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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
2  世界樹攻略
83/999

2-74 道場

―1―


 しばらく歩くと平屋の大きな建物が見えてきた。アレが道場か。平屋の建物の奥には長屋のような建物も見える。アレが宿泊施設かな。


 平屋の建物へ。門とかは無いんだな。

「ラン殿、ここが道場だ」

 ミカンさんは、そう言って建物の中へ。よし、俺も中に入るか。

「今、戻った」

 道場の中には剣道着のようなものを着込んだ10人ほどの猫人族が木刀を手に互いに打ち合っていた。この里は猫人族ばかりなんだな。普人族や森人族の姿が全く見えないな。

 俺たちが建物の中に入ると、道場の中で打ち合いをしていた猫人族の全てが手を止めこちらを向く。

「お嬢、お帰りなさいませ」

 お嬢……? と、その瞬間、視界の中央に赤い点が。な、やべ。俺はとっさに風槍レッドアイを中央に構える。赤い点をなぞるように、俺が構えた赤槍目掛けて木刀での突きが飛んできた。しかし、その突きが届くことは無かった。横に居たミカンさんがいつの間にか腰の刀を抜き木刀を打ち飛ばしていたのだ。早いな。

「何をする!」

 ミカンさんの叱責。突きを放っていたのは下っ端ぽい猫人族の男だった。うーん、外見からだと年齢が分からないなぁ。若いぽいけど……わかんないな。

「いや、あの、お嬢、芋虫の魔獣が……」

 ま・た・かッ!

「この方は、星獣様にして冒険者のラン殿だ。私が弾いたから良かったものの、よく考えて行動しなさいっ!」

 いや、俺も突きには気付いていたよ。ミカンさんが弾かなくても、ちゃんと防ぐことが出来たはずなんだけどなぁ。まぁ、良いか。

「ふむ、ミカンや。ミカンが弾かんでも、その者は防いどったようだがのう」

 奥から、おじいちゃん猫が歩いてくる。目が見えているのかってくらいに伸び放題の毛むくじゃらな猫だ。おじいちゃん猫だが、足腰はしっかりしているようだな。しかしまぁ、俺がしっかりと防ぐことが出来ていたのを見抜いているとは……やるな。ここの道場主に違いあるまいてー。

『先程、紹介にあずかった星獣のランだ。よろしく頼む』

「魔獣が喋った?」

 だから、魔獣じゃないって。と、魔獣呼ばわりした猫人族の子は隣の猫人族に頭を叩かれ「魔獣じゃねえだろ」と注意されていた。うむ、よろしい。

「して、ラン殿は何用でこちらに?」

『ああ、侍のクラスの取得と宿を、な』

「なるほど」

 おじいちゃん猫が頷いている。

「侍のクラス取得にはうちの門下生から一本を取るくらいの腕前が最低条件として必要になりましてな、どうされますかな?」

 ほう。受けて立とうじゃないか。

「では、相手をして貰うのは、先程突きを放った者でよろしいかな?」

 ほほう。それは願っても無い。

「して、ラン殿の得物は?」

『弓士のクラスを持っているので弓だな。後は槍か。だが、ここは同じように木刀で戦おう』

 こういうのは同じ土俵に立たないと認められないからなー。定番、定番。

「ほう? こちらとしては、その赤槍でもよろしいですぞ」

『いや、構わぬ』

 さっきの突きを見て大体の相手の強さが分かったしね。なんとかなりそうだもん。


 俺は門下生の一人から木刀を受け取る。固く太く長い木刀だ。これ、当たり所が悪かったら死にそうだなぁ。しかしまぁ、この手で持つのは難しいな。サイドアーム・ナラカに持たすか。

「ぼ、木刀が空中に?」

 はい、良いリアクションをありがとう。そういえば、サイドアーム・ナラカって他の人からは見えないんだったな。忘れていたよ。

『こちらの準備は出来たぞ。さて、いつ始める?』

 先程の猫人族の門下生も木刀を受け取ったみたいだしね。

「それはもう、いつでもよろしいですぞ」

 ふーん、実戦的なんだな。

『して、勝敗は?』

「参ったと思った時が終わりでしょうな」

 なるほどな。と、その瞬間、またも中央に赤い点が。俺はとっさに赤い点を回避するように右へ。そして、その赤い点をなぞるように突きが飛んでくる。この門下生は突きが得意なのかな。

 突きをすでに回避していた俺はサイドアーム・ナラカに持たせた木刀を振り下ろした。突きを回避され体勢崩した猫人族の門下生は回避することが出来ず、その身に木刀を受ける。いっぽーん。

 しかし、それでは終わらなかった。門下生は叩き付けられた木刀に耐え、そのままの体勢から更に俺へと片手で突きを繰り出してきた。


――《集中》――


 集中力が増し、相手の攻撃がスローモーションに見える。上体を反らし突きを躱す。芋虫の背筋力を舐めるなよ。そのまま木刀を戻し、反らした体の反動を使い、こちらも突きを放つ。スパイラ……って木刀だと発動しないや。やはり槍限定の技か。突きが門下生に決まる。


「そこまでぇッ!」

 おじいちゃん猫の大きな声。

「何故です、まだ負けていません」

 門下生は受けた突きの痛みに耐えながらおじいちゃん猫に問うていた。ふっふっふ。若いな。俺の実力が分からないとはー。

「ラン殿、不思議な力を使いますな。最初のこやつの攻撃、まるで分かっていたかのように回避されたようですのう」

 まーねー。危険感知って割とチート級だよなぁ。まぁ、危険度が低い攻撃とかには反応してくれないんだけどさ。

 ま、何にせよ、これで俺の勝ちだね。

「ふむ、侍のクラスを取得する資格はありそうですなぁ」

 よし!

「では、侍の試験内容ですがのう……」

 あ、そうですよね。さっきの戦いだけで取得はさせて貰えませんよね。知っていたよ、知ってたもん。




―2―


「初心の刀の作成が侍のクラス取得の条件になりましてな……」

 ほうほう。と、話、長くなりそうなの? 俺、お腹空いたんだけど。何も食べていないんだけど。

「おっと、すみません。ミカンとラン殿は長旅の後でしたな」

 そうそう、その通り。

「まずは、食事にしましょうか。そこでゆっくりと説明しましょうかな?」

 そうそう、その通り。見れば、ミカンさんもコクコクと頷いている。彼女もお腹が空いていたのかな。

「では、こちらに」

 門下生の一人に奥の長屋へと案内される。長屋は玄関があって、その先は一段高くなっているんだが、これ靴とか脱いだ方が良い系なんだろうか……って、俺、靴履いていないや。HAHAHA。

 やはり、大森林だけあって木造建築が基本なんだなぁ。でも、藁葺き屋根とかの建物は見なかったな。米は諦めた方が良さそうか……。

 お、座布団だ。じゃ、ご飯まで座布団の上で待ちますか。むいむい。


 ミカンさんは瞑想しているかのように座布団の上に正座で座ったまま動かない。あ、猫足でも正座出来るんだね。


 しばらくするとくきゅぅーっと可愛い音が鳴った。あ、ミカンさんのお腹か。

「き、聞こえましたか?」

『何がだ?』

「聞こえていないなら良いです……」

 聞かなかったことにしよう。誰だってお腹は空くんだ。


 それから30分ほどして料理が運ばれてきた。


 えーっと、焼き魚に焼き魚に焼き魚と焼き魚に……って、焼き魚ばかりかよッ!

 確かにさ、全部、違う種類の魚だけどさ、焼き魚しかないのはどうかと思うんだ。例えば貝とか刺身とかあっても良いと思うの。

 ミカンさんを見ると猫目がらんらんと輝いていた。あー、魚、好きなのね。猫だからなのかなぁ。

『刺身とかは無いのだろうか?』

「刺身ですか?」

 ミカンさんが首をかしげる。あ、ご飯を食べたいのにストップさせてごめんね。

『ああ、生の魚の切り身だな』

「え? 生はちょっと……」

 うーん、刺身の文化は無いのかなぁ。まぁ、いいや、俺も食事にしよう。って、おい、細い木の棒が2本置いてあるぞ。これはもしや……お箸かッ! ミカンさんを見ると2本の木の棒を器用に片手で扱って魚を切り分けている……って、完全にお箸じゃねえか。チョップスティックですよ。先が細くなっているような形状では無いが、使い方を見ると完全にお箸だよなぁ。ま、俺の手だと扱えないからサイドアーム・ナラカを使うか。

「箸が空中に浮いてる……」

 超能力でーすって、今、字幕が箸になってたぞ。やっぱりお箸じゃねえか。お箸はあった。あったんだ。……まぁ、いいや、焼き魚を食べよう。と、魚醤を垂らして食べないとねー。

 やっぱ、魚には醤油ですよー。うん、うまうま。魚醤の塩味が魚自体の風味を何倍にも引き出してくれてるぜ。

 俺が魚醤を垂らして食べているのをミカンさんが物欲しそうに見ていた。ち、しゃあねえな。

『ミカン殿もかけてみるか?』

 ミカンさんがコクコクと頷く。俺はミカンさんの焼き魚にも魚醤を垂らしてあげる。

 ミカンさんは魚醤のかかった焼き魚を一口食べて……青くなっていた。

「う、塩辛いです」

 あれ? 合わなかった? うーん、万能調味料で、俺にとっては神のごとき調味料なんだがなぁ。まぁ、どうしたって好みはあるからな。

 と、食事をしているとおじいちゃん猫がやってきた。

「どうですかな、うちの焼き魚は?」

 あ、美味しいです。でも魚ばかりでは無くバリエーションが欲しいです。

「では、侍のクラスの取得条件を説明しようかのう。そのまま、食べながらお聞きなさい」

 はいな。

「侍のクラスの試験内容は初心の刀の作成でしてな。初心の刀は材料があれば、この里でもすぐに作れるんですがのう」

 けど?

「材料に『トレントの木片』と『隕鉄』が必要になりましてなぁ」

 ちょっと待て、トレントの木片って、昨日売ったばかりじゃねえか。マジカヨ。ミカンさん、教えてくれても良いじゃ無いか……常識ねえのかよ。うわああん。

「トレント自体は、里の外に出ればそこらにでも居りますな。駆け出しにはキツい魔獣ですが、ラン殿ならば余裕でしょうな」

 そ、そりゃまぁ、大量に倒したところだし、さ。余裕だろうけども。

「隕鉄はミーティアラットの体内でごく少量精製されましてな。それが10もあれば大丈夫でしょうなぁ」

 ミーティアラットか。こちらも名前付き(ネームドモンスター)を倒したことがあるし、楽勝かな。

「ミーティアラット自体は北西にある小迷宮に多数生息しておりますぞ」

 ふむふむ。Fランク承認試験の魔獣が多数か……。そう聞くと、こちらの島の方が魔獣の強さは上ぽいなぁ。


 ま、明日さっそく行ってみますか。今日は疲れたから、もう休むのさ。明日、明日。明日だー。

2015年4月22日修正

足腰はしっかりしていうようだ → 足腰はしっかりしているようだ


2018年9月3日

状態を反らし突きを → 上体を反らし突きを


2021年5月9日

刺身とか合っても → 刺身とかあっても

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