10-3 世界の真実を知る芋虫
―1―
「茶番はそれくらいにしなさい」
メイド達の奥から静かな声が広がる。それに合わせてメイド達が一斉に左右へと別れる。
茶番、か。
二手に別れ頭を下げているメイド達の中を玉座を目指し歩いて行く。俺の後ろを歩いている14型は受け取ったパーツを飲み込みながら歩いているようだ。マイペースだなぁ。それにしても相変わらず飲み込んで強化するんだな。これで14型は、あの0型の言う事が正しいなら、記憶以外のパーツを手に入れた事になるのか? もう他にパーツはないんだよな?
俺たちが、いや、俺がそこへ近付くと玉座の三人は驚きの声を上げた。
「あれは星獣か?」
「ならば星の管轄ではないかね」
「しかし、見覚えがないよ」
何だ、何だ? 俺の姿が異常だとでも言うのか? そんなの今更じゃんかよ。にしても、こいつら、ちゃんと星獣って呼ぶんだな。普通の人たちは『星獣様』で一単語として認識しているのにな。
玉座に座った三人の子ども。だらっと伸びたひらひらの神官服を身に纏い、少年とも少女ともとれる中性的な顔立ちをしている。まぁ、美形だよな。そして、その頭には、こちらから見て右から星、太陽、月を模した冠が乗っている。まるで学芸会みたいだな。
「控えろ!」
こちらから見て右側の星の冠をかぶった少年が叫ぶ。えーっと、控えろって言われても、俺、この体だからなぁ、膝をついたりとか出来ないぞ。14型さんも無視ししているしさ、頭の上の羽猫なんて欠伸してるぞ。
「何? 僕の命令が効かない?」
星の冠をかぶった少年が首を傾げる。
「何をしている。星の管轄だろう、早く従わせるのだ」
「さっきからやってるよ。僕の命令が反応しないんだよ」
太陽の冠の少年が口元に手を当てる。
「もしや、セラ様が秘密裏に作ったのでは?」
「なるほど、それなら僕の管轄下にないのも頷けるね」
何だ、何だ? セラって女神の事だよな? 星獣様、星獣様って言われていたけどさ、何か違うのか? 俺は思い違いをしている? 確か、シロネは迷宮とか人里を守っている人の言葉が分かる魔獣みたいな感じで言っていたよな? もしかして、それは間違いなのか?
『待て、星獣とは何だ?』
俺が天啓を飛ばすと月の冠の少年が怒り出した。
「無礼な。作られたモノ風情がわたしらに口を出すというのか」
それを太陽の冠の少年が諫める。
「まぁ、待て。アレは一応、迷宮踏破者。私たちは、そのように扱わねば」
「なら、こちらも自己紹介かな」
「ふむぅ、仕方ない」
怒っていた月の冠の少年も腕を組み、そっぽを向きながらも頷く。
「と言うわけだ。まずは私から。私は、女神セラ様より太陽の神殿を任されたソルアージュだ」
儀式とかが好きそうな神殿だな。
「僕は星の神殿を任されたスターマイン」
星の冠をかぶった少年が小首を傾げながらニヤリと笑う。
「わたしは月の神殿を任されたルナティックよ。先程の機械人形が言っておったが冒険者ギルドのギルドマスターもやっておる」
何だろうな、こいつら、この世界の影の支配者だとでも言うんだろうか。何で、全ての八大迷宮を攻略したら、こいつらの前に来させられるんだ? これから何が始まるんだ?
「星獣の説明を聞きたがっていたよね? それっぽい存在に改めて説明するのも不思議な感じがするんだけどなぁ」
「星獣の事を知らない星獣。それだけ異質な存在ということだ。説明してやってくれ」
太陽の冠の少年の言葉に星の冠の少年は大きなため息を吐く。おー、説明してくれるのか、意外と良いヤツらなのか?
「星獣とは、星の神殿を守る為に作られた僕の配下のことだよ」
へ? そ、そんな単純な、マジで?
星の神殿を守る獣、魔獣だから、星獣? う、嘘だろ。もっと深い意味や隠された何かがあるのかと思っていたぞ。
「まぁ、新しい地表を作った時に、そちら側に置いてけぼりになったヤツらも居たからさ、そいつらが何か勝手な事をやっているかもしれないけどね」
「お前がしっかり管轄しないから、そういったものが出るのだぞ」
「うへぇ。でもさ、星獣は主である僕には逆らえないんだし、最終的には命令すればいいんだしさ」
「しかし、ここに命令を受け付けない星獣モドキがおるようだがな」
いやいや、どういうことだよ。
……。
って、ことは、俺は星獣じゃなかったってコトになるよな? いや、もしかしたら、この体は星獣だけど、俺という意識が入っているから、こいつの命令を無効化している? あ、あり得るかも。
「いや、話を戻そう。女神セラ様が降臨される前に、この世界の真実を伝えておくぞ」
「こんな頭が悪そうな星獣モドキに言っても無駄だと思うけどなぁ」
「セラ様の意志をないがしろには出来ぬ」
この世界の真実って何だよ。
太陽の冠の少年がゆっくりと口を開く。た、溜めるなぁ。
「この世界は滅んでいる」
は?
「そう、この世界は一度滅んだのよ」
へ?
「それは僕たちが生まれるよりも前だね」
ほ?
「私たちも全ては知らないが、セラ様が力をまだ完全に扱い切れていなかった頃の話のようだ」
「そう、その時に世界は壊れ、滅んだんだよ」
「しかし、大いなる意志が世界を元に戻そうとしたのよ」
は、はぁ。
「世界だけを元に戻す事は出来ず、地表にいた異物たちもあわせて復活した」
「そうそう、魔族だね。邪魔だよね」
「女神セラ様に逆らう愚かな奴らよ」
滅んだって、真面目に世界が消滅したとか、そんな感じなのか? ここは再構築した世界だとでも言うのか?
「その愚かな者達と女神セラ様、その配下たる私たちの戦いによって、再度、世界は砕けた」
「女神セラ様は砕けた世界を分割し地下に、そして新しい地表を作ったんだよね」
「それが今ある地上よ」
えーっと、地下世界が元からある地上? いや、一度崩壊しているから、それも正確じゃないのか?
「お前達には分からぬだろうが、新しい地上は閉じられた世界」
「端っこもないし、星々の世界もない」
「時間と天候すら歪み繋がっておる」
な、なんじゃそりゃ。そんな気持ち悪い世界だったのか? いや、でもさ、空を見れば星も見えるし、二つの月だって……。
「全ては偽り」
「全ては仮初め」
「全ては幻」
は、はぁ。そんな世界を作るとか、まさに神の御業だな。いや、女神だったな。だから、女神なのか。
こ、これは、た、確かに、この世界の真実だよ……。最初の世界樹で聞いた言葉は正しかったわけだ……。
2018年4月30日修正
記憶意外 → 記憶以外
2021年5月7日修正
それぽい → それっぽい