10-23 伝説級の武器を貰った
―1―
そして夜が明けた。
残り日数は20日となった。残り日数がじりじりと減ってくるとさ、かなり焦るよなぁ。
会議が終わった後、自室で黙々とラナジウムを作ろうと頑張っていたのだが、結局、一度も成功する事は無かった。天鎖剣の完成には、このインゴットが必要だからな、ホント、焦るぜ。
《魔素操作》スキルで周囲の魔素を造り替え、それを変異合成して鉱石として作り直す。しかし、何度行っても、ラナジウムにはならず、魔鉱になってしまう。俺が夢で見たとおりに行っているつもりなんだが、何が足りないんだろうか。それとも、やはり夢は夢だったということだろうか。そうなると妄想に振り回されたって哀しい事実だけが残るんだよなぁ。
まぁ、でもさ、ラナジウムの作成には失敗しているけどさ、一応、魔鉱として鉱石にはなっているんだから、出来ない事は無いはず、だよな?
俺が黙々と魔鉱の山を築いていると、14型が現れた。
「マスター、フー家の者が呼んでいるのです」
うん? あー、もう、そんな時間か。結構、夢中で鉱石作成を頑張っていたからなぁ。
『14型、この魔鉱のインゴットはフルールに渡しておいてくれ』
まぁ、今はいくらでも武器が欲しい時だから、フルールが適当に有効活用してくれるだろう。
「了解です、マスター」
14型が優雅に頷く。
『ところでキョウ殿はどちらに?』
俺、まだ、この施設を完璧に把握しているワケじゃ無いからな。何処で待っているか教えて欲しいんだぜ。
「この部屋の外で待たせています」
へ? って、マジかよ。14型さんらしいけどさ、うーむ。
部屋の外に出ると、そこでは欠伸をかみ殺しているキョウのおっちゃんがいた。お、キョウのおっちゃんが油断している姿は珍しいな。いつも、ぐでーっと、飄々としているようで、実はしっかりと油断なく周囲に目を向けているからなぁ。それだけ、キョウのおっちゃんも疲れているってコトか。
「はは、ランの旦那に情けないところを見られたんだぜ」
いいっていいって。キョウのおっちゃんには帝国や神国の動向を探って貰っているからさ。一番忙しくて、一番疲れる事をやって貰っているからな、仕方ない、仕方ない。
『ところで、キョウ殿、朝からどうしたのだ? 何か進展が?』
俺の天啓を受けたキョウのおっちゃんは目を細め首を横に振る。
「そうじゃないんだぜ。冒険者のアーラが、王様と話がしたいと言っているんだぜ」
捕まえたアーラさんが? キョウのおっちゃんには、解放していいよって言ったはずだけど、何かあったのかな?
―2―
一階に作られた小さな小部屋にアーラさんはいた。アーラさんは小さな椅子に腰掛け下を向いている。そして、その横にはいつも持っている物とはデザインの違う華美で巨大な斧があった。さすがは斧好きのクランマスター、色々な斧を持っているんだな。
『アーラ殿、自分に話があると言う事だが?』
俺の天啓を受け、アーラさんが顔を上げ、こちらを見る。しかし、その瞳は迷いに揺れ弱々しかった。
俺はアーラさんの向かいに立ち、キョウのおっちゃんは、その横にある椅子に座った。
それを見て、アーラさんが口を開く。
「まずはラン王に謝罪したい」
あー、はい。
「他の者の言葉に揺らされ、行動してしまった。申し訳ない」
アーラさんが頭を下げる。
「私は、あの時、あれが最善だと思い込んでいたのだ。しかし、ラン王と戦い、その言葉を聞き、私は間違いを悟った」
そうか。でもさ、やはりアーラさんを扇動した者がいるんだな。
『アーラ殿、アーラ殿を……』
「ラン王の聞きたいことは分かる。私が話を聞いたのは女神の使者と名乗る者だ。そう、その姿は、ラン王を疑うわけでは無いが、ラン王の従者と似ていた」
やはり、あのメイド達か! こんな搦め手を仕込んでくるとか、厄介な連中だな。まぁ、でもさ、これでアーラさんたち、アクスフィーバーは俺の味方になってくれるのかな?
『では、アーラ殿、その力を』
俺の天啓の途中でアーラさんは首を横に振る。
「確かに私の行動は間違っていた。しかし、それでも女神様を裏切る事は出来ない」
ぐっ。女神信仰、強いなぁ。まぁ、創造主だもんな、無条件で従う的な因子が仕込んであってもおかしく無いし、仕方ないのか。仕方ないのか?
「だから、ラン王にこの斧を託したい」
ん?
「この斧は、私のクランの旗印となっている伝説級の武器だ。名を雷霆の斧という。普通の者なら持つ事も出来ない斧だが、ラン王なら使いこなせると思う」
雷霆の斧、か。まぁ、人の背丈以上の大きさの斧だもんな。普通の人は持つ事も出来ないだろうさ。
『分かった。アーラ殿の気持ち受け取った』
俺はサイドアーム・ナラカで雷霆の斧を持ち上げる。ふむ、これ、分身体の武器にちょうどいいかもしれないな。ゴールデンアクスがなぁ、あのせっかくGP交換で手に入れた斧がなぁ。まぁ、この斧、伝説級の斧らしいし、ゴールデンアクス以上の性能だろうから、ま、まぁ、単純にグレードアップしたと思って、うむ。
と、そこでキョウのおっちゃんが席を立った。ん? どうしたんだ?
「すまないんだぜ。少し通信が入ったようなんだぜ」
キョウのおっちゃんがステータスプレートに耳を当て、何やら会話している。何だ、何だ? 何か進展があったのか?
「わかったんだぜ」
通信を終えたキョウのおっちゃんが真剣な表情で俺を見る。
「王様、急ぎ、皆を集める必要があるんだぜ」
『何があったのだ?』
「少し、ランの旦那には面白くない話かもしれないんだぜ」
へ?
「王様、俺は皆を集めてくるんだぜ。会議室の方で待っていて欲しいんだぜ」
キョウのおっちゃんは、それだけ言うとすぐに部屋から出て行った。慌ただしいなぁ。
『アーラ殿、そういうことのようだ。アーラ殿の気持ちは受け取った。必ず女神を止め、この世界を続けさせる。その時に、斧の話でもしようではないか』
俺の天啓を受けたアーラさんは少しだけぎこちなく、それでも大きく頷いていた。
さてさて、何が起きたんだろうな。