10-7 ルナティックとの戦い
―1―
「何をするつもりなのかね」
『見ていろ!』
無数の《魔法糸》が俺を包み込み大きな繭を形作っていく。
ルナティックは俺の《変身》スキルの発動が終わるのを、この無防備な時間を、攻撃もせず待ってくれるようだ。上位者としての余裕だろうが、それを後悔させてやるぜ。
にしても、この変身中の間の時間を何とかするべきだよなぁ。例えば14型が、ちゃんと動いていれば、そうだよ、あいつがフリーズしてなければさ、14型に守って貰えばいいんだけどさ、今回みたいにフリーズしている時や俺独りの時は……うーむ、《分身》スキルかな。《分身》スキルを使って、それを動かして守ればいいか。あー、そう考えると、今回も最初に《分身》スキルを使っておくべきだったなぁ。
そして、孵る。
繭の中から手を伸ばし、それを引き裂き、こじ開ける。
――《魔法糸》――
俺はすぐさま《魔法糸》を紡ぎ、体に巻き付ける。こんな敵の目の前で素っ裸で登場なんてしたくないからな。
そのまま体を繭から引き抜き、外へと飛び出す。
――《換装》――
《換装》スキルを使いガーブオブレインを、てぶくろを、そして、その上から夜のクロークを羽織り、黄金妃に足を通す。女神セラの白竜輪が俺の首へとマフラーのように巻き付く。
「そ、その姿は……!?」
ルナティックが驚きの声を上げる。マント、ひらひらだぜ? って、そりゃあ、驚くか。お前達や天竜族とそっくりな姿なんだもんな。って、ん? もしかして、こいつらも天竜族か?
【名前:ルナティック】
【種族:天竜族】
俺は赤い瞳で確認する。正解、か。まぁ、この世界の仕組みの枠の中にいるヤツらだもんな、当然か。
「わたしたちの姿を真似るとは、不遜な!」
あ、そういう反応。別に真似したわけじゃないんだけどなぁ。
「よかろう。力の差というものを分からせる必要があるか」
ルナティックの手に剣が生まれる。
俺はすぐさま赤い瞳で、その情報を読み取る。
【聖剣ルナブレイク】
【月を穿つほどの威力を秘めた神話級の聖剣。ムーンライトの指揮剣】
こいつ、聖剣とか取り出し始めましたよ。まぁ、神様直属だもんな、良い物を持っていてもおかしくないか。
「ふふふ、極まった者の力を受けてみよ。お前達とは筋力補正も敏捷補正も、単純なレベルが違うのだよ」
ルナティックが動く。
俺との間合いを一瞬で詰め、聖剣を振るう。それは単純な、ただの斬り降ろし。だが、その早さが、秘められた力が、全てが桁違いの次元にあった。うん、確かに、今まで戦った相手とはレベルが違うな。
俺は真紅妃を自身の手で握る。
そして、俺は、その一撃を真紅妃で受け止めた。
周囲に重い金属音が響き渡る。
「な、なんだと!?」
ルナティックは、力量の差を思い知らせるはずの一撃が、俺に簡単に受け止められ驚いているようだ。
まぁ、俺の力も凄いが、それよりも、聖剣を受け止めた真紅妃が凄いんだけどな。俺の真紅妃は、な! そんな聖剣と呼ばれるような神話級の武器でも、ものともしないくらい成長しているんだぜ! 成長する武器だからな、こんなことも起こり得るのだよ。
「何も極まっているのはお前だけじゃないぜ」
俺は周囲を見回す。ここ、結構、広いよなぁ。メイド達や、残りの二人は遠くからこちらを見守っているようだ。よし、これなら自由に、全力全開で戦えそうだ。
――《パワーストライク》――
俺は真紅妃に力を込め、聖剣を弾き飛ばす。そのままルナティックが後方へと飛び、距離を取る。
さあて、さっき合成したスキルをさっそく試してみるか。効果を知るには、いきなり実戦で試すのが一番だな!
――《二重分身》――
俺がスキルを発動させると、二体の――二人の分身体が生まれた。よし、予想通りだ。一人はいつも通りの分身体、もう一人は新規の分身体だな。何も装備を持っていない。いや、まぁ、デフォルトの衣装なのか、ローブだけは身につけているけどさ。安物、ぽいよなぁ。
今までの分身体はゴールデンアクスを持っているし、新規の分身体はどうしようかな。
あー、そうだ。
俺は新しい分身体に女神セラの銀翼と八大迷宮『名を封じられし霊峰』のボスから、先程、手に入れたばかりの刀を渡す。千鬼丸だったかな。
ローブ姿にマントをひらひら、刀を持った分身体の完成だ。こっちの分身体は魔法反射特化で侍スキルを使う用って感じだな。
「それが、奥の手かね」
ルナティックは油断したまま、こちらを見ている。あら、まぁ、まだまだずいぶんと余裕そうだな。
それなら3対1でも卑怯とは言うまいね。
さあ、行くぜ。