10-18 我が輩は強敵であーる
―1―
――《飛翔》――
再度、《飛翔》スキルを使いソード・アハトさんたちの元へと飛ぶ。
こちらの戦場は――すでに戦いが終わっていた。
そう、冒険者の勝利で終わっていた。
な!?
さっきまで勝ってたじゃないか。俺がミカンの方へ行った間に何が起こったんだ?
戦っていた蟻人族たちは冒険者に捕まっている。命までは取られていないようだな。
そして、ソード・アハトさんは、重装備の鎧人間――それこそ動く事すら出来なさそうな重装備の冒険者が持った盾に押さえつけられ、倒れていた。何だ、あの金属の塊。さっきまでは居なかったよな? 確かに冒険者に苦戦していたけどさ、それは、この重装備じゃなかったはずだ。こいつが、ソード・アハトさんたち蟻人族を……どう考えても、状況的にそうとしか思えないよな。
俺は重装備の前に降り立つ。
「ふん、お前が世界の敵か。らしい、醜い姿よなぁ」
俺は改めて重装備の男を見る。まるで動く城、だな。左手にはトゲのついた棍棒――メイスを、右手には背の高さほどの分厚い盾を、そして、その盾がソード・アハトさんを押さえつけている。
『その盾をどけろ』
俺は怒りを抑え、天啓を飛ばす。
「ジジジ、ラン王、気をつけろ。こやつには攻撃が……ぐっ」
重装備の男が盾に力を入れ、ソード・アハトさんを強く押さえつける。
「はっはっはっはっは! 世界の敵よ、我が輩の名前を地獄まで持っていくがいい。我が輩は……」
『もう一度だけ忠告する。その盾をどけろ』
俺は重装備の男の言葉を無視して、もう一度天啓を飛ばす。やれやれ、この世界にも地獄はあるのか。
「帝国の守護者と言われた蟻人族もこの程度とはな!」
ホント、そうだよなぁ。ソード・アハトさん、最近、いいところ無いじゃん。頼りにしているんだからさ、頼むぜ。
――《飛翔》――
《飛翔》スキルで突っ込み、そのまま真紅妃で巨大な盾を弾き飛ばす。
「なっ!」
重装備の男から驚きの声があがる。手に持っていた巨大な盾は俺の力に耐えきれなかったのか、大きく吹き飛び、空を舞った。
――《魔法糸》――
《魔法糸》を飛ばし、ソード・アハトさんを回収する。そして、そのまま飛び、重装備の男と距離を取る。
――[キュアライト]――
ソード・アハトさんに癒しの光が降り注ぐ。
「ジジジ、助かる」
『ソード・アハト殿は、他の仲間を。こいつは自分が引き受ける』
ソード・アハトさんは一瞬、俺の顔を見、そして頷く。
「ジジジ、ラン王は人使いが荒い。しかし、嬉しい言葉だっ!」
昆虫頭で表情は分からないが、ソード・アハトさんは確かに笑っていた。
――《二重分身》――
《二重分身》スキルを使い、分身体を二人作り出す。
『ソード・アハト殿の手助けを』
布で出来たローブのようなものだけを着込んだ、二体の分身体をオートモードにして放り出す。武器や装備は現地調達でお願いします。装備が全部、無くなったもんなぁ。ホント、思い出しても腹が立つぜ。
「ジジジ、かたじけない」
ソード・アハトさんが駆け出す。まぁ、この人の強さならさ、この目の前にいる重装備なコイツ以外の冒険者ならさ、余裕で蹴散らして、仲間達を助け出してくれるだろう。
俺は改めて重装備の男を見る。
「ふん、そろそろ日が落ちそうだ。それまでに片付けたかったのだがな」
俺が起きたのが遅かったからか、もうそんな時間か。
俺は空を見る。まだ、日が落ちるには時間がありそうだぜ。それまでに終わらせてやろうか?
『ソード・アハト殿たちを殺さず、押さえつけるだけにしてくれていたことには感謝する』
「当然よ。敵はお前だけなのだからな!」
『それに免じて半殺しですませよう』
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、真紅妃を構えたまま重装備の男の前へと飛ぶ。突然、目の前に俺が現れた重装備の男は驚き慌てる、しかし、それでもとっさに横へと飛び、俺の突きを回避する。ほう、重装備なのに機敏だな。
しかし、その避けた先には、すでに真紅妃の穂先が待ち構えていた。
「ぐっ」
金属を叩き付けた大きな音が鳴り響く。
よろめいた重装備の男に、再度、真紅妃で突きを放つ。
重装備の男は、すぐさま体勢を立て直し、真紅妃を躱そうと横に飛ぶ。ほう、重装備なのに機敏だな。
しかし、その避けた先には、すでに真紅妃の穂先が待ち構えていた。
「ぐっ」
金属がねじ曲がるような嫌な音が鳴り響く。
よろめいた重装備の男に、再度、真紅妃で突きを放つ。
重装備の男が避ける、そこを真紅妃で突く。避ける、突く、突く、避ける、突く、突く、突く、避ける、突く、突く、突く、避ける、突く、突く、突く、突く、突くッ!
「な、なぜだっ! なぜ、我が輩の避けた先に!」
こいつ、重装備だからか、頑丈だなぁ。さっきから重たい一撃を何度も浴びせているのにさ、堪えている様子がない。
『単純なことだ。実力が違うからだ』
重装備の男がメイスを構える。俺はそれを真紅妃で弾き飛ばす。
『無駄だ』
俺の天啓を受けた重装備の男は動かなくなった。諦めたか?
そして、一瞬、空を見上げる。何を見ている? って、もう日が落ちたか。《暗視》スキルで夜目が利くからか、気付かなかったな。いや、それだけじゃないな。怒りで周りが見えなくなっていたんだろうな。
『日が落ちたようだ。休戦にするか?』
まぁ、俺としては冒険者と敵対したいワケじゃ無いしな。お仕置きもこれくらいで充分か。
「はっはっはっはっはっ! 我が輩の力の前に臆したか!」
こいつ、元気だな。やはり、徹底的にやるしか無いか。
「しかし、これ以上、この地を、建物を破壊しても悪い。これ以上は、あの森でやろうではないか!」
重装備の男が外壁の外を、最近はめっきり雪が見えなくなった森を指差す。えーっと、なんというか、あからさまな罠だなぁ。
うーん。
まぁ、その罠も食い破って、それすら無駄だと思わせたら、心が折れるか。仕方ない、付き合うか。
重装備の男が地面を揺らしながら、森へと飛び跳ねていく。歩いて移動は出来ないのかよ。
追いかけるか。
森の中へ入ると、そこには重装備の男が待ち構えていた。
「はっはっはっは。我が輩の策にかかったな!」
はいはい。知ってた、知ってた。
「世界の敵と言えど、我が輩の叡智の前には赤子同然よ!」
な、なにおぅ。
そして、重装備の男の鎧が弾けた。