10-2 メイドは自己紹介する
―1―
「それでは妹たちを紹介しましょう」
0型が一歩後ろに下がる。
それに合わせるように、こちらから見て左側の大柄なメイドが一歩前に出る。
「2型だ。セカンドと呼んでくれ」
短めでボサボサな赤髪の大柄な女性が素っ気ない感じで喋りお辞儀する。その背中には大きな剣が見えた。大剣を背負ったメイドとか、どうなってるんだよ!
挨拶を終えた2型が一歩下がり、次に隣のメイドが一歩前に出る。
ゆるくふわっとしたピンク髪のお嬢様のようなメイドがスカートの裾を掴み優雅にお辞儀する。そして、上げた顔には淫靡な表情を浮かべていた。
「3型ですわ。サンとお呼びください」
次に動いたのは、その隣に立っていた不機嫌そうな銀髪の小柄なメイドだ。手には釘の刺さったバットのような物を持っている。ぶ、ぶっそうだなぁ。
「4型。フォウって呼べば?」
もしかして、全員の自己紹介をするのか? ま、まぁ、14型の仲間みたいだし、聞いておくか。でもさ、俺、絶対覚えられないぜ?
次は青髪のサイドポニーのメイドだ。手には篭手のようになった鉤爪がついている。
「6型です……。ムーちゃんで……」
アレ……? 6型? 6型って言ったか、この子。6型って言ったら、迷宮都市側にあった地下世界の入り口にいた子じゃん。どういうことだ? 14型にコアを託して動かなくなっていた気がするんだが、あれから動けるようになって、この一団に加わっているのか?
次は眼鏡をかけた金髪の神経質そうなメイドだ。大きな盾を持ち、お辞儀した時、それに押し潰されそうになっていた。
「ククク、9型です。ノウェムと呼んで欲しいですね」
お辞儀をした後、わざとらしく眼鏡をクイッと持ち上げている。
次はちょっと小さめの元気が良さそうな黒髪のメイドだ。頭の前側で髪を結んでいる。
「はーい、はーい、11型でーす。お久しぶりー、ゼノって呼んでねー」
お久しぶり? いや、初めて会うだろ。
最後は、大きな鎌を持った白髪のメイドだ。長く伸ばした髪がカールしている。右目に眼帯をしているのはファッションなんだろうか。
「13型ね。デスでいいわ」
そうですか。えーっと、死神モチーフとかですか。
8人のメイドが自己紹介を終え、また一列に並ぶ。
えーっと、誰が誰だ。思い出せ、思い出せ。
お姉さんぽい0型のゼロ。
大柄な2型のセカンド。
ピンクな3型のサン。
不良ぽい4型のフォウ。
大人しい6型のムー。
眼鏡の9型がノウェム。
元気なちびっ子の11型がゼノ。
死神な13型がデス。
か。そうか。覚えられるかよッ! お前ら、全員違う髪型しやがって、髪型の種類なんて俺がわかるかよッ! しかも本当はもっと数がいるんだろ? ここからさらに他の番号が補充されたら――もう、無理です。
と、そうだ。
『6型と言ったか』
「ムーです……」
俺の天啓を受けた6型がぽつりと呟く。
『旅の途中、同じ6型という機体と出会ったのだが……』
「ムーです……」
はいはい、名前で呼べって事な。こいつら14型と違って名前にこだわるんだな。
「申し訳ありません、その6型とは何処で会いましたか?」
0型が会話に入ってくる。
『地下世界の入り口だ。その時は壊れて動きを止める寸前のような状態だったのだが』
俺の天啓を受けた0型は、ハッとしたような表情を作り、6型を見る。
「トドメを刺さなかったのですね」
6型は顔を伏せ、小さく震える。
「いえ、許しましょう。あなたにとっては双子、本当の意味での同一機体ですものね」
0型は優しく微笑む。
「その感情を得たということを尊重します」
ふーむ。えーっと、話の流れからすると、ここにいる6型は地下世界にいた6型とは別の6型なのか。そうか。にしても、こいつら仲間同士で戦っていたのか?
「お、お、お前達はーっ!」
俺の後ろでフリーズしていた14型が突然叫んだ。へ? 14型さん、急にどうしたの?
―2―
「あら、やっとお目覚めですか?」
0型が14型に微笑みかける。
「お前達は、お前達は、お前達は!」
14型さんがあらぶってらっしゃる。14型にしては珍しいな。というか、初めてじゃないか?
「あらあら、どうしました?」
0型が笑い、その懐から何か球体のような物を取り出す。
「これは、あなたの記憶のパーツ。記憶が無いのに覚えているなんて、さすがですね」
そして、並んでいる他のメイド達も色々な形の部品を取り出す。
「あなたから抜き取ったパーツですよ。目覚めたあなたならパーツを求めて動くと思ったのに、そこにいる星獣の方に従って一向に動こうとしないんですから、少し困りました」
0型が唇に手をあて、困った困ったという感じの表情を作る。何だろう、こいつ、表情豊かというか、表情過多だよな。
「私たちを倒すごとに、あなたのパーツを返して、と言いたいところですが、ここまで来てしまった以上、そんな悠長な事をしている暇はありません。この私が持っている記憶のパーツ以外はお返しします」
「え? ゼロ姉、それでいいの?」
「ゼロ姉様には考えがお有りのようですわ」
「クク、そうですね」
「ち、しゃーねーなー」
メイドたちが口々に呟き、14型へと手にしたパーツを投げ渡す。
えーっと、うむ。
『お前達は14型と敵対しているのか?』
俺の天啓を受けた0型は首を横に振る。
「可愛い妹である14型と遊んでいるだけです」
0型は俺の方に笑顔を向ける、そして、すぐに14型へと向き直る。
「私たちは今、あそこにおられる月の神殿の主、ルナティック様に仕えています」
そして、また俺の方へと向く。
「あなたたちには冒険者ギルドのグランドマスターと言った方が分かりやすいかもしれません」
へ?
何だと?
あの玉座にいる偉そうなのがグランドマスター? 冒険者のトップなのかよ。




