10-31 いろいろと四面楚歌だ
―1―
城の屋上に出る。すでにフミコンの姿はない。そりゃまぁ、二日経っているんだから、当然か。
さて、ラナジウムを創るか。今度は成功するだろう。
……。
と、どうでもいい話だけどさ。俺の名前、鑑定したものがバグっていたけど、普通に今まで通りでいいのかなぁ。バグった冒嵐なんちゃらですとか、発音出来ないから、皆に自己紹介出来ないしなぁ。読めない、読めないんだぜ。種族もテケリみたいな感じになっちゃってるしさー、どうしたもんだか。まぁ、世界に一つのレアモンスターってことで良しにしとくか。
……。
さあ、改めてラナジウムを創ろう。
……。
……。
あれ?
スキルが発動しない。
何でだ?
まさか、魔石を入れ替えた影響か? そ、そんな馬鹿な。いくら女神の枠を超えても、スキルが使えなくなっていたら無意味じゃん。逆にヤバイ状況じゃん。
何でだ? 何で、スキルとして発動しない? 魔素を操作しないとラナジウムは創れないんだぞ? 魔素を操作、魔素を操作をスキルとして……、
――《魔素操作》――
そこでやっと《魔素操作》スキルが発動する。ふぅー、危うい、危うい。ちゃんと発動したな。俺を不安にさせるなよ。にしても、何ですぐに発動しなかったんだろうな?
まぁ、考えても分からない事は後回しだ。時間のない、今、とりあえずラナジウムを創るだけだな。
《魔素操作》スキルを使い、周囲の魔素を操作し、始原までの各種属性を作り、集め、合成し塊を創っていく。
そして完成した。
淡く光る小さな金属の塊である。鑑定結果は、と。
【鑑定に失敗しました】
あー、うん。そうなるのか。でも、これなら成功だよな。やっと素材が完成。これで魔道炉が迷宮都市から届けば、何とかなりそうだな。でも、でもですよ。
思ったよりも少量しか創れてないんだよ。となると沢山創る必要があるんだよなぁ。でもさ、コレ、周囲の魔素を大量に消費するから、余り創りすぎると、この辺の魔素が無くなりそうだなぁ。魔素が豊富な永久凍土や地下世界で創った方が良さそうだけど、むむむ。どちらもすぐには行けないからなぁ。まぁ、必要なのは天鎖剣だけだから、その必要分くらいで今回は良しとしよう。
―2―
創造したラナジウム? と虹、魔鉱をフルールに渡し、南への出発準備をする。どうにも、この国への侵入者が多いようなので、14型はその対策の為、今度は連れて行かない。
さあて、またセシリーの率いる神国軍を蹴散らして、時間を稼ぐか。時間を稼ぐ? ……いや、今は時間がネックだからさ、これが一番頭の痛い、俺に対して有効な戦法だよな。
セシリーを殺して神国軍を殲滅すれば、全て解決だ。それは分かっているんだよな。そして、俺にそれが出来る力があるってこともさ。でもさ、それが俺に出来るか?
セシリーが敵に回ったならまだしも、ただ信念に従って、考え方の違いで戦っているだけだからなぁ。何でもかんでも蹴散らして、そうやって進んでいけば、残るのは自分だけだ。それこそ、そんな存在は世界の敵でしかない。女神の思惑通り、だ。そんなのはさ、人を消そうとしている女神の手助けにしかならないからな。
だから、俺は俺の道を貫くんだぜ。
ということで、エミリオさん、南の戦場までお願いします。
「にゃう」
大きくなった羽猫が顎をしゃくり、背に乗れと合図する。今のエミリオなら、南の戦場まででも、一日もかからないだろう。頼りにしているぜ、エミリオ。
―3―
真紅妃を片手にエミリオから飛び降りる。
――《インフィニティスラスト》――
そのまま、敵陣と味方陣地の中央、誰もいない地面へと無限の螺旋を解き放つ。土砂が舞い、戦場に大きな穴が穿たれる。
「世界の敵が戻ってきたぞー!」
敵陣、神国軍側がにわかに騒がしくなる。はいはい、戻ってきたぜ。
エミリオは上空から神国軍の陣地目掛けて光輝くブレスを浴びせている。余り、やり過ぎるなよ。
と、俺はキョウのおっちゃんたちの元へ戻るか。
――《飛翔》――
味方の陣地まで《飛翔》スキルで飛ぶ。
「虫!」
そこにいた相変わらずな紫炎の魔女が声をかけてくる。って、アレ? 少し不機嫌そうだ。
「戻るなら私も連れて戻る」
あ、ああー。置いてけぼりにされて怒っているのか。いや、でもさ、戦力的にさ、お前の力は必須じゃん。お前以外の誰が、向こうにいるジョアンを止められるってんだよ。
「ん?」
と、そこで紫炎の魔女が首を傾げた。
「虫、偽物?」
いやいや、俺の偽物とか居ないってば。居たら、怖いよ。
『本物だ』
紫炎の魔女はそこで興味を失ったのか、ふーんという感じの表情で何も喋らない。えーっと、あのー、紫炎の魔女さん?
「いやぁ、ランの旦那、申し訳ないんだぜ」
俺を見つけたキョウのおっちゃんもやってくる。ん? キョウのおっちゃん、何か謝るような事をしたのか?
「思っていたよりも戦闘が長引いて、国に戻れないんだぜ」
あ、ああ。
『極力殺さないで欲しいという自分の我が儘で迷惑をかける』
それが無かったら、キョウのおっちゃんも、もっと上手くやっているだろうからなぁ。
「いや、いいんだぜ。先を見据えた王様の、その考え、俺は嫌いじゃないんだぜ」
へへ、悪いねぇ。
「と、待って欲しいんだぜ」
そこで、キョウのおっちゃんが慌ててステータスプレートを取り出す。まさか、また何か問題が起きたのか?
『キョウ殿、何が起こった?』
キョウのおっちゃんが目を細め、こちらを見る。
「王様、帝国が動いたんだぜ」
はぁ? 今度は帝国かよ。これで挟み撃ちの形になるな。じゃなくて、だ。何で、こんなタイミングで……いや、そうか。このタイミングだからか。王城には賊が侵入していたんだもんな。俺が出るのを見計らっていたのか。ああ、もうッ!
「帝国は足の速い竜騎兵団中心らしいんだぜ」
あー、竜馬車で使われている二本足の竜か。向こうは間に合わないと思っているから、足の速い部隊で速攻を決めるつもりなんだろうなぁ。まぁ、でもさ、俺の場合はコンパクトがあるから、一瞬で帰れるから、あー、でも、この戦場を放置するのは、ぐぬぬぬ。
何で、俺、こんなに恨まれているんだか……。
ホント、四面楚歌だなぁ。