10-29 自殺するのはダメです
―1―
俺は城内に作られた自室へと戻る。
「マスター、お帰りなさいませ」
ああ、14型、ただいま。と、そうだ。
「14型、悪いが、これから俺が良いと言うまで、この部屋に誰も入れないように頼めるか?」
「マスター、お任せを」
14型がスカートの裾を掴み優雅にお辞儀する。ああ、頼むぜ。冒険者の反乱も鎮圧して新市街地に篭もっていた人々が、こちら側――城内の方へと戻って来始めているようだからな。今から行う事はかなり危険な、賭けのようなものになるだろうから邪魔されたくないんだよな。
14型が俺の部屋を出て、扉の前に陣取っている事を確認し、それから作業に取りかかる。
まずは、と。
俺は今までの戦いで貯めに貯めた魔石を取り出す。さて、と。勿体ないようだが、壊すか。
部屋の端から端へと距離を取り、魔石がMSPとして、俺に吸収されないであろう位置へと投げつけ、壊す。砕け散った魔石が魔素となり、部屋の中に漂う。
よし、まずは第一段階。この世界に漂っている魔素を生物が吸収して、体内で精製したのが魔石だからな。これが魔獣や人の力の源。レベルアップの原理で有り、魔法やスキルの元とも言える。俺の考察だけど、まず間違っていないだろう。まずは、魔石を魔素に変えて、それを充満させるわけだ。
――《魔素操作》――
部屋の中に充満した魔素を《魔素操作》スキルで作り替えていく。まずは火属性かな。
俺の周囲の魔素は純粋な紫色の火の魔素だけに変化する。
――《魔石精製》――
《魔石精製》スキルを使い、周囲の魔素から純粋な火の魔石を作り出す。よし、まずは1個目、完成だな。順調、順調。
さあて、時間もないから、サクサクと作っていくか。
先程と同じ要領で魔石を砕いて魔素を充満させる。
――《魔素操作》――
《魔素操作》スキルを使い、充満した魔素を純粋な水属性へと作り替えていく。
――《魔石精製》――
《魔石精製》スキルを使い、純粋な水の魔石を作り出す。さあて、これで残り7個か。
純粋な木の魔石を作り出す。
純粋な金の魔石を作り出す。
純粋な土の魔石を作り出す。
純粋な風の魔石を作り出す。
純粋な闇の魔石を作り出す。
純粋な光の魔石を作り出す。
そして、最後に純粋な始原の魔石を作り出す。しかし、完成したはずの始原の魔石は見る事が出来なかった。赤い瞳でその存在を追えば、確かに存在しているのを見る事は出来るのだが、普通の目で見るとその姿が見えない。透明な魔石だもんなぁ。
って、うん?
そ、そういえばさ、この世界では、確か、動物と魔獣を別けているのが、魔石の有無だったよな? もしかして、だけどさ、動物も魔石を持っているんじゃないか? ただ、始原の魔石だから透明で見えないから気付かないってだけでさ。周囲の環境に、魔素に染まる前だから、透明な始原の魔石を持っているって感じでさ。ううむ、あり得そうな気がしてきた。ま、まぁ、それは――うむ、今は関係無いな。考え始めると横道にそれてしまうのは俺の悪い癖だな。
よし、と。これで純粋な魔石が9個揃ったワケだ。火、水、木、金、土、風、闇、光、始原、全ての属性の魔石を重ね合わす。さあ、ここからだぞ。
うまく行ってくれよ。
――《魔石精製》――
俺は《魔石精製》スキルを使って、重ね合わせた全ての魔石を合成していく。合成スキルではなく、精製スキルなのが不安だが、俺はこれしか覚えていないからな。上手く、なんとか、なってくれぇ。
いや、きっと上手くいくはずだ。そうだ、強く願うのが一番だ。
必ず成功するッ!
そして、全てが混ざり合った魔石が精製され、新しく虹色に輝く魔石が作られた。
綺麗だな。鉱石を作った時もそうだけどさ、全てが混ざると虹色に変わるんだな。
よし、ここまでは成功、と。
まぁ、こんな最初の段階でつまずいて貰っては困るからな。ここからが本番だぜ。
――《二重分身》――
《二重分身》スキルを使い、神国との戦争で消耗し消えていた分身体を呼び出し直す。さあ、ここからだ。
――《リインカーネーション》――
分身体で《リインカーネーション》スキルを使ってみる。しかし、上手く発動しない。この分身体だと発動しないのか? いや、多分、これ、能力が足りていないのかな?
――《リインカーネーション》――
次に分身体二人同時に使ってみる。すると今度はしっかりとスキルが発動した。よしよし、これで条件は全て揃った。
これで女神が想定した世界の枠を超えられるんじゃないか?
俺が思いつくのは、こんな方法しか無いからな。
さあ、覚悟を決めて――やるぜッ!
分身体をオートモードにして、と。
大丈夫だよな? 死なないよな? 成功するよな?
あー、手が震えそうだ。これ、失敗したら、これほど情けない死に方もないよなぁ。ああ、決意が鈍りそう。いや、大丈夫だ。必ず成功するはずだ。
出来る、出来る、絶対に出来る。
覚悟を決めて、一気にどばぁっとやるぜ。
……いや、でも、本当に大丈夫かなぁ。
いや、でも、これしか方法が無いんだ。
やるしか、ないッ!
「真紅妃、黄金妃、俺の魔石を喰らえッ!」
その瞬間、俺の魔石が、俺の体内の魔石が弾けた。
あ。
意識が……。
分身体、頼んだ……ぞ。
そして、俺の目の前が真っ暗な闇に閉ざされた。