10-9 余裕なのはどちらか?
―1―
「ふむ、目を閉じるか」
ルナティックが呟く。
「その状態でこれが回避出来るかね」
ルナティックが聖剣を掲げる。おーい、目を開けたままの分身体は無視かよ。まぁ、分身体の攻撃は、あっさり躱されているからさ、無視して構わんと思われているのかもしれんなぁ。これがレベルの差、か。
聖剣を中心として、まるで羽が広がるかのようにルナティックの周囲に8本の剣が現れる。まるで音叉のように刃の部分が二つに分かれた剣。
「さあ、奏でよ、ムーンライト」
ルナティックが聖剣を指揮棒のように振るい、それにあわせて8本の音叉の剣が空を飛び交う。
音叉の中心部から光が放たれる。次々と光が放たれる。ビット攻撃だと!?
――[エルアイスウォール]――
――《魔法糸》――
氷の壁で光を防ぎ、《魔法糸》を飛ばし、その勢いで回避する。えーい、鬱陶しいな。
「いつまで躱しきれるかね」
随分と余裕だな。いやぁ、よく分かるよ。力を持ってしまうとさ、何故か無性に、その力を解説したくなったり、舐めて、いたぶろうとしてみたりとかさ、特に相手が格下で、負ける要素がない時とかさー。うむ、分かる、分かる。俺もさ、同じ気持ちになりそうなのを、我慢して、チャンスをものにしようとしているワケだしさ。
分かるか? 俺がどれだけの数の戦いを経てきたのか。俺がどれだけの数の豚顔のゴリラを倒し続けたのか。どれだけ戦い続け、スキルを得て来たのか、分からないだろうなッ!
飛び交う光を回避しながら、ルナティックへと迫る。俺の動きを見たルナティックは大きく後方へと飛び退く。素での能力が高いからか、動きが大げさなんだよッ!
そこを新分身体が待ち構える。
――《百花繚乱》――
新分身体が手にした千鬼丸から高速の連続突きが放たれる。しかし、それすらもルナティックには躱されてしまう。見てから回避かよ。素の運動能力が高いってのが、これほど厄介とは……。
『なるほど。回避してばかりなのは、攻撃を食らうと危ないからかな?』
わざわざ女神に聞こえない天啓を使って、ルナティックを煽る。女神が事態に気付いて気まぐれで参戦でもされたらたまらないからな。いや、そうなれば、意見を直接言う事も出来るのか?
俺の天啓を受けたルナティックの動きが止まる。空を飛び交っていた音叉の剣も空中で静止している。
「なるほど。小賢しい挑発を行って少ない機会をものにしようと……哀れよな」
乗ったか。
「良かろう。攻撃してみるがいい。極みに至った者の厚さの違いを見せてくれよう」
余裕だな。分かるぜ、この俺の赤い瞳で見えるからな、お前の周囲を覆っているSPの層が厚すぎるくらいに厚いのがな。下手したら魔王と同等か、それ以上だな。
たく、魔法が通じないんだったら、《変身》スキルではなく《変異》スキルの方を使うべきだったよなぁ。周囲に魔素が多く漂っているから、魔法の方が有利になると思ったのが間違いだったぜ。
ま、それも関係ない。
これで終わりだからな。
動きを止めたルナティックを囲むように分身体を動かす。まずは一手目だな。
ゴールデンアクスを持った旧分身体を動かし、そのままルナティックを両断する。ルナティックがゴールデンアクスの一撃を受け、真っ二つになったかのように見えた瞬間、それはすぐに元に戻った。
「満足したかね。少しでも攻撃が通ったかと思ったかね」
ルナティックは得意気だ。知ってる、知ってる。そうだよな、そのSPの厚さだ、それを抜けないと攻撃が通らないよな。攻撃が通ったように見えても、周囲のSPがすぐに再生させてしまうだろうからな。この世界のルール、知ってるよ。
そんなことは知っているんだよッ!
こっからは全力全開、本気だぜ。
一気に決めるッ!
――[エルハイスピード]――
風を纏い、早さを底上げする。
――《スイッチ》――
《スイッチ》スキルを使い金剛鞭を取り出し、旧分身体へと投げ渡す。
――《足払い》――
新分身体が忍術の《足払い》を放つ。《足払い》を喰らったルナティックが無様に転ける。《足払い》は、な、2本足で歩いているヤツを必ず転かせるスキルなんだぜ。俺は、こんなのも持っていた訳だ。
「何を! しかし、無駄だ!」
――《ゲイルスラスト》――
旧分身体が鈍器のような金剛鞭をルナティックへとねじ込む。
――《斬》――
新分身体が千鬼丸から強力な一撃を放つ。
――《W百花繚乱》――
真紅妃と槍形態のスターダストから穂先も見えぬほどの高速の突きが放たれる。
「無駄だ!」
ルナティックが煩わしいと言わんばかりに腕を振り払い、ゆっくりと立ち上がる。こちらの攻撃がまるで効いていない――そよ風のような扱いだな。が、逃がさねぇぜ。
――《飛び膝蹴り》――
新分身体から放たれた膝蹴りがルナティックを縫い付ける。そして、そのままルナティックに覆い被さり、千鬼丸を振るう。
――《雪》――
舞い振る雪のような無数の剣閃が生まれ、
――《月影》――
見る者を幻惑する月の軌跡を描き、
――《百花繚乱》――
無数の突きと共に真っ赤な華を咲かせる。
ミカンが使った連続攻撃だぜ。
「その程度の力で勝ったつもりか!」
ルナティックは流れるような連続攻撃を無視して立ち上がり、聖剣を動かす。それに合わせて空中で動きを止めていた音叉の剣が動き出す。
――《スイッチ》――
《スイッチ》スキルを使い水天一碧の弓を取り出し、サイドアーム・ナラカに持たせる。
――《不射》――
弓士の上位クラスである弓聖のスキル《不射》を使い、弓の弦を弾く。水天一碧の弓から放たれた衝撃波が動き始めた音叉の剣を吹き飛ばす。
――《トリプルアロー》――
そのままサイドアーム・アマラに矢を持たせ、3本の矢を放つ。
――《レイジ》――
怒りを溜め、攻撃をあわせる。
――《フェイトブレイカー》――
――《フェイトブレイカー》――
旧分身体の持った金剛鞭が、新分身体の持った千鬼丸が、動く。
ルナティックの運命を壊す為、動く、煌めく。
水平切り、袈裟斬り、斬り上げ、斬り降ろし、左右から星を描くような流れる動作が、ルナティックの表面を覆っていたオーラの膜を削っていく。
「ば、馬鹿な」
おう、慌て始めたな。そりゃあ、攻撃を通さないと思っていたSPの膜がガリガリ削られ始めたんだからな、焦るだろうさ。
そして、俺は真紅妃と槍形態の光り輝くスターダストを構える。
――《Wインフィニティスラスト》――
二つの無限の螺旋が生まれ、ルナティックを貫く。
螺旋が、覆っていた膜を、オーラを弾き飛ばし、無防備な体を貫き、突き抜ける。
「……ぁ」
そしてルナティックは何か言葉を発しようとして、そのまま息絶えた。
まずは、一人ッ!
くそ、思ったよりも相手が強すぎて、手加減が出来なかった。隙を突いて一気に倒しきる事しか出来なかった。余裕で勝てたようで、危なかったな。1対1でこれか。後の二人の動向次第だと……あー、早く14型が復活しないかなぁ。