2-76 湖面
―1―
俺は白板に書かれた、今回受注したクエストに横棒を記入する。これが受注したって証らしいからな。
そのまま冒険者ギルドを出る。
さ、どうするかな。食事に関しては使わなかった保存食があるし、それを食べてしまうか。良し、ならばすぐに出発かな。あ! と、その前に道場に戻って出かけることを伝えないとな。今日中には戻ってこれないかも知れないしなぁ。
そのまま、すぐに道場に戻り、中に居た門下生の一人にクエストの攻略に向かうことを伝えた。すると門下生の一人は親切なことに小迷宮の詳細な位置まで教えてくれた。昨日、一緒に稽古をしたことが良かったのか、俺の姿も割と受け入れられているようだ。よしよし。と、では里の外に出ますか。
俺は守衛の人に声をかけ、ステータスプレート(銀)を見せ、里の外へ。これも顔を覚えて貰うため、魔獣と間違われないための地道な努力だな。
里を少し離れたところで俺はチェックを入れることにした。
――《転移チェック2》――
よし、これですぐにここへ戻ってくることが出来るな。やっぱ換金やクエスト完了はスイロウの里に戻るべきかなぁ。いや、でもぽんぽんと往復していたら不審がられるだろうか。転移スキルってレアぽい感じだもんなぁ。バレたからどうなるってことも無いのかも知れないけれど、あんま自分の手札を知られるのも良い気がしないしなぁ。まぁ、今は隠す方向で行こう。もっともっと俺が強くなって有名になったら考えるって事で。
じゃ、まぁ、小迷宮『湖に浮かぶ洞窟』だったかな、に向かうとしますか。
―2―
しゅたたたたっと森の中を駆けていると木の1つからトレントという線が延びているのが見えた。
お、トレントって擬態しているのか。うむ、さっそく見つかったな、幸先良いぞー。
俺は擬態しているぽいトレントに近づく。多分、これ寄りかかるとか近寄った瞬間に動き出して、その身に絡まった蔦を伸ばして締め上げてくる系だよなぁ。……こいつもある種の触手系だよな。ま、燃やすけどね。
俺は風槍レッドアイをサイドアーム・ナラカに持たす。トレントには弓の効きが悪い気がするし、余り遠距離だと魔法が怖いからなぁ。
よし、攻撃可能距離だな。トレントは俺が少し近づいたくらいでは擬態を解く気配が無かった。では、ぱぱっと倒しちゃいますか。
――《スパイラルチャージ》――
槍が赤と紫の螺旋を描き目の前の木を抉り貫いていく。槍は貫いた先からその周りを焦がしていく。はぁ、ホントはWを使いたいんだけどなぁ。鉄の槍がまた壊れちゃっているからね、仕方ないね。あ、そういえばフウキョウの里に武器屋があったか見ていないな。焦って冒険に出すぎたか……。
俺の攻撃を受けトレントがキュイキュイと悲鳴を上げる。あ、トレントも悲鳴を上げるんだ。
一撃では倒しきれなかったのか擬態を解いたトレントが蔦を伸ばし攻撃してきた。む、危険感知は発動しないか。……余裕で避けられるってことだろうな。
危険感知が発動しない通り、蔦の攻撃は目で見て余裕で回避することが出来た。そのまま引き抜いた赤槍を先程突き刺した穴に向けて叩き付ける。
ぐきゃっと言う嫌な音ともトレントにヒビが入り、そこから折れていった。俺は折れたトレントの死骸を魔法のウェストポーチXL(1)に入れる。うーん、トレントには突くよりも叩く方が効いている気がするんだよなぁ。でも槍で叩き付けるのか? ……武器が痛みそうだよなぁ。
その後も4体ほどトレントを見つけ倒していく。線を見て複数戦になりそうなら迂回し必ず1体のみと戦う状況を作る。うん、1対1なら楽勝だな。これで、この弱さでEランクか……。擬態しているから、それがやっかいな魔獣ってことなのかな。ま、線が見えている俺には擬態なんて意味が無いんだけどな。しかしまぁ、トレントのエンカウント率が高いよなぁ。もしかしてこちらの島ではトレントが本土でのホーンドラットみたいな扱いなんだろうか。
やがて日が落ちてきた。うお、ここまで進んでも、まだ小迷宮に到着しないのか。仕方ない、今日はここら辺で野宿かな。
――《魔法糸》――
俺は魔法糸を使い背の高い木の上へ。そのまま枝の上に座り、晩ご飯にする。干し肉にパンと水だ。うーん、お腹が膨れれば良いという程度の食事だな。3カ所チェックが出来るなら、進行先ごとにチェックして里に戻るんだけどなぁ。転移スキルも早くレベルを上げたいスキルだよなぁ。あ、後でトレントの魔石を砕いておくか。干し肉に魚醤を垂らすと最高に美味かった。高級なジャーキーを囓っているみたいだよな。うん、さてパンはっと……クソ不味いな。むしゃむしゃむしゃ。しかし、アレだ、魚醤を垂らすと喉が渇くな。水、水と。あ、皮の水袋の水が残り少ないな。明日にでもアクアポンドの魔法で水を作っておくか。
さ、そろそろ寝るかな。
俺は魔法糸を使い木の幹に体をくくりつける。これで木の上から落ちることもないだろう。鳥系の魔獣の姿とかは見えなかったし、この高さなら襲われることも無いだろうな。はぁ、こういう時、一人だと不便だよなぁ。パーティなら交代で番が出来るんだけどなぁ。
―3―
次の日、目が覚めたら死んでいた……なーんて事も無く、無事に朝起きることが出来た。よし、体が齧られている何てことも無いな。
それでは出発しますか。
しばらく進むとそれなりに大きな湖が見えてきた。到着したぽいな。あー、しかしこの程度の距離ならトレントを無視して頑張っていれば1日でも到着出来たかも知れないなぁ。ま、初めての場所だし仕方ないか。地図があったわけでも正確な距離数を教えて貰っていたわけでも無いしな。ステータスプレートにオートマッピング機能とか付かないのかなぁ。せめてコンパスくらいは欲しい。太陽の位置で方角を確かめているからイマイチ不安なんだよなぁ。タダでさえ森の中で太陽が見にくいからさ……。冒険者の魔法具とかにコンパスとか無いのかなぁ。
小迷宮は湖の中央に浮かぶ小さな島にあるみたいだった。って、これどうやって渡るんだ。船も無いし、今の俺の体では泳げるか分からないぞ。浮遊も浮かぶだけで動かすことが出来ても移動は出来ないからなぁ。羽が欲しいなぁ。……これは詰みか。
まぁ、悩んでも仕方ないし湖を一周してみよう。何処かに橋が架かっているかも知れないしな。
しかし、何も無かった。
マジかよ。渡り方を聞いておけば良かった。こう言うのって行けば分かる系じゃないのか……失敗したなぁ。
ま、悩んでも仕方ない。無い物は作るしか無いな。こういう時、物語とかだと土魔法や氷魔法で橋を作るんだろうなぁ。ま、そんな力を持っていない俺は地道な作業をするしか無いわけで。
――[ウォーターカッター]――
俺はウォーカーカッターの魔法を使い近くの手頃な木を切り倒していく。よし、普通の木ならウォーターカッターで切断出来るぞ。これが通じなかったらどうしようかと思ったぜ。ま、最悪、風槍レッドアイと切断のナイフで何とか出来たとは思うけどね。
俺は切り倒し加工した丸太を魔法糸で繋いでいく。
そう筏を作るのだ。
丸太を結ぶ糸は自前で作れるからね。楽勝楽勝。ウォーターカッターでオールも作成する。一応長いのも作成しておく。湖面は波など無く静かなものだ。島までの距離も余りあるわけじゃ無いし、これなら普通に進めそうだな。
1時間ほどかけて作った筏を湖面に浮かべる。良し浮いた。
じゃ、行きますか。
4月22日修正
では里に外に → では里の外に