9-51 名を封じられし霊峰八合目入り口
―1―
「何やら、ちょろちょろとやっているようだが、礼は言わないぞ。お前達がやっている事は、こちらの邪魔にしかなっていないからな!」
ヒイロと名乗っている男は腕を組み、偉そうに笑っている。そうか、そうか。
『ミカン、シロネ、ということだ。先程も言ったが、悪いからな、邪魔しないように先へ進む事にしよう』
シロネはハッとしたようにこちらを見、ミカンは楽しそうに片眼を釣り上げ笑う。
俺が駆け出すと、その後を追うように14型、羽猫、分身体、シロネ、ミカンがついてくる。
「おい、お前ら!」
何か叫んでいるようだが気にしない。すたこらだぜー。
レッサードラゴンの死骸を飛び越え、迫ってきた爪と牙を躱し、崖から落ちないように気をつけながら、戦場の真っ只中を駆け抜ける。
ヤツらは、なかなか優秀な冒険者たちみたいだが、そんなことは俺たちに関係無い。
『シロネ、ミカン。ここからは無理に魔獣と戦わず先を急ぐぞ』
ま、戦う必要がない魔獣なら、無理する必要は無いからな。急ぐ方が優先だ。もう、ここら辺の魔獣の強さも充分過ぎるくらいに分かったしさ、これ以上は必要無いな。
一時間ほど走り続けると、行き止まりになっている崖の途中に二つの鳥居が立っているのが見えてきた。
青い鳥居と黄色い鳥居。先に進むのは黄色の方だな。
『いくぞ』
追いかけてきていたレッサードラゴンを無視して黄色の鳥居を抜ける。
そこは少し濃くなった白い霧が周囲に漂っている広場だった。白い霧が増えてきたな。これ、そのうち、白い霧に飲み込まれるんじゃないか?
俺たちの正面に立っている鳥居の数は三つ。火の紫、水の青、木の緑。振り返れば、黄、橙、赤、黒、白の鳥居が並んでいる。
次は緑が消えるはずだから……いやいや、考えるまでもない、もう後、三つって事は、次の正解は青なんじゃないか?
一応、念の為、鳥居の裏に回り込むと、予想通り青い鳥居に緑色の魔素が渦巻いていた。
『シロネ、ミカン、次は青の鳥居だ』
―2―
青の鳥居をくぐり抜け、先へと進む。そこは最初の頃と同じような岩肌が剥き出しになった山道が続いていた。最初と違うのは白い霧が濃くなり、道の方まで広がり始めていることだった。
代わり映えもせず現れるレッサードラゴンたちを極力無視し、先へ、先へと駆けていく。
やがて、前方に鳥居が見えてきた。
並んでいるのは青の鳥居と緑の鳥居。先に進むのは緑の方だよな。
『次だ』
緑の鳥居をくぐり抜けると、そこは今までと感じが違う場所になっていた。
そこは周囲を白い霧に囲まれた泉の上だった。鳥居をくぐり抜けたら、ぽちゃんとな。
ほんのりと暖かみを感じる泉は、それほど深くなく、俺の体半分が浸かる程度だ。そして、その泉の中央に青い鳥居が立っていた。背後には緑、黄、橙、赤、黒、白の鳥居の姿も見える。ただ、紫色の鳥居の姿だけが見えなくなっている。
これ、この青い鳥居に入れって事だよな。何というかボス臭がする作りだなぁ。ここが最後だから休めって言わんばかりだよ。ま、ここで休んでも仕方ないし、ガンガン進むぜ。それに、俺はお湯に浸かったまま休むことが出来るような器用な体じゃないしなッ!
『準備は大丈夫だな? 行くぞ』
俺の天啓を受けたシロネとミカンが頷く。
さあ、行くぜ。
青い鳥居をくぐると、そこには紫に輝く巨大な竜が居た。
ふぇ、いきなりかよッ!
ちょっとしたビルよりも大きなサイズの竜が上体を起こす。ふぁ、さらに大きく見えるなぁ。
紫の竜の胸が紫に輝き、煙が噴出される。まさか、ブレスか!?
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、飛び上がる。
「な、ランちゃん!」
「主殿!」
鳥居から現れたシロネとミカンが叫ぶ。ミカンがすぐさま長巻を手に取り、シロネが短剣を構える。
飛び上がった俺の正面、竜の口にリング上のガスが漏れる。させるかよッ!
――《インフィニティスラスト》――
正面の竜へ、サイドアーム・アマラに持たせた真紅妃から無限の螺旋が放たれる。螺旋が大きく口を開けた竜に吸い込まれていく。そのまま突き抜け、大きな風穴を開ける。顔に大穴を開けた竜が上空を向き、そのまま紫の炎をまき散らしながら崩れ落ちていく。
「主殿!」
巻き散らかされた炎が俺を包み込む。まぁ、俺にはスキルがあるからな、火属性は効かないぜ。
巨大な竜は大きな地響きを立てながら倒れ込み、そのまま動かなくなった。あら、一撃か。意外と見掛け倒しだな。いや、単純に《インフィニティスラスト》が強すぎるのか?
う、うーむ。まぁ、俺の最終奥義みたいな技だしな。これくらいじゃないと、必殺技って感じがしないよな――の割には簡単に使えるから、とっておき感はないけどさ。
さてと、さらにサクサク進みますか。