2-75 後継
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晩には俺も道場にかり出される。うう、ゆっくりしたかったのに……。道場で門下生の相手をやらされるとか疲れるだけなんですけど。
戦績は1勝4分け。さすがに負けることは無いが勝てもしない。というかね、刀の取り扱いに有効なスキルを持って無いからね。今の状態で木刀を持っても決定打に欠けるわけですよ。しかしまぁ、俺の28という敏捷補正はかなり高い方なのか、門下生レベルでは、危険感知も持った俺を捉えることは出来ないようだった。高速で相手の周りを動き回る芋虫な俺、ははは、気持ち悪かろう。
門下生を含む皆で集まった晩ご飯は焼き魚だった。おい、まさかスープ地獄の悪夢再来か。ミカンさんを見ると目をらんらんと輝かせていた。あー、焼き魚が好物なのね。もしかしてミカンさんを甘やかすために夜も焼き魚って訳じゃ無いだろうな……って、他の門下生達もらんらんと輝かせているぞ。種族的に焼き魚が好きなのか? いや、あのさ、猫だからって魚が好きって安直な……。
次の日の朝。俺は羽猫が乗っかった城の前に居た。
『どったん? 何か聞きたいん?』
聞きたいことか……、いや、何だろうな。聞きたいことがあるわけじゃ無いけど、ここに来ないと後悔するというか、……何だろう、危険感知スキルが騒いでいる感じなんだよなぁ。普段の赤で視界に表示される危険感知では無いけれど、心に響く予知というか――不安が……何だコレ。
『いやな、同じ星獣様同士、もっと話をしようと思ってな』
『確かに言ったなー。でも昨日の今日なん?』
羽猫がクスクスと笑っている。昨日の今日か……。ま、そうだよな。と、またも羽猫が大きな欠伸をする。
『随分と眠そうだな』
羽猫は前足で顔を洗っている。
『うちなー、もうすぐ子供が生まれるんよー』
は? 突然、何?
『と言っても人みたいに交尾したんとちゃうけどねー』
って、おい、交尾とか言うな。交尾とかッ!
『うちもねー、もう1000年以上生きてるからねー。もう寿命なんよー』
は? 1000年? 何だ、その年数は。
『だからね、うちの中の魔素を溜めて、もう一人のうちを創るん』
え? 創る? 魔素?
『名前はねー、もうエミリアって決めてるんよ』
え? 分身ではなく、別個体になるのか?
『子供を創ることに魔素を奪われているからね。もうね、眠くて眠くて、眠いん……』
と、そのまま羽猫は眠ってしまった。魔獣って自分の分身を作るみたいに子供を作るのか? いや、それとも、この羽猫が神獣だからなのか?
しかし、この羽猫、もうすぐ死ぬのか? 寿命なのか? ミカンさんの様子を見るに、この里のお母さんみたいな感じだったけど、それって大丈夫なのか? 他の猫人族は知っているのか? というか、何で俺にそんなことを教えたんだ。
あー、もう訳わかんねえよ。
-2-
冒険者ギルドの出張所に向かう。
どうせ、トレントやミーティアラットを倒すことになるのなら、その討伐クエストも受けておこうって、ね。
時代劇の町奉行所のセットのような建物の中に入る。
中には受付窓口が3つあり、それぞれに三人の猫人族の女性が居た。というかね、最初に来た時も思ったけど、出張所の方が規模が大きいんですけど。どうなっているんだ。
昨日も居たふさふさ尻尾の受付さんは、っと……よし、今日も居るな。彼女に話しかけるか。また魔獣扱いされても困るしな。
『よろしいかな?』
「は、はいー」
ふさふさの尻尾がぴーんと伸びる。
「あ、ああ、昨日の星獣様でした……か」
『ああ』
はやく、この里でも俺のことが浸透するといいなー。スイロウの里では、もう俺を見ても驚く人なんて居ないからな。
「で、ご用は?」
あー、うん。
『クエストを受注したいのだが、こちらの里ではどういったやり方だろうか?』
まずは、それを聞かないとね。
「はい、では簡単に説明しますね。あちらの掲示板に書かれているのがクエストになります。受注後は横に線を引いてくださいね」
指差す方には白い板が置かれており、その下には小さく細長い木炭が置かれていた。白板には木炭によって、いくつかのクエストが書かれているようだった。木の板を使っているところは如何にもって感じだけどな。
「後はステータスプレートを渡して貰えれば受注出来ます。完了もステータスプレートを渡してもらうだけで良いです」
あら? 完了もステータスプレートを渡すだけで良いのか。楽だな。換金所も同じ施設内にあるし、(待たないと駄目とはいえ)こちらの方がスイロウの里より最先端じゃね?
とと、もう一個聞いておかないと駄目なことがあったんだ。
『昨日、完了させた護衛の報酬なのだが……』
猫人族のお姉さんが何のこと? って顔をしている。いや、あの、俺、クエスト達成のお金を貰っていないんですけど……。
「ああ、ええ……もしかして。そうですね、通常の冒険者ギルドであれば、行き先のギルドの受付か換金所で貰えると思うのですが、こちらはなにぶんにも出張所なもので……報酬は受注されたギルドにてのお渡しになります」
なんですと。ふ、不便だなぁ。というか、こっちの里の方が発展しているぽいから、こっちをナハン大森林の冒険者ギルド本部にして、向こうを出張所にすれば良いのに……。
まぁ、仕方ないか。とりあえずクエストを受けるだけ受けとくか。と、もしかして、この報酬もスイロウの里になるのか?
「ちなみに、こちらの里で受けられたクエストの報酬はこちらでお支払い可能です。ただ、日数は貰います。一応、スイロウの里の本部に行けばすぐにお支払いは出来ますよ」
マジかよ。すぐに受け取れないのか。いや、もうね、ホント、こちらを本部にしましょうよ……。
とりあえず俺が受けたクエストは……。
Eランク
討伐クエスト
トレントの討伐
森に多く生息するトレントを討伐してください。
クエスト保証金:640円(銅貨1枚)
報酬:5120円(銀貨1枚)
獲得GP:10
二匹目からは1280円(銅貨2枚)を追加で支払います。
期間:3日間
Eランク
討伐クエスト
ミーティアラットの討伐
北西にある小迷宮『湖に浮かぶ洞窟』などに生息するミーティアラットを討伐してください。
クエスト保証金:640円(銅貨1枚)
報酬:5120円(銀貨1枚)
獲得GP:10
期間:6日間
まぁ、侍の試験のことを考えたら、こうなるよなぁ。
都合良く、試験の魔獣と重なったクエストがあってラッキーって感じだな。白板に書かれたクエストを見る限り、スイロウの里よりもワンランク上の難易度ぽいよなぁ。
うーむ、本格的にこちらを本拠地にしたい感じだ。と言っても侍のクラスを取得したら世界樹の迷宮を攻略したいんだけどね。隠し扉の先、本当の世界樹の迷宮を終わらせないとなぁ。なんというか、それがケジメというか、区切りというか。
俺の心の中に残っている『ずるをして攻略してしまった』というわだかまりを消さないとなー。