10-40 刻々と時が迫るのです
―1―
楽しいやきうの時間が終わる。
この異世界の常識、自身の信念、立場に従ったセシリー、元の世界の常識に従った俺、その勝負の結果は――俺たちの勝ちだ。
結果を見れば17対16とギリギリの勝利だった。にしても、スキルがあるからか、点取り合戦になって、なかなかあり得ない数字になってるな。何というか、もう少し制限をかけても良かったよなぁ。
「ラン、次は負けないのじゃ」
セシリーは何処か吹っ切れた表情で笑う。次は、って、まさか、3回勝負にしようとか、そういうこと!?
……じゃないよな。ああ、分かっているさ。
『次も勝たせて貰う』
次は、今回みたいにギリギリではなく、もっと時間的に余裕があるだろうからな、もっとルールを煮詰めて楽しくやろうぜ。
そして、セシリーが真剣な表情でこちらを見る。
「ラン、約束通り、わらわの事はランの自由にするのじゃ。しかし、兵達は、わらわの我が儘に関係がない、許してやって欲しいのじゃ」
我が儘、か。女王だもんなぁ。
『自分の頼みは簡単だ。女神を止める、その邪魔だけはしないで欲しい。そして、出来れば手助けをして欲しい』
そりゃさ、手助けして欲しいよ。でもさ、セシリーにはセシリーの信念が、立場があるだろうからさ、俺の邪魔をしないなら、それでいいよ。全てが終わった後、また仲良くやろうぜ。
「ラン……」
俺の天啓を受けたセシリーは驚いたような顔でこちらを見る。セシリーが勝ったら、多分、俺の死を望んだだろうからな。まぁ、釣り合ってないと思ってるかもなぁ。でもさ、いいんだよ、俺はこれでいい。
セシリーは何かを決意したかのような、何かを振り払うかのような、そんな笑顔を作る。
そして、セシリーは懐から光る短剣を取り出し、後ろ髪を切り落とした。へ? 何しているの?
「ラン、今、女王だったセシリアは死んだのじゃ。ここからは、ただのセシリアとして、ランの手助けをするのじゃ」
セシリーは腰に手を当て、胸を反らすように大きく笑う。
『いいのか?』
セシリーは俺の天啓を受け、大きく頷く。
「よいのじゃ。わらわの国は、わらわが居ない程度で何とかなるほど、ヤワじゃないのじゃ。ただ……」
そこでセシリーが溜める。
「欲を言えば、もう少し髪を伸ばしていた方がサマになったのじゃ」
ホント、調子がいいなぁ。
「ラン、兵達は撤退させる。その後、わらわがランに捕まった事にすれば、時間が稼げるのじゃ。後は女神様を止めれば、どうとでもイイワケは出来るのじゃ」
いやはや、女神を止めるまでの間、俺の悪い噂がさらに増えそうだな。まぁ、それで神国軍の動きは止められるだろうからな。上手く利用させてもらうか。
―2―
セシリーが赤騎士、青騎士、若騎士に事情を説明し、兵を撤退させる。セシリーの我が儘に3人は呆れているような顔をしていたが、それでも納得し、兵を率いて撤退してくれた。
現在、グレイシアにセシリーとジョアンが残った状態だ。2人は俺の三神殿攻略に協力してくれるようだ。魔王討伐者の、この2人が協力してくれるのは、本当に助かる。
そして、最後の地下世界の入り口を探しているときに、それは起こった。
「聞こえますか?」
周囲に声が響く。それは念話でも天啓でもなく、純粋な声が世界中に広がっていた。
な? 女神の声か!?
「予定の刻限まで残り一週間を切りました」
女神の刻限まで残り7日。まさか、ここで約束を破る気か!?
「まだ覚悟が決められないあなたたちの為に祝福を用意しました」
女神の言葉は、そこで終わる。祝福?
俺たちは慌てて、外へ、城の屋上へと出る。そこで異様な光景を見る。
空が割れていた。
そして、割れた空から、翼の生えた、まるで陶器で作られたかのような巨大な人形が降ってくる。何だ? 天使像? 20メートルクラスくらいか?
見れば、遠くの空でも同じような物体が落ちているようだ。なんだか、とてつもない数の天使像が降ってきてるぞ。もしかして、世界各地で起きているのか?
「王様、これはヤバイ感じがするんだぜ」
キョウのおっちゃんが目を細める。ああ、どう考えてもヤバイよな。
王城近くに降ってきた天使像が立ち上がり、目を見開く。そして、その瞳から破壊の光りが放たれた。ちょ、洒落にならん。
――[エル・ウォーターミラー]――
とっさに王城前に張った水鏡が破壊光線を跳ね返す。光線は、地形を削りながらあらぬ方向へと飛んでいった。な、洒落にならない威力じゃん。
『壊してくる』
俺は皆に天啓を飛ばす。
「ラン!」
ジョアンが叫ぶ。ああ、城に、さっきの光線が飛んできたときはジョアンが防いでくれ。
――《永続飛翔》――
空を飛び、巨大な天使像の元へ向かう。
真紅妃、来い。
真紅妃を呼び、飛んできた真紅妃を握る。
――《スイッチ》――
《スイッチ》スキルを使いスターダストを呼び出す。そして、そのまま振り払い槍形態へと変化させる。
巨大な天使像の顔まで飛ぶ。こいつ、デカいな。顔だけで俺と同じくらいのサイズがあるぜ。
巨大な天使像の瞳が俺を見る。破壊光線かッ! 先手必勝だぜッ!
――《Wインフィニティスラスト》――
二つの無限の螺旋が天使像を貫く。一撃必殺だぜ!
しかし、貫いたと思ったはずの天使の顔は、すぐに再生し、元通りに戻っていた。な、なんだと!?
天使像の瞳から破壊光線が放たれる。ちッ!
――[エル・ウォーターミラー]――
俺はとっさに水鏡を張り、破壊光線を逸らす。逸らされた破壊光線は背後の王城へと飛び、そして、そこで光輝く巨大な盾に防がれていた。ああ、ジョアンか。
にしても、この巨大な天使像、思ったよりも強敵だぞ。
まぁ、一発で倒せないなら、何発でも叩き込むだけだな。俺の習得しているスキル、魔法、全部、叩き込んで破壊してやる。