2-2 通貨
―1―
「相変わらず、お前ら兄弟はお節介焼きだな。どうせ、すぐにおっちんじまうような甘ちゃんなんて相手するだけ無駄だろうに」
眼帯のおっさんの暴言が留まるところを知らない。
もうね、なんでいきなり好感度がマイナススタートなんだよ、俺がモンスターだからか、モンスターだからかッ!
「まぁまぁ、おやっさん、そう言わずに支度品を用意してあげてくれよ」
眼帯のおっさんがやれやれという感じでナイフと小さなポーチを取り出す。
「こいつは剥ぎ取り用のナイフと魔法のポーチだ」
支度品ってたったの二つかよ。っと、文句を言っても始まらない。とりあえず鑑定鑑定っと。
【鉄のナイフ】
【鉄で作られたナイフ。剥ぎ取りなどによく使われる、そこそこ頑丈なナイフ】
【魔法のポーチ(2)】
【亜空間にアイテムを収納できる魔法のポーチ。収納できる種類は2】
あ、魔法のポーチってよくあるアイテムポーチなのか! チートアイテムその一じゃないですか。支度品程度で、こんな良い物をもらってもよいのだろうか。
『魔法のポーチか。こんな良い物を貰えるのか?』
「ああ、構わないな。確かに現在作成することが出来ない貴重と言えば貴重な品だ。が、袋の中には2種しか入れることの出来ない使い勝手の悪い物だし、ダンジョンから大量に発掘されているからな、価値はあって無いようなもんだ」
え、そうなの? 大量に発掘って……初心者冒険者に配るほど余っているってことなのか。まぁ、2種類しか入らないって使い道に困りそうだよなぁ。
「魔法のポーチの使用者登録はしておけよ。触れて『登録』って言えば完了だ。これをやらないと使うことが出来ないからな」
俺はさっそく魔法のポーチに触れ『登録』を……って言えないじゃん。あ、でも念じただけでも完了したっぽい。セーフ、セーフ。
「登録者しかアイテムの出し入れが出来ないから財布代わりにしている奴もいるな。あー、後、手放す時は『解除』しておけよ。じゃないと次の奴が『登録』出来ないからな。ま、お前がおっちんじまえば勝手に『解除』されるがな」
まったく、俺が死ぬ前提で話さないでくれよ。ま、確かにもっと沢山入るアイテムポーチが手に入ったら財布に使うってのはありかもね。
「ふん、支度品は受け取ったな。じゃあ、後は勝手にやりな。クエストを受けるなら、そこの掲示板から受けたいクエスト板を取りな」
そう言ってカウンター横に置かれた掲示板を指さす。掲示板にはいくつかの板がぶら下がっていた。これ神社に奉納された絵馬みたいだな。
うーん、しかしアレだね。俺にはゲームとかの知識があるから、どういうルールなのか予想が出来るからけどさ、投げっぱなし感が凄くないか。これがこの世界では普通なのか? こんなよくわからない状態でなんとかしている冒険者って空気読みレベルがみんな高いってことなのか? もうわけわかんないな。
「おやっさん、おやっさん、ランさんが固まっているじゃないか。ランさん、すまない、おやっさんは本来、こういった窓口に立つような立場じゃ無いんだが他に人が居なくて……余り、説明とかになれていないんだ」
ランさん……? ああ、ランさんって俺のことか。
『ああ、そうなのか』
「ああ、そうなんだ。と、ランさんは星獣様だからか、余り人里のことや冒険者のことがわかっていないように思う。もし良ければ僕が初心者指導員を買って出るけど、どうかな?」
うお、もしかして色々教えてくれる的な? それは非常に願っても無いことだ。ただ、そういう役割が野郎なのだけは残念だけど……。普通、異世界転生物とかだと美少女とかエルフ娘とかケモ耳娘とかが、その役割じゃん、じゃんよ……。
『初心者指導員というのは?』
「ああ、まずは名乗らさせて欲しい。僕はウーラ。これでもCランクの冒険者をしている」
Cランクねぇ……。あの眼帯のおっさん、ランクの説明をまったくしやがらなかったから分からないけど、俺がGから始まったし、A・B・C・D・E・F・GでAが凄い、でも実はSもあるんだぜ的なランクと予想すると……もうすぐ上級冒険者だぜ的な立場なんだろうか。
「それで初心者指導員のことだけれど、冒険者に成り立ての頃って死亡率が非常に高いんだ。それを防止するためにギルドが作った制度なんだけど、要は熟練の冒険者が初心者に冒険者としての心得とか知識を教えてあげようってことだね」
なるほどなー。
「と言っても無制限というわけでは無く、空いているDランク以上の冒険者が居ることが最低条件だし、指導期間も一月の半分か、クエスト三回攻略までと決まっているんだけどね」
期限があっても色々教えて貰えるのは助かるなぁ。
「と、さっそく、何かクエストを受けるかい?」
『いや、今日は休ませて欲しい。そして出来れば、何処か換金出来る場所と泊まる場所を教えて欲しい』
「なるほど。となると、まずは換金かな。冒険者ギルドの向かいにある建物が換金所だね。魔物の解体や素材の換金をしてくれるし、迷宮で手に入った道具類なども買い取りしてくれるよ」
え? そんな何でも買い取る的な便利なところがあるの? さすが異世界。
―2―
大通りを向かい合って、ギルドの目の前に建っている平屋の建物に入る。ウーラさんもついてきてくれる。
あー、ちなみにウーラさんの格好だけど、赤い短髪で、その短髪にバンダナを巻いて髪を立たせている。青い皮鎧の上に青い何かの毛皮を首に巻いている。両腰には片刃の斧をぶら下げている。ハンドアックスですね。ホント、山賊みたいです。しかし青い装備の多いこと、多いこと。この里で青色が流行っているのか!?
と、うー、換金換金。
建物の中はすぐにカウンターがあり、エルフの女性が立っていた。うお、こっちはちゃんと女性じゃん。しかもエルフ娘ですよ、エルフ娘。いやまぁ、この世界的には森人族なんでしょうが、俺的にはエルフなのだ。
「ま、魔獣!? って、ウーラさんのテイムした魔獣ですか?」
うへ。またもやテイムされたモンスター扱いか……。顔を覚えて貰えるまでは何処もこんな感じなんだろうなぁ。
「いや、この人はランさん。星獣様だよ。今日、冒険者になったばかりなんだ。換金したい物があるってことなんで案内したところだよ」
ウーラさんの言葉に最初驚き、すぐにこちらへ笑顔を向けた。お、プロの接客態度ですね。ホント、窓口はこうあるべきだよ。いきなり『どうせすぐ死ぬからシラネ』みたいな態度の眼帯のおっさんが間違っているんだよッ!
「ラン様、換金ですね。売りたい物を見せていただけますか?」
『ああ、売りたい物はコレなんだが……』
俺はそう言って、手製の世界樹の弓と世界樹の矢の全部を置いた。
「これは……、鑑定してくるのでお預かりしますね」
そう言って窓口のお姉さんは奥に消えた。あの奥が作業場とかなのかな。平屋とはいえ、大きな建物だしね。持ち込まれた竜の死体を解体とかしてそう。
しばらくするとお姉さんが戻ってきた。
「弓の方は40960円、矢の方が1本2560円、それが97本ありましたので248320円ですね。全部で289280円になります。どうしますか?」
やはり円なのか……。物価がわからないから何とも言えないけど30万近くになったのは良い感じだと思う。こういうギルド公式みたいなところで足下を見られると言うこともないだろうしね。
『わかった、それでお願いする』
これで当座の活動資金には困らなさそうだ。
「はい、分かりました。では用意しますね」
そう言ってカウンターに置かれたのは……小さな金貨7枚と銅貨4枚だった。へ? え? 円じゃないの? 金貨と銅貨? どういうこと?
「どうしました? 確かに289280円あると思うのですが?」
窓口のお姉さんが怪訝な目でこちらを見る。
『あ、いや、細かい物が欲しかったので金貨を一枚両替してもらいたかったんだが、出来るだろうか?』
「あー、はい、大丈夫ですよ。では小金貨1枚を銀貨8枚でよろしかったですか?」
『ああ、それで頼む』
「はい、では40960円両替しますね」
ちょ、ちょっと待てー。なんで今度は円なんだ? この世界の通貨は金貨とか銀貨ぽい。なのにお姉さんが喋った字幕では円で表記されている。
……あ。
もしかして、通貨も翻訳されているのか……。
これ、逆に訳が分からなくなるぞ。先程の例から小金貨ってのが40960円相当。で銀貨8枚と同じ価値ってコトは銀貨一枚は5120円相当。それに当てはめて残った端数を計算をして銅貨4枚が2560円相当で銅貨一枚は640円相当か……。うへぇ、無駄に頭使っちゃったよ。
これはホント、なんとかして欲しい。字幕を見ると円表記だから、そこから計算してお金を渡さないと買い物が出来ないわけでしょ? ふ、不便すぎる。頼むー、翻訳機能のバージョンアップしてくれー。
俺はお金を受け取り換金所を後にした。ホント、前途多難だは。
4月25日修正
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