10-22 世界の敵な芋虫の演説
―1―
城に急遽作られたバルコニーのような場所に立つ。俺の背後には14型、そして左右には分身体が控えている。さらに俺の頭の上には羽猫がいる。こ、こいつ、俺より偉そうだな。
旧分身体には俺の代わりという事でガーブオブレインを着せているが、威圧感も含めて俺よりも、余程、王様らしい感じになってしまっていた。うーむ、《変身》スキルを使って、俺が着るべきだったかなぁ。でも《変身》スキルで作られた偽りの姿では無く、俺自身の姿で――この芋虫の姿で壇上に立ちたかったからなぁ。
下を見れば、多くの人が集まっている。数え切れないほどの人が集まっている。えーっと、俺の国の国民ってこんなに多かったんだ。女神に奪われなかった叡智のモノクルには次々と目で追えないほどの字幕が表示されていた。これ、千や二千じゃあきかないよな。いつの間にさ、こんなに増えたんだ? 帝国からの亡命者だけじゃないよな? 俺が迷宮を攻略している間に、凄いコトになっていたんだなぁ。
さて、何を言うべきか。こういうのって凄い緊張するな。いや、だってさ、これだけの人がいればさ、俺が、この国の王だって知らない人も多いんじゃないか?
『自分がこの国の王、氷嵐の主だ』
とりあえず天啓を飛ばし、挨拶をする。俺の天啓を受けて、騒ぎが収まり静かになる。いやぁ、俺が天啓を使えて良かったよな。これ普通に喋っただけだとさ、皆に声を届ける事が出来なかったよな。
さてと、言うべき事を言うだけか。そうだよな、思いついたままに語ろう。
『皆も女神の降臨と、その言葉は聞いたと思う。そして、自分が世界の敵として、世界から認識されていることも知っているだろう』
世界と同一である女神に仇なす者は、それすなわち、世界自体の敵って感じか。女神は、この世界の創造主らしいからなぁ。その割には俗ぽかったけどな。
『女神は言った。この世界を一度水に沈め、無に帰すと』
そんなことやらせるかよ、だよな。
『自分はそんな女神の決定に納得する事が出来ない。だから、女神を止めるつもりだ。例え、世界の敵だと言われようとも――いや、だからこそ、あえて自分は自分の事を世界の敵と呼称しよう』
そう、ヤツらが言うワールドエネミーではなく、俺の言葉での世界の敵だ。
『女神を止める為、自分の考えに賛同してくれる者は協力して欲しい』
3つの神殿を攻略する必要があるからな。
『だが、もし、自分の考えに賛同出来ないというのなら、せめて邪魔だけはしないで欲しい』
反乱を起こした冒険者みたいなことがもう一度起こったら……それが、一番厄介だからなぁ。
『自分は強制しない。この国に残るのも、去るのも自由だ』
まぁ、強制出来ないよな。ただ、やっぱりさ、協力してくれた方が嬉しいんだけどさ。
『ただ、出来れば、この世界に生きる者として、生き延びる為に、自分自身の為に生きて欲しい』
このまま何もしなければ、世界の再生に巻き込まれて、ただ、死ぬだけだからな。女神に協力した場合でも同じだ。女神が協力者だけを除外する? 無い無い、そんな上手い話があるものか。
俺は言う事だけを――言いたい事だけを言い、バルコニーから去る。俺と入れ替わりで、ゼンラ少年、キョウのおっちゃん、ソード・アハトさん、ユエがバルコニーへと入る。
その途中、すれ違いざまにキョウのおっちゃんが声をかけてきた。
「ランの旦那、良かったと思うぜ。後は任せて欲しいんだぜ」
ああ、キョウのおっちゃんのお墨付きが貰えたなら、良かったぜ。
―2―
演説が終わり、俺たちは再度、集まった。
「王様、良い演説でした」
ユエが褒めてくれる。でもさ、その後のゼンラ少年の言葉の方が盛り上がっていた気がするんだよなぁ。まぁ、帝国からの亡命者が多いからさ、その元トップの言葉だもんな、そりゃあ、反応が大きくなるか。忠義を誓った国に裏切られと思ったら、そのトップは自分たちの事を考えてくれていた、同じ志だったなんて、グッとくるよなぁ。
ゆっくり暮らしたいであろうゼンラ少年を前にだすのは心が痛むけどさ、ま、まぁ、今は女神を止める為に一丸となるべき時だからな、やれる事は全てやるべきだよな。
「王様、冒険者の処遇はどうするんだぜ?」
『解放で良い』
そうなんだぜ。甘いと取られるかもしれないけどさ、俺は女神を止めた後も考えないと駄目だからな。
「そう言って貰えると助かるんだぜ」
おや? キョウのおっちゃんも同じ意見か。まぁ、また敵に回ったとしても、俺ならすぐに蹴散らせるだろうし、力の差を見せつけたから、利に賢い冒険者が、また反乱を起こすなんて考え難いしな。
『それと、これから神国、帝国の軍隊との戦いが起こると思うが、そちらも出来る限り殺さないで欲しい』
「神国はまだしも、帝国に関しては何故なんだぜ?」
キョウのおっちゃんが首を傾げる。
『女神を止めた後の世界で遺恨を残したくないからだ』
まぁ、こっちもコレなんだよなぁ。
「ジジジ、王は難しい事を言われる。しかし、最高だ」
ソード・アハトさんは上の腕を組み、笑う。いや、笑っているよな? まぁ、こちらが危険になるような状況でまで強制はしないけどさ。あくまで、出来る限り、だよ、出来る限り。
その後も方針や考えをまとめ、一日が過ぎていく。
あー、残り日数が少ないのに、これで一日が終わるのか。でもさ、作戦会議は重要だからなぁ。