2-72 風梟
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洞窟内に戻る。
『待たせた、出発は可能だろうか?』
「ええ、こちらは大丈夫です」
コーディさんに確認し、すぐに出発する。
洞窟を抜けフウキョウの里がある島に入るが、周りの風景は変わらない。木々が多く、こちらの島でも普通に森の中を進むしか無いようだ。
稀に名称が分からない魔獣と書かれた線や先程戦ったトレント、森ゴブリンなどの線も見えるが、猫馬車の効果か襲ってくる気配は無い。どうでも良いことだが、この島に入ってからホーンドラットの線は全く見えなくなった。雑魚は生き残れない島なのだろう。
そのまま4時間ほど進み、森の少し開けた場所で隊商が止まる。日が落ちてきたと言うことも有り、今日はここまでのようだ。
「明日の昼には着きますよ、後もう少しですが、よろしくお願いします」
コーディさんからの挨拶。
む。明日の昼には着くのなら、今日無理してでも進んでしまえば良い気がするんだがなぁ。
『よろしいか? 今日は初日や二日目と比べて、かなり早い時間のようだが、もう少し進めても良いのでは?』
うーん、何度も往復しているであろうプロに聞くことじゃ無いのかも知れないけどさ。確認、確認。気になるじゃん。
「ええ、本土は夜間でも余り凶暴な魔獣は出没しません。それに比べ、こちらの島は夜間に凶暴な魔獣が出没するため、日が落ちた時点で隊商を泊めることになるんです」
なるほどな。危険回避か。にしても、それならスイロウの里の出発をもう少し早い時間にしても良かった気がするよなぁ。まぁ、色々と理由があるんだろうけどさ。
今日もミカンさんと交代で夜の番をする。夜には凶暴な魔獣が出没すると聞いたが襲いかかってくるような気配は無かった。6時間もあると時間を潰すのが大変だ。魔法の練習は出来ないから(MPが切れて昏倒しても困るし、いざ戦闘になったときにMP切れなんて自殺行為だからな)今回は技の練習をすることにする。
スキル技は魔獣に攻撃を当てなくても使うだけでも熟練度が上がるので、こういった時に地道に熟練度を上げるのです。熟練度が上がると使用可能になる待ち時間が短くなるからね。早く9999にしたいなぁ。サイドアーム・ナラカや魔法糸の時みたいにスキルが追加されたり、変化したりするのかなぁ。楽しみです。
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4日目。
今日が最後の日か。というか、こちらの島に渡ってからの方が移動距離が極端に短いな。島を南西に移動する。どうもフウキョウの里はこの島の中央にあるようだ。
コーディさんの言っていたとおり昼前――およそ5時間ほどの歩みでフウキョウの里が見えてきた。
高台から見えるフウキョウの里は水堀で囲まれた五芒星の形をしており、水堀にかかった一本の橋だけが里への通り道となっているようだった。コレは、アレだ……五稜郭みたいだな。俺は実際には行ったことが無いけどね。いやまぁ、サイズや規模は全然違うんだけどさ。
猫馬車と共に高台からフウキョウの里へと降りていく。近づけば近づくほど大きさに驚く。これ、スイロウの里よりも近代的だよなぁ。堀に石壁……しかも結構な規模だ。これを作れるくらいは文明レベルがあるってことか?
フウキョウの里への唯一の入り口である橋の前には武者鎧で武装した猫人族が居た。うおぉ、猫だ。
コーディさんがその猫人族の守衛さんに近づき何かを見せて伝えている。しばらくすると通行の許可が下りたようで、俺たちは普通に橋を渡り、里の中へ入ることが出来た。
里の中は……異世界だった。いやまぁ、確かに異世界なんだけどさ。
歩く人、歩く人、みんな猫人族だ。しかもね、歩いている猫人族の方々、みんな和装なんですよ。建物も和風で、見るからに長屋みたいな建物があったり、お団子屋さんじゃんみたいなお店があったりと、江戸時代のセットに紛れ込んだみたいだ。猫人族の背の低さもあって、二本足で歩く猫が江戸時代のごっこ遊びをしているかのようだ。
なんで、こんなに和風なんだ。いや、これくらい和風だから侍のクラスがあるのか? コレ、下手したらうどん屋や蕎麦屋、米とかあるんじゃね? うおぉぉ、わくわくが止まらないぜ。米があればおにぎりを……というか、後はカレーとラーメンが見つかれば思い残すことは無いッ! ホント、楽しみすぎる。
そのまま、フウキョウの里の中を進み、一つの建物の前で隊商が止まる。まるで町奉行所みたいだな。
「護衛、ありがとうございました。ここが冒険者ギルドの出張所になります。ええ、ここでクエストは終了ですよ」
ああ、出張所があるのか。何処まで護衛すればクエスト終了になるのか分からなかったけど、これで終わりな訳ね。よっしゃー終了だー。
俺とミカンさんを冒険者ギルド前に残し、隊商の方々は去って行った。これから商売するのかねー。
「ラン殿、クエストの完了報告を行おう」
あ、そうだな。
俺たちは町奉行所みたいな建物の中に入る。中に普通に受付カウンターがあり、洋装の猫人族のお姉さんが居た。ふさふさの尻尾がぷりてぃです。というか、和風なのは建物の外見だけかよ……。
「クエストの完了をお願いする」
ミカンさんがステータスプレートを受付の猫人族の方に渡していた。よし、俺も完了しないとな。と、俺を見た猫人族のお姉さんが悲鳴を上げた。ふさふさの尻尾も逆立ってる。
「ひっ、てっきりテイムした魔獣かと思えば……何で魔獣が里の中に侵入を!」
あー、最近は驚かれることも少なくなっていたから忘れていたけど、今の俺の姿って芋虫の魔獣だった。幾ら敏捷補正が上がって二本足で歩けるようになっていようと、服を着て武器を持っていようが、姿は芋虫だしなぁ。里に入ったときなどに驚かれなかったのは隊商の連れているテイムした魔獣か何かだと思われていたからか……。
「あー、ラン殿は星獣様だ」
ミカンさんが苦い顔で説明してくれていた。
『驚かせてすまない。星獣のランと言う。これでもEランクの冒険者だ、今後よろしく頼む』
これ、ウーラさんの時のことを思い出すな……。また、各施設で説明をしないと駄目なのか。いっそ騒がれる前に魔法糸でふん縛って、それから説明するか! ……なんてね、そんなことをすれば普通に危険な魔獣として殺されそうだ。
「え、ええ? 星獣様……ですか? しかも冒険者?」
俺は首に提げているステータスプレート(銀)を見せる。
「え? 本当に?」
俺はそのままステータスプレート(銀)を渡す。
「あ、本当だ……。す、すいません。クエスト完了ですね」
まぁ、完了出来て良かったと思うべきか。しかし、ここでコレだと先が思いやられるなぁ。人型に憧れます。……小説とかだとさ、モンスター転生物って、すぐに人化するじゃん。俺も人化出来たりしないのかな、こう、背中からバリバリと出てくるとか……無いか、無いな。はぁ……、ホント先が思いやられる。現実は非情である。
「ラン殿、戦利品の分配もしてしまおう」
ミカンさんの提案。あー、そういえば冒険者ギルドの機能がここにあるのは分かったけど換金関係はどうなるんだろう。
「ああ、それならここに換金所の出張所がある」
この施設内にあるのか。
「ただし、出張所の為、素材を預けて後日の換金になる。その場ですぐに換金は出来ないのだ。長い時では1週間くらいかかる時もある」
うわ、不便だ。俺には転移のスキルもあるし、換金はスイロウの里に戻った方が良いかもなぁ。あ、後で忘れずにフウキョウの里の外に転移チェックをしておかないとな。
俺はミカンさんから、今回の戦利品の魔石の半分を受け取る。インフェルノツリーの木片は換金所に預けることになった。この木片の換金額の半分が後日、俺が受け取れる額ってワケだ。
さて、無事、フウキョウの里には着いたけれど……次はどうするかな。
大事なのは宿と侍のクラスの取得方法だよなぁ。