名を封じられし霊峰エピローグ
―1―
俺の視界に赤い線が走る。あの刀での縦切りか!?
横に回避し……しかし、鬼からの攻撃は来ない。《危険感知》スキルが狂った?
見れば、鬼が刀を持ち上げたまま、動きを止めている。いや、何かがその力を押さえ込んでいた。刀を持った鬼の手が震えている。何だ、何だ、何が起こっている!?
俺は14型の方を見る。14型は何か考え事でもしているかのように動かない。まるでエラーが起きてフリーズした時みたいだ。くっ、こんな時に。俺1人で何とかするしかないのか!?
鬼が唇を噛み締める。強く噛み締めているからか、そこから血がこぼれ落ちる。何が起きている!?
『聞こえるか!』
何者かの声が響く。だ、誰だ?
『俺が抑えている間に、その槍で――真紅妃で俺を貫け!』
いや、貫けって、いやいや、ちょっと待て。そんな事をすれば、せっかく会話が出来る相手だったんだぞ。そんな割り切って動けるかよッ!
鬼が呪縛を取り払うかのように雄叫びを上げる。そして、動く。
俺の前に立ち、刀を振り上げ、そして、
サイドアーム・アマラに持たせた真紅妃が鬼を貫いていた。軍服の男が自分の命を絶つ為に――自身で貫いた心臓、それを再生させるかのように作られた、代替えとしての魔石。魔獣化する切っ掛けとなった、その魔石を真紅妃が貫き、砕く。
あ……。
真紅妃が、いや、これは俺の意志なのか?
鬼の手から刀がこぼれ落ちる。
そして、鬼の体が紫の炎に包まれる。口から血を吐き出し、その命が尽きようとしている鬼が、その鬼が、俺を見て笑っていた。とても、嬉しそうに、そして寂しそうに、笑っていた。
鬼の体は、紫の炎によって燃え尽き塵となって消えた。塵は山頂に吹く風によって、何処かへと飛んで行く。
何だよ。
何だったんだよ。
まだ、全力で襲いかかってきてくれた方が良かった。後味が悪い。最高に最悪な気分だ。何だったんだよッ!
この迷宮の主を倒したからか、石櫃に作られた石の扉が開き始めた。
あ、ああ。これで八大迷宮『名を封じられし霊峰』も終わりか。
――エピローグ――
「ま、マスター?」
14型が再起動する。ホント、急にさ、ポンコツになるなぁ。
「にゃう」
羽猫もしょうがないなぁって感じで鳴いている。って、こいつ、今回は進化しないのか。それとももう少し後で進化するのか?
とりあえず先程の鬼が落とした刀は回収しておくか。
【千鬼丸】
【せんきまる】
相変わらず役に立たない鑑定だ。無理矢理読み取ったって感じだな。にしても、《変身》しなくても情報が読めたのは、俺の《鑑定》スキルのレベルが上がったんだろうか。うーむ、分からない。
ま、まぁ、石櫃の中に入るか。
14型、羽猫と共に石櫃の中へと入る。
そこは作りは違うが見慣れた小部屋だった。
部屋の中央には台座があり、その上にペンダントが置かれている。これが、この迷宮の攻略の品か。にしても、ペンダントか。うーむ、何処かで見た事があるようなデザインだな。とりあえず鑑定だな。
【イモータルペンダント】
【迷宮王製】
はいはい、いつも通り、と。効果は不明だが、まぁ、何かの役に立つだろう。
部屋の奥にはいつものように真っ黒な直方体が置かれていた。そして、そこに寄り添うように朽ちて骨となった死体があった。骨から伸びている線には『迷宮王の骨』と表示されている。ここにも迷宮王の骨があるよ。これだけ各所に骨があるってことは同一人物じゃないよな? 迷宮王は複数人居た? 何らかの称号とか、そういう感じなんだろうか?
まずはペンダントをゲットするか。
「マスター!」
と、そこで14型が反応した。何だ!?
俺たちの背後から、誰かが拍手をしながら現れる。誰だ!?
「んんー、それはブレスを完全無効化するペンダントですよ。世界樹の攻略なんかには便利ですねー」
現れたのはクロアさんだった。
何で、クロアさんが? クロアさん1人? どうやって、ここまで来たんだ?
クロアさんの腰に先程まではなかった植物のつぼみがついた剣が見える。
「んんー、やはり、あなたが攻略しましたかー」
クロアさんが俺たちの横を抜け、真っ黒な直方体の方へと歩いて行く。
『クロア殿、あなたは何者なのだ?』
クロアさんは俺の天啓を無視し、真っ黒な直方体の下に転がっている迷宮王の骨から、頭蓋骨を取る。
そして、頭蓋骨を俺たちの方へと向け、顎の部分をパカパカと動かす。そして、それに合わせて喋り始めた。
「ああ、うん、よくぞ、全ての迷宮を攻略した。私は迷宮王と呼ばれている存在だよ」
へ?
クロアさんが、迷宮王!?
八大迷宮・名を封じられし霊峰クリア