10-17 冒険者たちの反乱です
―1―
――《飛翔》――
とりあえず一人で飛ぶ。
手加減が出来なさそうな14型は連れてこない。俺の頭の上で眠り始めた羽猫も14型に預け、新市街地に放置である。
キョウのおっちゃんに聞いた場所へと飛び続けると、すぐに戦場は見えてきた。新しく作られた市街地の一部が破壊され、煙を上げている。意外と冒険者たちに入り込まれているな。こいつら、俺の国で、俺らが頑張って発展させている国を何も考えずに破壊しやがって……って、いやいや、落ち着け、落ち着け。
シロネたちの居た場所が最終防衛ラインなんだろうな。紫炎の魔女があそこにいた理由か――多分、紫炎の魔女は俺が来たから、最終防衛ラインから、城の中へ戻ったんだろうな。その期待は裏切れないよなぁ。
俺はもう一度、状況を確認する。確かに、新しく作られた城壁や、その壁近くの建物は破壊されている。しかし、それ以上、破壊活動は進んでいないようだ。
破壊されている城壁は2ヶ所、か。そこから、冒険者が入ってきたのか? 本当にならず者みたいな連中だな。
一方は蟻人族の方々が押さえ込んでいるようだ。遠目にソード・アハトさんが一人の冒険者と戦っているのが見える。見たところソード・アハトさんが押されているな。見覚えのない冒険者だが、ちょっとした実力者のようだな。
ただ、他の冒険者たちの実力はそれほどでもないのか、蟻人族の方々がすぐにでも制圧しそうだ。蟻人族の方々が鎮圧して、手が空くようになれば、ソード・アハトさんの応援に駆けつけるだろうし、そうなれば大丈夫だな。あちらはなんとかなりそうだ。
もう一方を見る。
こちらは、戦いによる余波か、周辺の建物を叩き潰し、整地して作られた広場で二人が戦っていた。他の冒険者はそれを観戦しているのか、遠巻きに集まって動かない。
一人は長巻と刀を武器に戦っているミカン、もう一人は、超巨大な戦斧を手にした眼鏡の女性――って、アクスフィーバーのアーラさんじゃねえかよ。この人が俺の敵に回るのか?
まずはミカンの方か。ソード・アハトさんの方は何とかなりそうだしな。
俺は、そのまま戦闘の余波で更地と化した戦場へと降り立つ。
「主殿!」
ミカンがこちらに気付き、アーラを見据えたまま叫ぶ。遅くなったな、やっと目覚めたぜ。ちゃんと間に合ったタイミングで良かったぜ。
「お前が世界の敵か」
眼鏡をした女性が超巨大な斧をこちらへ向ける。戦鬼アーラ、クラン、アクスフィーバーのクランマスターにして、Aランク冒険者だったよな。確か、帝都に魔族が戦争を仕掛けたときに共闘したよな。向こうは、もう俺のコトを覚えていないのかな?
『アクスフィーバーのクランマスター、アーラ殿だな』
戦闘狂のミカンちゃんと対等に戦えているんだから、その実力は確か――なんだろうな。
「いかにも」
アーラさんの後ろ、観戦している冒険者達の中にイーラさん、ウーラさん、エクシディオンの顔も見えるな。
『何故、このようなことをする』
俺の天啓を受けたアーラさんは、少しだけ迷いを見せるが、すぐに表情を引き締める。
「元凶たる世界の敵を倒し、女神様に許しを請う為にっ!」
あー、なるほど。こっちだとそうなるのか。でもさ、あの女神が、俺を倒したくらいでやっぱ止めますなんて言いそうにないけどなぁ。
『女神を止めようとは思わぬのか?』
俺の天啓を受け、アーラは首を横に振る。
「女神様を弑するつもりか。そんなことをすれば、女神様の力によって成り立ったこの世界、滅びるのみだ」
あ、そうなの? でも、アーラさんは世界の真実を聞いたわけでもないだろうし、そう思い込んでいるだけ、だよな? 本当にそうなの? いや、もしかすると誰か扇動したヤツがいるのか? そうだよ、世界の敵って名前を知っている事もおかしいじゃん。スターマイン、ソルアージュって名前の女神の使徒か? それとも、あのメイド達か? どちらにしても暗躍しているヤツらがいそうだな。
まぁ、何にせよ、この暴動を鎮圧するッ!
「これ以上、語る事は無い!」
アーラさんが巨大な斧を腰だめに構える。すると、巨大だった斧の刃が、光り、さらに一段階大きくなった。
そして、それをそのままこちらへと投げ放った。くるくると風を切りながら巨大な斧が迫る。
「主殿!」
俺は叫ぶミカンを片手で制す。
俺はサイドアーム・アマラに持たせた真紅妃で、迫る斧を、そのまま叩き付け、撃ち落とした。
「な!」
アーラさんが驚きの声を上げる。叩き付けられた巨大な斧は地面を穿ち、そのまま空高くへと跳ね上がる。
驚いたのも一瞬、飛び上がったアーラさんが空中の斧を掴む。そして、そのまま体を軸として縦に回転する。まるで高速回転する丸鋸だな。
――《飛翔》――
俺は、そんなアーラさんの元へと飛び、回転する動きの間をぬって、逆手持ちした真紅妃の石突きを差し込む。突きが決まり、回転が止まる。アーラさんの体がくの字に曲がる。
「か、はっ」
そのまま崩れ落ちるように巨大な斧を握ったまま、地面へと落ちた。やり過ぎたか?
地面に叩き付けられたアーラさんは、それでも斧を杖代わりに、ゆっくりとだが、立ち上がる。まだ、その眼鏡越しの瞳には戦意が宿っている。さすがはAランク冒険者。
俺は、それを見て、観戦している冒険者とアーラさんたちの間へと飛ぶ。
「に、逃げる気、か!」
こっぴどくやられた側なのに、アーラさん、そんなことを言うのか。まぁ、見てなって。
――《インフィニティスラスト》――
俺は地面に向けてスキルを放つ。無限の螺旋を描いた真紅妃が地面を穿ち、底が見えぬほどの巨大な大穴を開け、土砂の雨を降らせる。
土砂の雨が止んだところで、俺はアーラさんの方へと振り返る。
『これが、相手している世界の敵の力だッ!』
観戦していた冒険者たちもアーラさんも呆然とした顔で空に浮かぶ俺を見ている。
『自分は女神を止める。力を貸せと言わないが、命が惜しいなら大人しく見ていろッ!』
俺は周囲一帯へと天啓を飛ばす。
その天啓を受けたアーラさんは崩れ落ちるように地面にへたり込んだ。
「わ、私の負けだ」
――[ヒールレイン]――
へたり込んだアーラさんに癒やしの雨を降らせる。
『ミカン、後は頼んだ』
俺の天啓を受けたミカンは微笑み頷いた。
さあ、次はソード・アハトさんたちの方だな。まぁ、もう片付いている可能性もあるけどさ。