10-6 狂ってるのはどちらか
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さて、どうする? 真紅妃を構えてみたものの、こいつら、女神に次ぐ実力者なんだよな? どうする、どうする?
「わたしに任せてくれ。この不敬なやからに立場というものを思い知らせてやろう」
月の冠をかぶった少年が立ち上がり、言葉を続ける。
「いや、女神セラ様の御意志が理解出来ぬような魔獣だ。立場という意味も理解出来ぬかもしれんな」
好き放題言いやがって。いや、でも三人ではなく、一人で相手してくれるみたいだし、これはチャンスか?
「言葉を理解する知恵だけはあるようだから、教えておこう。いやはや……魔獣に話しかけるとはわれながら滑稽な気もするのだがね」
月の冠をかぶった少年がこちらへと歩いてくる。えーっと、確かルナティックだったか。名前的に狂ってるのか? いや、もしかすると女神の狂信者的な意味かもしれないな。
「お前は、この世界にレベルという仕組みがあることを知っているな?」
ルナティックはこちらへゆっくりと、さらに一歩、また一歩と近付いてくる。こいつ、何を言い始める気だ?
「お前のレベルはいくつだ?」
俺はルナティックの会話を聞きながら、ステータスプレート(螺旋)を操作する。
「そのちっぽけな魔獣の姿、30くらいか?」
今の内に、最後の八大迷宮『名を封じられし霊峰』で手に入れたスキルツリーを取得しておこう。少しは有利になるかもしれないからな。
「いや、迷宮を踏破したのだ、50くらいか?」
《MP再生》スキルは魔素からMPを回復出来る俺には必要無いな。ここ、溢れるくらいに魔素が満ちているみたいだしなぁ。あー、でも《復活》スキルの前提条件が《MP再生》スキルのレベル8みたいだし、うーむ、悩むなぁ。まぁ、時間も無いし、とりあえずスキル合成だけ取っておくか。
「この世界の住人ならば、高くても、その程度よなぁ」
【《スキル合成》スキルを獲得しました】
【《スキル合成》スキル:スキルを合成し新しいスキルを作成する】
なるほど、予想通りのスキルだ。多分、《スキル分解》スキルの方で元に戻す事も出来るんだろうな。
「お前達が苦労して戦っていたであろう魔族たちの強さですら、高くても50、その程度なのだよ」
へー、魔族って50レベル相当の強さなんだ。って、考えている場合か。こいつが余裕ぶっている間に《スキル合成》スキルを試してみよう。
――《スキル合成》――
《スキル合成》スキルを発動させると空中にスキルの一覧が表示された。うお、びっくりするな。ルナティックは、そんな驚いている俺を見ても特に気にした様子はなく、こちらへと歩いてくる。ん? もしかして、これ、俺にしか見えてない感じなのかな。
《二重分身》―《二重》《分身》
こんな感じでスキルの一覧がずらずらっと表示されているから、多分、左が合成後、右が合成元って感じか。
とりあえず合成して《二重分身》を作ってみるか。これ、《分身》の効果が2倍になるって感じかな?
《二重分身》スキルが完成っと。
「絶望的な事を教えてやろう」
ルナティックが大げさに両手を掲げる。
「わたしの、わたしたちのレベルは99だ」
ん? そうなのか。お前達でもカウンターストップは99なんだな。8が好きな世界なのに意外だなぁ。上位者なら変わるのかと思っていたよ。
「上限に、この世界の極みに到達しているのだよ」
ルナティックは得意気だ。
俺は大きく息を吐く。
「どうだ、絶望したかね」
そうか、良かった。
それが聞けて、本当に良かったよ。
俺が不安だったのは、な。お前達が、この世界の仕組みの外に居た場合なんだよな。この世界を作ったのが女神って事だからさ、そういう可能性もあるんじゃないかって不安だったんだよなぁ。ゲーム的にレベルとかを作ったのも女神の仕業だろうしな。
そうか、お前達も、俺たちと同じ枠組みの中か。
ルナティックの背から無数の黒い手が生える。そして、それにあわせて何処からか音楽が流れ始めた。荘厳な何かを称えているかのような音楽――何だ、これは?
『何だ、この曲は?』
「わたしの《楽曲》スキルだよ。戦いには曲が必要、これも女神セラ様の教えなのだよ」
女神セラ、か。変わったヤツだ。
と、向こうは曲も流して、やる気十分、準備万端って感じだな。
『エミリオ、そこでフリーズしている14型を連れて離れているのだ』
「にゃ!」
俺が天啓を飛ばすと、エミリオが一声鳴き、フリーズしている14型のメイド服を咥え、無理矢理引き摺りながら動かしていく。14型は復活まで、もう少し時間がかかりそうだな。
……。
俺は改めてルナティックを見る。
もきゅもきゅ。
「何のつもりだね」
俺としては不敵に笑ったつもりなんだが、うまく行かないな。
『ここに来る前に出会った冒険者が言っていたのだがな』
俺は天啓を飛ばす。
「いまさら、何を言うつもりかね?」
『誰かが到達した頂は、他の誰かでも到達出来る可能性がある、とな』
そうだ、あのヒイロという蛮族姿の冒険者が言っていたな。そこは俺も同意しておこう。同じ枠組みの中にいるのなら、そこには至る事が出来るはずだ。
到達している者がいる可能性、その上を行っている者がいる可能性。
お前が極まっているというなら、俺も本気でやらせて貰うッ!
――《変身》――
さあ、俺の本気の力を見ろッ!