9-57 名を封じられし霊峰エントランス
―1―
はぁ、竜人たちの数が数だから、一日中戦っていた気分だよ。数は多かったからなぁ、ホント、多かったよ。
「むふー、素材が……」
倒した魔獣を素材扱いなんて、シロネさんは酷いなぁ。まぁ、冒険者家業、見返りがないと生活が出来ないもんな。
で、だ。
この小さな犬の置物は何だろうな? 何というか、キリッとしていてポチとか名前がついてそうな面構えの置物だな。このサイズ、どう考えても入り口にあった12個の台座の上に乗せろって事だよなぁ。って、ことは後11個もあるのか……。先は長そうだなぁ。
俺は犬の置物をサイドアーム・ナラカで持ち上げ、魔法のリュックに入れようとする。
……。
あれ? 入らない。何でだ?
同じように魔法のポーチXLに入れようとしてみるが入らない。何でだ? 普段だと、こう、しゅるしゅると吸い込まれるように入っていくのに、まるで壁があるかのように入らないぞ。はぁ、仕方ない。手に持つか。
『14型、すまないが、これを持って貰っても良いか?』
「マスター、了解です」
14型に持って貰う。戦闘要員のミカンちゃんや探索係のシロネに持って貰うわけにはいかないしな。こういう時に分身体が居ればなぁって、まぁ、すぐには作れないし仕方ないな。
さて戻るか。
って、さっきの吹き曝しの渡り廊下を戻るのか。あの矢を避けられる気がしないんだが、うーむ。14型でも反応出来なかったみたいだしなぁ。そうだなぁ。
『ミカン、シロネ、14型、エミリオ良いか?』
皆に天啓を飛ばす。
「むふー、ランちゃん、どうしたんです?」
「主殿?」
皆が俺の元に集まる。
『帰り道だ』
俺の天啓を受けたシロネとミカンが、あーって感じでうんざりとしたような、そんな表情を作る。
『自分が先行する。合図を飛ばしたら、自分を無視して駆けていけ。特に14型、分かったな?』
俺の天啓を受け、ミカンとシロネが頷く。
「マスター、了解です」
14型がスカートの裾を掴み優雅なお辞儀をする。14型さん、頼むぜ?
―2―
ミカンが押し開けた扉の隙間から外に出る。
瞬間、何かに狙いを定められたかのような感覚が走る。こー、背筋がぞくぞくするというか、じりじり来るような感じが……。こちらから攻撃したいのにさ、距離的に難しいのが、なぁ。《飛翔》スキルで飛ぶにしても、飛んでいる間に狙撃されそうだし、こちらの矢や魔法は届きそうにないし、卑怯だぜ。ホント。
――[ウィンドプロテクション]――
気休めかもしれないが、風の盾を作る。そして、俺の視界に赤い線が走る。来たかッ!
『皆、走れッ!』
これでヤツは俺を狙っているはずだから、皆は駆け抜けても安全なはずだ。で、どう回避するか、だよなぁ。完全にノープランだぜ。
――《集中》――
《集中》して矢を見極めろッ!
皆が駆け出す。さあ、行け行け。
遠く離れた城壁の上に立っている紫の炎を纏った騎士鎧から矢が放たれる。
――[アイスウォール・ダブル]――
――[アイスウォール・ダブル]――
――[アイスウォール・ダブル]――
矢の軌道上に氷の壁を作る。これで、どうだ?
しかし、矢は氷の壁を物ともせず、まるで存在していなかったかのように突き抜けてくる。マジか。
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、前へ、前へと飛ぶ。これで矢の軌道から、外れ……。
その瞬間、俺の体に衝撃が走る。目の前の風景が回転する。俺は、その衝撃を受け、地面に叩き付けられ、跳ね返り、そのまま転がる。俺の胸部分からは大きな矢が生えていた。が、はっ、馬鹿な。
くそ、何でだ? 躱しただろッ! 矢が、矢が、くそ、体が。溶岩に落ちなかったのだけは幸いか。くそ、こんな矢が貫通した状態で、が、くッ。
俺が矢を受け、転がっているのに気付いたのか、14型の足が止まる。そして、こちらへと引き返し駆けてくる。馬鹿、お前、注意しただろ。
紫の炎を纏った騎士鎧が、俺にトドメを刺すためにか、次の矢を番える。くッ!
――《魔法糸》――
《魔法糸》を14型へと飛ばす。
『14型、駆けろッ!』
俺の天啓を受けた14型が《魔法糸》を握り、頷く。そして、振り返り、前へとそのまま駆け出す。
『シロネ、ミカン、気にするな、そのまま走れ!』
俺は引き摺られるように、14型に引っ張って貰いながら渡り廊下を進む。これ、意外と酷い扱いだよな?
そして、紫の炎を纏った騎士鎧から二射目が放たれた。俺の視界に赤い点が灯る。
俺は14型に引っ張られながら、サイドアーム・アマラに持たせた真紅妃とサイドアーム・ナラカに持たせたスターダストを交差させ赤い点が灯った場所を防ぐように構える。
しかし、俺の体に激しい衝撃走る。
俺の体からは二本目の矢が生えていた。が、はっ、な、何で……だよ。
こちらは14型に引き摺られているから、動いているはずだろ? さらに《危険感知》スキルで攻撃予測をして防いだはずなのに、何で矢が、俺の体に。
まさか、何かのスキル的な攻撃なのか? 例えば必中攻撃とか、そんな感じか? そ、そういえば白竜輪も反応していないし、あー、くそ。そりゃあ、14型も反応出来ないわけだ。
「マスター、もうすぐです!」
14型が叫ぶ。
はぁ、結局、14型に運んで貰ったか。ノープランで、ただ耐えるだけになってしまったなぁ。
―3―
何とかエントランスに戻る。その頃には俺の体に3本の矢が刺さっていた。はぁ、紫の炎を纏った騎士鎧に気付かれたのが早かった分、行きよりも攻撃される回数が増えてしまったか。ここまで無残な姿になる予定じゃなかったんだけどなぁ。
あー、いてぇ、いてぇ、ちくしょう。もうね、痛みになれた俺じゃなかったら阿鼻叫喚の悲鳴を上げているところだよ。
「むふー、ランちゃん、すぐに回復のポーションを!」
シロネが慌てたように自身のポーチから小瓶を取り出す。あ、ああ、助かる。けど、もったいないから、取っておきなさい。
「おや、あれは?」
と、そこで俺たちの反対方向から大きな声が上がった。
「おやおや、どうした、どうした? お前達の実力では、まだ早かったようだな」
例の冒険者チームが戻ってきたようだ。先頭に立つヒイロという男には楽しそうな笑顔が浮かんでいる。そして、その手には俺たちが手に入れたのと同じくらいのサイズの鳥の置物があった。ちっ、ちゃんと手に入れてやがる。
「冒険者は助け合いだからなぁ。何なら、貴重な回復魔法を使ってやるぞ。な、ホーリーホーリー?」
楽しそうなヒイロの言葉を受け、四角い金属の塊を持った禿げた男が俺たちの方へと歩いてくる。
14型が我慢ならないと言わんばかりに立ち上がる。
『14型、落ち着け。それよりも矢を抜いてくれ』
14型はすぐに手を出しそうだからなぁ。馬鹿は無視でいいんだぜ。
坊主頭が俺たちの前に立つ。
「気を楽になさい」
そして、坊主頭が呪文を唱え始めた。
『必要ない』
ま、回復魔法は無駄だからな。俺の場合、回復魔法を吸収しちゃうだろうからなぁ。
「星獣様なら言葉が分かるのでしょう。素直に好意を受けるのです。女神に忠誠を誓う信徒ならば、そう、魔獣であろうと全ての上に……」
いや、だからだな。
『その気持ちだけで充分だ』
俺の天啓を受けた坊主頭が、付き合いきれないと言わんばかりに、その頭を横に振っていた。
14型が俺の体に刺さった矢を引き抜く。矢は俺の体から離れた瞬間に光となって消えた。マジかー。ちょっと強そうな、便利な矢が手に入ったぞ、と思って刺さったままにしていたのにさ、消えるのかよ。俺、体を張ったのに、無駄だったじゃん。
引き抜かれた矢は3本とも光となって消えた。
矢が抜かれた事で、俺の体は少しずつだが、再生を始める。傷が癒えていく。合って良かった《再生》スキル! こんな事もあろうかと狂戦士の《再生》スキルを取得していたからな。時間はかかるが、まぁ、大丈夫だろう。それに俺の場合は元が魔獣だからかSPも多いからな。この程度ならすぐに治るんだぜー。
さて、と。にしても、俺にバカスカと矢を当てやがって。あの騎士鎧は、後で何とかして壊しておこう。そうすれば、この不思議な矢が手に入るかもしれないしな。
2021年5月16日修正
戦闘に立つヒイロ → 先頭に立つヒイロ