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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
10 三神殿攻略
835/999

10-26 セシリア女王の思惑と

―1―


 俺が率いるグレイシア軍五百人とセシリア女王の率いる神聖王国レムリアース軍千人の戦いが――戦争が始まった。


 結果だけを言うならば、それは俺たちの勝利だった。


 俺の目の前にはセシリア女王がいる。


 ――そう、勝利してしまった。


 スキルや魔法が飛び交う戦場は地獄絵図のようだった。魔法やスキルは、近代戦争で例えると戦車や大砲、戦闘機のようなものだろう。こちらが突出した火力を持っていても、それを防ぐ手立てが用意されたり、回復魔法でなかった事にされたり、常に殺し合い、戦い続ける姿は地獄としか言いようがない。

 それでも、俺は――俺たちは誰も殺さない。時には敵側に、いや神国軍側に回復魔法を使ってまで誰も殺さない。

 そんな相手からしたら、まったく理解出来ないであろう状況でも、俺たちは勝ってしまった。

 いくら回復魔法で傷が癒えても、心までは、精神は癒えない。心が折れたら終わりだ。勝ち目がない相手が、戦えと何度も回復魔法を唱えてくるんだ、相手からしたら、それは心が折れるほどの地獄だろう。


 俺は戦場を駆け巡り、叩き潰し、癒やし、そしてへし折った。


 もしかすると、この戦争、俺1人でも勝てたかもしれない。それだけ、俺の力は突出してしまっていた。先程、突出した力を防ぐ手立てが、と考えたが、それすら凌駕する力を俺は持ってしまっていたようだ。

 確かに、この力ならば世界の敵(ワールドエネミー)と言われても仕方ないだろう。


 ……。


 いや、うぬぼれてはいけない。俺が、ここまで楽勝で戦えたのも、紫炎の魔女が勇者ジョアンを抑えてくれていたからだ。神国の頼みの綱であっただろう、魔王殺しの勇者は紫炎の魔女で手一杯だ。後は飛び抜けた力を持っているのはセシリア女王を中心に赤騎士、青騎士、竜騎士の数人程度だ。竜の居ない竜騎士なんて俺の敵じゃない。赤騎士も青騎士も成長しきった俺には敵わない。


 そうした必然の結果がコレだ。


 俺の目の前には無残な姿のセシリア女王が横たわっている。


「……ら、ランの勝ちじゃ」

 セシリア女王は俺を見て、少し寂しそうに笑う。

「さあ、……わらわを……殺すのじゃ」

 何でこうなったんだろうなぁ。


――[キュアライト]――


 セシリア女王に癒しの光を落とす。

「何故、わらわを助けるのじゃ!」

 少しだけ力を取り戻したセシリア女王が叫ぶ。


『自分は、この世界の敵となったかもしれない。しかし、この世界の人の敵になったつもりはない』

 そうなんだよなぁ。俺は、それを分かって欲しい。


「ラン……」

 セシリア女王がゆっくりと弱々しく、それでいて毅然とした姿で立ち上がる。

「わらわは何度でも立ち上がるのじゃ。何度でも立ち塞がるのじゃ。ここで止めねば、何時までも立ち塞がるのじゃ!」

 セシリーは止めて欲しいのか?


『教えて欲しい。何故、自分とセシリアが戦う必要があるのだ?』

 俺の天啓を受けたセシリーは首を横に振る。

「女神様に刃向かう世界の敵(ワールドエネミー)は倒すだけなのじゃ」

 いや、そうじゃなくてだな。俺はセシリーの言葉が聞きたいんだよ!


『自分とセシリアは友達だったんじゃないか?』

 俺の天啓を受けたセシリーは決意を秘めた表情でこちらを見る。

「だから、なのじゃ」

 へ?

「友だから、親友だから、なのじゃ!」

 セシリーが叫ぶ。

「友が間違ったならば、それを正すのが友の役目なのじゃ!」

 俺が……間違っている?


 セシリーが弱々しく短剣を持ち、こちらへと襲いかかって来る。殺意のない、その行動を余裕で躱し、真紅妃で短剣を跳ね飛ばす。


 俺が……間違っている?


『セシリアは、女神によって、この世界が無に帰すのが正しいと思っているのか?』

「ランにはランの考えがあるのは分かるのじゃ」

 滅びるのが……正しい?

「わらわたちは女神様に創られた存在なのじゃ。女神様がおられなければ、わらわたちは元より存在せぬ、そんな存在なのじゃ。それで何故、女神様に逆らえるのじゃ!」

 セシリーは優等生なんだな。

「ランはランの考えが正しいと信じ行動し、わらわはわらわの思いが正しいと信じて行動しているのじゃ」

 そうか。お互いの信じる心の為に、か。

「迎合するのが友ではないのじゃ。間違った友を正す、それだけなのじゃ」

 そうか、セシリーはセシリーの信じるモノの為に動いているんだな。


 そうか……。


 そうだったのか。


 信じるモノが違えば、場所が変われば、諍いが起こるのは、戦争が起こるのは必然、か。


 哀しいなぁ。


 俺からすれば、女神に殉じて死ぬなんてあり得ないんだけどな。親が間違っているなら、それを正すのも子の役目だと思うんだけどな。


 もしかすると、セシリーも心の奥底では――だから、自分を殺して止めろ、と。いや、それは俺が言うべき事じゃないな。


 考えが違えば平行線だよな。それは交わる事がない。


「ラン、今、止めねば、わらわは何度でもランの前に立ち塞がるのじゃ!」

 そうだな。セシリーなら、何度でも俺の前に立つだろう。この子は、絶対に折れない強い心を持っているからな。


『セシリア女王、傷付き疲れた兵を連れて一度戻るがいい。自分は何度でも相手になろう』

 ここは一旦時間稼ぎ、一度戻って貰おう。


 その間に俺は考えるべきだな。


 絶対に折れない相手の心を折る方法を、考えを変える方法を!

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