10-13 ワールドエネミーです
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周囲の景色が変わり、そこは、もう見慣れたグレイシアの王城だ。戻ってきたな、戻って来られたな。最悪、効果が無かった的な戻ってこられないパターンも想定していたけどさ、案外、普通に戻ってくる事が出来たな。
にしても、あの女神、あのクソ女神、ホント、最低だな。神らしい傍若無人な態度だぜ。恐ろしい力を持っていたけどさ、むむむ、どう対処したら良いのか打開策が浮かばない。ホント、一旦、逃げて正解だぜ。
三つの神殿を攻略すればチャンスをやろう的な事も言っていたけどさ、色々と考えるよな。
まずは三つの神殿が何処にあるのか? ただ、これはある程度、予想できている。俺が地下世界で透明な壁の先に見えた巨大な神殿のような建物、アレが三つの神殿じゃないか? 俺は今まで二ヶ所の地下世界への入り口を見つけている。帝都にあった自宅――いや旧本社地下、そして迷宮都市近く。これは、後一ヶ所、地下世界へと降りる事が出来る場所があって、それぞれの先に神殿があるってパターンじゃないかなぁ。八大迷宮を全て攻略した今なら、封じていた門も開いているはずだしな。
次に、だ。誰に頼んで三つの神殿を攻略するか、だよな。まぁ、三つ目の地下世界への入り口を見つけてからだけどさ。女神が言っていたよな、一人、一つの神殿だってさ。何という女神に都合の良い仕組みだって感じだけどさ、俺が全ての神殿をまわって攻略って手段は取れないわけだ。信頼出来る仲間に神殿攻略を頼まないと駄目なんだけど、うーむ。頼むとしたら、神国のセシリーやジョアン、俺の国に来たキョウのおっちゃんやソード・アハトさん、紫炎の魔女、魔族の女王ステラ、それにミカンとシロネ、か。他にも頼れそうな冒険者たちを、そう小憎たらしいバーン君のパーティとかさ。あー、ミカンとシロネを八大迷宮『名を封じられし霊峰』から回収しないと……。あの二人、あそこで待ちぼうけ状態だよな。
「エミリオ、後でミカンとシロネを迎えに行くぞ」
「にゃ!」
俺の肩に乗っていたエミリオが任せろと言わんばかりに鳴く。おうさ、エミリオ、お前の力でひとっ飛び――回収だな。
女神が日時を守るなら30日しか猶予がないワケだしなぁ。ホント、忙しいぜ。
一番の問題は、女神をどうするか、なんだよな。女神はチャンスをくれると言った、でもさ、そのチャンスってぇのが、どういうモノか分からないんだよな。そんな女神の気分でどうとでもなるようなモノを信じてすがるほど、俺は脳天気じゃないからな。
となると、だ。女神と対等か、最低でも、女神に存在を認めさせるくらいの力は欲しいよなぁ。あんな最悪の性格をした女神のご機嫌を伺い続けるなんて無理だぜ。
でもなぁ、現状、何も良い考えが浮かばないんだよな。それくらい圧倒的過ぎる。突然さ、不思議な力に目覚めて女神を圧倒するとか起こらないかなぁ。《スキル合成》スキルや習得したスキルで、と思わないでもないけどさ、それらは全て女神が仕組みを作った、女神の手のひらの上だからな。それで打開できるとはとても思えない。
ホント、問題が山積みだぜ。
あー、そういえば、せっかく手に入れた千鬼丸やなけなしのGPで交換したゴールデンアクスを置いてきてしまった。それに俺が手に入れた女神装備も迷宮王装備も、あー、もうッ!
ただ、叡智のモノクルだけは《変身》スキルを使ったときに取り込んでいたからか、回収されなかったな。それだけはラッキーだったな。ホント、《変身》スキルを使っていて良かったぜ。
さあて、まずは神国のセシリーに協力を頼むかな。色々と方策を考えて、女神をぎゃふんと言わせてやろう。
色々と忙しくなるな。
その瞬間だった。
俺の右手が血飛沫を上げて跳ね飛んだ。俺は、それを見て、あ、《変身》スキルを使った状態って血が流れているんだ、以前からそうだったかなぁ、なんてのんきに考えていた。
……。
体に、俺の体に線が入る。
大きく血飛沫を上げ、体がゆっくりとずれていく。
あ、へ?
「にゃ、にゃあ!」
エミリオが鳴き叫ぶ。
エミリオがずれていく?
俺の視界が、ゆっくりと斜めに……。
って、不味いッ!
もしかして、女神の攻撃?
逃げ切ったつもりが逃げ切れていなかった!?
不味い、不味い。
死ぬ、死んでしまう。
手に入れたはずの《再生》スキルが発動しない。
俺だって、あのルナティックってヤツほどじゃないにしても、SPは結構な量があるはずだ。それが全く働いていない。やはり、女神はこの世界の法則の外側にいるのか?
いや、そんな事を考えている場合か。
足が砕け、自重を支えきれず、体が倒れる。
不味い、不味い。
体が、俺の体がバラバラにされている!?
死ぬ、これは死ぬぞ。
こ、こうなったら、奥の手だッ!
――《変異》――
《変異》スキルを発動させる。今まで《変身》した状態から《変異》スキルを使った事は無いが、大丈夫、だよな?
不安は残るが、それでも《変異》スキルの再生能力に賭けるしかない。あの《超再生》なら、もしかして……。
そこで俺の意識は途切れた。
ああ、また真っ暗な闇に飲み込まれていくのか。