたいなぁ。
動くのを止め、こちらを待ち構えていた超巨大な天使像の前に着地する。見直してみても、超デカいな。まぁ、こっちも負けてないけどさ。
「お待ちしておりましたわ」
超巨大な天使像から声が発せられ、それにあわせるよう巨大な翼を前へと折りたたみ、天使像がお辞儀をする。器用な事をするなぁ。
「あら? 喋れないのですね。うふふ。では、参りますわ」
超巨大な天使像が動く。
『フミコン、武装は!?』
「ラン王、武装ですと? 拳一つあれば充分ですからのう!」
フミコン、お前までそんな脳筋みたいなことをッ!
超巨大な天使像が、その翼を振り回し、こちらへと叩き付けてくる。それを人型の城がゆったりとした動作で回避する。巨大な翼が城の目の前を通過する。併せて張り裂けるような強風が叩き付けられるが、城はビクともしない。
その後も、何度も何度も超巨大な天使像から翼が叩き付けられるが、人型の城は、それをゆるりゆるりと回避していく。それは、まるで相手の攻撃を予測しているかのような動きだった。鈍重な城が、素早い攻撃を回避しているだとッ!
『フミコン、これは!?』
「勘、ですかのう」
フミコンはニヤリと笑う。そういえば、フミコン、やきうでも活躍していたな。てっきりインドアタイプかと思っていたら、意外と戦闘もいけるクチなのか?
「これはどうかしら?」
超巨大な天使像の瞳から破壊の光がほとばしる。それすらも読んでいたフミコンが超巨大な天使像の背後へと回り込み、破壊の光を回避する。しかし、そこを待ち構えるように天使の羽が迫る。いや、それにあわせるように巨大な人型の城が足を上げた。回し蹴り? おいおい、フミコン?
フミコンが何かのボタンを押す。
すると人型の城の蹴ろうとしていた足が開き、中から無数の爆発が起こる。爆発が超巨大な天使像の翼を襲い、それを破壊する。そして、こちらは、その爆風の勢いも借りて、後方へと飛ぶ。何が拳一つだよ、ちゃんと武装があるじゃないかッ!
そして着地する。着地した瞬間、人型の城の足が先端から潰されるように砕けた。ぐちゃっと行ったぞ、ぐちゃっと。
『フミコン?』
「さすがに耐えきれなかったようですのう」
いやいや、簡単に言うけどさ。
「ラン王、心配めされるな、じゃよ。まだ軸が残り動くからのう、歩く事くらいは出来るのじゃよ」
いやいや、それ、全然、大丈夫じゃないからな!
「あらあら、あらあら」
超巨大な天使像があらあらうふふんと喋りながらこちらへと迫る。あー、あらあら、うるせぇよ。
『フミコン、武装は?』
「本当に、アレで終わりじゃよ」
いやいや、あのー、フミコンさん?
超巨大な天使像が人型の城の目の前までゆっくりと近づき、そのまま巨大な羽を叩き付ける。こちらを一撃で破壊するつもりとしか思えない、容赦の無い一撃だ。えーっとフミコンさん?
「任せるのじゃよ!」
しかし、それを読んでいたかのように人型の城が壊れた片足を軸としてコマのようにまわり、巨大な羽の叩き付けを回避する。さらに、そのまま、その勢いを乗せ巨大な拳で殴りかかる。巨大ロボでカウンターをとるだとッ!
凶悪なスピードと質量を伴った巨大な拳が天使像に炸裂する。そして、その勢いのまま巨大な拳が先端から破壊されていく。な、なんだとッ!? 向こうの方が固い――から、なのか?
天使像の傷は、先程の爆発で破壊した片方の翼だけだ。殴りつけた体の方は無傷のままだった。
「ラン王……」
フミコンがこちらへと振り返る。
「少し予想外の展開じゃのう」
って、言ってる場合かッ!
どうする、どうする?
恐ろしい勢いで殴りつけたのに無傷で、逆にこちらの方が壊れるとか……。
武装は……?
「少し驚きました。ド低脳の癖に、○○○○なんですから、お仕置きが必要かしら」
超巨大な天使像から声が発せられる。こいつ、今、何て言った? この超巨大な天使像を動かしているのって、多分、例のメイドたちの1人だよな? こいつも、こんな感じなのかよ。こいつらを作ったヤツって性格が悪いんじゃないか? 歪んでいるんじゃないか? このメイドロボを作ったのは誰だーッ!
……。
そうだッ!
途中で市街地にあった鉄塔。あれだッ!
『フミコン、あの鉄塔まで辿り着けるか?』
「何とかやってみますかのう」
フミコンが頷く。
超巨大な天使像から破壊の光が走る。そして、人型の城が軸足を回し、その勢いで飛び上がる。が、高さが足りず破壊の光の爆発に巻き込まれる。しかし、その勢いで大きく後方へと飛ばされ、城の巨体が地面を凹ませ、地響きを立てながら滑った。この質量、この大きさの城を吹き飛ばすとか、こいつの破壊光線、どんだけの威力だってんだよ。
人型の城が辿り着いた先は、鉄塔の横だった。さすがはフミコンだぜ。
そして、鉄塔の天辺には、何故か14型がいた。こいつ、俺の行動を読んでいたのか?
14型は自身の胸を叩いている。
……ん? どういう意味だ?
……。
まさか!?
「あらあら、逃げ出すなんて、トドメが欲しいのかしら?」
超巨大な天使像がこちらへと迫る。
「ラン王、どうするのじゃ?」
超巨大な天使像が翼を動かす。
『フミコン、鉄塔を持ち上げ、ヤツの胸を貫けッ!』
俺の天啓を受け、フミコンが人型の城を動かす。鉄塔を根元から折り、持ち上げる。
「あらあら、それで何とかなると? 先程の結果を忘れたのかしら。本当に○○○○なんですから」
超巨大な天使像の翼が振り下ろされる。そして、その下を抜けるように鉄塔が進む。その先端には14型が乗ったままだ。
――[エル・アイスウェポン]――
俺の魔法に反応し、鉄塔が巨大な氷の槍と化す。その瞬間、14型は軽く飛び、再度、氷の槍に着地した。
「な!」
超巨大な天使像が驚きの声を上げる。
そして、氷の槍が、相手へと――優雅なお辞儀をしていた14型ごと、やつの胸に突き刺さり、そのまま貫いていった。貫いた先には14型の姿はない。
超巨大な天使像の動きが止まる。
しばらくして、氷の槍を伝って、超巨大な天使像の体内から14型が現れる。
その手にはピンク色の球体があった。