10-20 本拠地へ戻り休むのだ
―1―
「お帰りなさいませ、マスター」
城前に戻ると14型が待っていた。うむ、ただいま。
「マスター、こちらへ」
14型の案内で新しく作られた区画にある大きな建物の中へ入る。シロネが出てきた建物だよな? この建物、結構、大きいけどさ、何の施設なんだろう?
とりあえず中に入る。
「おお! ランの旦那、待ってたんだぜ」
2階に上がったところに作られた講堂のような広さを持った部屋でキョウのおっちゃんが待っていた。
『冒険者の反乱は鎮圧した。ソード・アハト殿たちが冒険者を連れてくるだろう』
俺の天啓を聞いたキョウのおっちゃんが目を細め、ゆっくりと頷く。
「助かったんだぜ。ランの旦那の手を煩わして申し訳ない、この程度なら、俺たちだけで何とかしたかったんだぜ」
いいってことさー。それに俺の国でもあるしね。
『ところで、この建物は?』
俺の天啓を受けたキョウのおっちゃんが肩を竦める。
「新しい冒険者ギルド予定地だったんだぜ」
あー、うん。俺がルナティックを殺してしまったからなぁ。せっかく建物を作ったのに冒険者ギルド自体が機能しなくなるとか、スカイ君は嘆いているだろうなぁ。
「一応、今、城を除いて、ここが一番大きな建物なんだぜ。ここに皆で集まって準備をしているところだったんだぜ」
なるほど。まぁ、大きな建物だし、無駄にするのは、な。
『ところで皆は?』
キョウのおっちゃんが奥の部屋を指差す。
「今日で片がつくとは思ってなかったから、皆、休んで貰っているんだぜ」
あー、そうか。キョウのおっちゃんだけが寝ずの番か。
「王様も今日は疲れただろうから、休んでくればいいんだぜ。捕まえた冒険者たちは俺がなんとかしておくんだぜ」
頼りになるなぁ。でもさ、俺も起きたばかりだしなぁ。手伝える事があるなら、手伝いたいな。
『何か手伝える事があるなら……』
俺の天啓をキョウのおっちゃんが止める。
「ダメなんだぜ。上が休まないと、下はゆっくり休めないんだぜ。こういう場面ではトップが休むのも仕事なんだぜ」
キョウのおっちゃんが片眼を閉じ、指を振る。なるほどなぁ。
「それになんだぜ。宰相殿が、まだ休んでいるから、本格的な活動はそれからにしたいんだぜ。まぁ、ランの旦那に頼めそうな仕事なんて、今、この段階では、まだ水を作って貰うくらいしか……いや、なんでもないんだぜ」
まったく、キョウのおっちゃんは俺をお飾りにしたいのかね。にしても、宰相って誰だ? そんな枠になりそうな人っていたかなぁ。
まぁ、そうだな。水でも作りながら、ゆっくり休むか。
何故か建物の構造を把握している14型の案内で施設内を進む。すると前方から見覚えのある犬頭が駆けてきた。
「お、王様ー! 大変なんすよー、一大事すよー」
冒険者ギルドの存在が消えて無職になったスカイ君じゃないか。そりゃあ、大変だよな。にしても、君は、起きて俺を待ってくれていたのか。
「王様、聞いて欲しいんすよ」
犬頭が俺のクロークを掴み引っ張る。はいはい、何かね。
「女神様が降臨したんすよー!」
知ってる、知ってる。今、それで大変な事になってるからな。にしても、スカイ君、焦っているからか、舌が回っていないような喋り方になっているぞ。
「それで、思い切って巨大な女神様の真下まで頑張って行ってみたんすよ!」
スカイ君、意外と凄い行動力だな。って、うん?
「何も見えなかったんすよ。何故か、すぐに後ろ側になって、位置を変えると女神様の向きが変わるだけで、真下に行けなかったんです……」
スカイ君が悔しそうに床を叩いている。いや、お前、何やってるの? スカイ君、こんなキャラクターだったかなぁ。もしかして、冒険者ギルドが崩壊して、スカイ君自身も壊れた? いや、でも、俺がルナティックを殺したのは女神が降臨した後だしなぁ。それとも、その後でも女神が降臨したのかな。
『スカイ、その、冒険者ギルドの事は……』
俺が天啓を飛ばすと、スカイはまるで人形のように、ギギギと音を立てそうな動きでこちらを見た。
「ぼ、冒険者、ぎ、ぎる、ギルドぅ」
そして、泡を吹いて倒れた。
えーと、アレ?
「もう、なんなんですのぉ。大きな音を立てて、ゆっくり休めないですわぁ」
スカイ君が倒れた音を聞きつけたのか、もう一人の犬頭が現れた。
「王様ですわぁ! それに、間抜けな犬頭が倒れていますわぁ」
えーっと、スカイ君もさ、フルールに、それを言われたらお終いだよなぁ。
『今戻った。ところで、このスカイだが……』
「王様が起きたのは聞いていたんですわぁ」
ああ、うむ。
『冒険者ギルドの話をしたら、倒れたのだ』
俺が天啓を飛ばすと、フルールは、あちゃーっという感じで顔に手を当てていた。
「スカイに冒険者ギルドの話は禁句ですわぁ」
そ、そうか。冒険者ギルドが無くなったんだもんな。心が折れるか。
まぁ、全てが終わったら、俺が、新しい――今までの冒険者ギルドと同じようなギルドを作ってやるぜ。だから、頑張れよ。
と、そうだ。ちょうどフルールが居るんだ、聞いておくか。
『フルール、今、時間は大丈夫だろうか?』
「王様の顔を見たら、眠くなってきたところですけど、少しなら大丈夫ですわぁ」
俺の顔を見て眠くなるって、どういうことだよ!
―2―
フルールの案内で、三階へ上がる階段の近くに作られた待合室のような部屋へと入る。
「王様、なんですの?」
フルールが長椅子に座り、机に肘をつく。
『今から言う武器の作成を頼みたい』
まだラナジウムとやらの作成が出来ていないけどさ、それは次に《変身》したときに作るとして、まずは実際に作る人と相談だよな。
「武器、ですのぉ」
眠そうだったフルールの瞳が大きく見開かれ、楽しそうに笑う。
『名は天鎖剣。作成に必要なインゴットはこれから用意するが、作成出来そうかどうかを聞きたい』
眠気が飛び、真剣な表情になったフルールが頷く。
俺の言葉が足りない部分は14型にフォローしてもらいながら、夢で見た剣を説明する。
「神殺し……ですのぉ」
そうだ。
「武器の造りは分かりましたわぁ。ただ、どうなるかはインゴットを見てからですわぁ」
まぁ、そりゃそうか。
「それと、問題が一つ」
ふむ、何だろう?
「魔道炉ですわぁ」
魔道炉、か。これ、俺もよく分からないんだよなぁ。この単語を言えば、フルールならわかるかなぁってだけだしさ。
「ここにないんですのぉ。今、あるとすれば迷宮都市ですわぁ」
なるほど。どういったモノか、は分かるのか。ならば、手に入れるだけだから、余り、問題じゃないかな。
『ならば、取ってくるが?』
迷宮都市なら、ひとっ飛びだぜ。
しかし、フルールは首を横に振る。
「ラン様、ご自分が、今、どういった立場か考えて欲しいですわぁ」
へ?
「世界を敵に回した王様が、くださいって向かっても、騒ぎになるだけですわぁ」
あ、そうか。
むむむ。
「まぁ、これは迷宮都市で頑張っているファリンに頼んで運んで貰いますわぁ」
おー、そういえば、ファリンは迷宮都市に残っていたな。
「王様はインゴットを頼みますわぁ」
う、うむ。
まずはそれからだよなぁ。