10-21 商会時代からの仲間達
―1―
そして、夜が明けた。
残り、21日、か。
やはり、回復の為とはいえ、8日間を無駄にしたのが痛いよなぁ。日数が限られて、出来る事が限られて、そんな時なのに面倒ごとは起こるし……もうね!
女神の起こす洪水? とやらが、どの程度の規模か分からないけどさ、最悪、空を飛んで逃げるか? それとも、それが耐えられるような施設を作り出すか?
でもなぁ、何が起こるか分からないからなぁ。女神は雨を降らせるとか言っているけどさ、それが本当に雨だって保証は無いわけだしさ。
女神の休息日みたいな、訳の分からない事が起こる世界だもんな。本当に、世界をパッと削除してしまうような、そんな力を持っている可能性だってあるもんな。次善の策を用意するのは――考えるのは当然だけどさ、問題の女神自体を何とかするのが、その方法を考えるのが一番だよなぁ。
「マスター、お目覚めですね」
考え事をしていると、背後から声がかけられた。
うお、14型さん、14型さんじゃないかッ!
「皆がマスターをお待ちです」
14型がすでに起きていて、有能ぽい働きをしているだと!? こ、これは本当に14型なのか? 例のメイドたちの一人が14型に化けているんじゃないか?
「どうしたのです、マスター? 考えても無駄な事を考えすぎるのはマスターの良いところであり、欠点ですが、今は急ぐべき時だと思うのです」
あ、はい。
俺は14型に促されるまま、施設の中を歩いて行く。何というか、14型が有能だ。いや、まぁ、以前から一部は有能だったけどさ。こんな有能オーラは出していなかったはずだ。ポンコツだったはずだ。ま、まさか、アレか? 例のパーツを大量に摂取したことで有能な14型に目覚めてしまったというのか!?
う、ううむ。これは、これでなんだか、物足りないというか、寂しいなぁ。
―2―
「王様、早いんだぜ。王様は、一番偉いんだから、もう少しゆっくりしていてもいいんだぜ」
ゆっくりしたよ、充分にゆっくりしたよ!
俺は14型の案内で入った講堂の中を見回す。
そこに居るのはいつものメンバーだ。
目を細め胡散臭い雰囲気を醸し出しているキョウのおっちゃん、
佇む武人、蟻人族のソード・アハトさん、
いつも忙しそうな猫人族のユエ、と、その旦那で元海賊のファット船長、
お馬鹿な犬頭のスカイ君、
性格に難有りだが優れた才能を持った犬頭のフルール、
今日も綺麗に剃り上がった頭のポンちゃん、
穏やかな表情を浮かべている森人族のクニエさん、
真剣な表情でこちらを見ている帝国の皇帝だったゼンラ少年、
腕を頭の後ろに組み生意気そうな顔をしている少年姿のフミコン、
難しそうな表情を浮かべているが何も考えていない脳筋のミカンちゃん、
何故、自分がここに居るのか理解出来ていない表情のシロネとステラ、
眠そうな顔をしている紫炎の魔女ソフィア、
そして、中央で寝そべっている羽猫エミリオ。
皆がいる。
皆が揃っている。
「虫」
俺が感極まって皆を見ていたからか、紫炎の魔女が欠伸をかみ殺しながら、声をかけてきた。だから、虫じゃねえっての!
「ジジジ、王がお見えになったようだ」
皆が俺を見る。
「王様、俺たちは王様の決定に従うんだぜ」
キョウのおっちゃんがニヤリと笑う。
「急に出てきて、女神様だから従えとか胡散臭いってよー」
そう言ってファット船長が大きく笑う。しかし、すぐに隣のユエに小突かれていた。
「まぁ、わしは元から女神の敵じゃからのー」
「あ、私もです……」
フミコンとステラは魔族だもんなぁ。
「主の敵は斬るだけです」
ミカンちゃんはよく分かってないんだろうなぁ。
「俺は料理を作ることしか出来ないじゃんかよ、だから、タクワンと一緒に美味しい物を作るぜ」
頼むぜ、ポンちゃん。
「あー、えーっと、皆、何か一言ずつ語る流れですか?」
クニエさん、丁寧だけど、意外とマイペースだよなぁ。
皆を代表してか、ユエがこちらへと一歩前に出る。
「王様、キョウさんから聞いたのですが、女神様を止める為に動く、それで良かったでしょうか?」
その通りなんだぜ。
『女神は3つの神殿を攻略すれば、再度チャンスをくれると言っていた。そのチャンスがどういったモノかわからぬが、万全の準備をして女神と会う事が出来る最後のチャンスになるだろう』
俺の天啓に皆が頷く。
『自分はその時に女神を止めるつもりだ。最悪、力尽くで止める事も考えている』
まぁ、何というか、力尽くになりそうな予感しか無いんだけどさ。
「その為の武器があれですのぉ」
フルールは、今気付いたといった顔をしている。そう、その通りだぜ。最悪の場合の奥の手だ。
「3つの神殿の場所のうち、2つまでは分かっているのです」
14型が解説を始める。
「1つは帝都のマスターの自宅です。もう1つは迷宮都市です。八大迷宮とやらが攻略されたので封じていた扉は開かれているはずです」
そうそう、2つは分かっているんだよな。迷宮都市側は良いとして、帝都は、なぁ。敵対関係にある帝都に向かうってことは、最悪、攻め込まないとダメって事だからなぁ。
「ジジジ、帝都か」
ソード・アハトさんとゼンラ少年が頷き合う。
「ジジジ、帝都に攻め込む準備、任せて欲しい」
「なら、俺は最後の神殿の場所を探るんだぜ」
ああ、キョウのおっちゃんも頼むぜ。
何というか、残り時間が少ないってぇのが問題だからな。
「分かりました、皆で手分けして準備を進めます。それと、ラン王にお願いがあるのですが……」
ユエのお願い? 何だろう?
「皆の前で、このグレイシアの国民の前でも、王様の考えと、これからの方針を語って欲しいのです」
あー、うむ。そういえば、そんな事をキョウのおっちゃんも言っていたなぁ。まぁ、俺の国なんだし、こういう役目も頑張らないとダメか。
『分かった』
さて、と。その演説が終わったら、神国かな。セシリーの事が心配だからな。