9-49 名を封じられし霊峰五合目分岐路
―1―
野営を終え、出発の準備を始める。何というか、こうも野営ばかり行っているとさ、足踏みしているみたいで、うーむ。
まぁ、必要な事だからな、余り考えすぎないようにしよう。
さて、とりあえず鳥居の裏に回ってみるか。
鳥居の裏に回り、魔素を確認する。魔素が渦巻いているのは黄色の鳥居か。昨日と正解の鳥居が変わっているな。これは時間で変わるんだろうか、それとも何か他の条件で変わるんだろうか。時間で変わるようだと最悪だなぁ。それだとさ、鳥居の中へ入ろうとした瞬間に正解が変わるとか起こる可能性があるわけだしさ。
『シロネ、ミカン、次は黄色の鳥居に進むぞ』
俺の天啓を受け、野営の後片付けを行っていたシロネが大きなため息を吐く。
「むふー、ランちゃん……いえ、そうですよねー」
シロネ先生は何か、色々と諦めたような顔をしている。
「主殿、もしゃもしゃ、こちらの準備は万全だ」
ミカンちゃん、口にものを含んだまま喋らない。と、そうだな。時間制かもしれないし、サクサクッと進もう。
黄色の鳥居に入ると、橙色の魔素が消えた。よし、正解だな。その次は黄色の魔素が消える、と。うん、サクサク進もう。
崖のようになっている山道を進み続けると崖下から翼の生えたトカゲが現れた。また、レッサードラゴンか。代わり映えのしない事で。
レッサードラゴンが、大きな翼を使って羽ばたき、空中から襲いかかる、さらにちょっとした火炎のブレスを吐き出す、と、これ、普通なら結構な強敵だよな。でもさ、強くなりすぎた俺の、いや、俺たちの敵じゃないな。
――[アイスウォール・ダブル]――
レッサードラゴンが吐き出した火炎のブレスを氷の壁で防ぐ。そこへシロネが手にした短剣を投げ放ち、レッサードラゴンの羽に大穴を開ける。浮力を失い錐揉みしながら落ちてきたレッサードラゴンをミカンの一撃が真っ二つにする。それを14型と分身体がニコニコと笑顔で眺めていた。はい、瞬殺っと。
あー、そういえば分身体を追従モードにしたままだったな。うーん、今更、自分で動かすのも面倒だし、このまま追従モードでいいか。
「あっ!」
と、そこで、突然、シロネが大きな声を上げる。シロネ先生、どうしたのかね。
シロネが慌てたようにステータスプレートを取り出し、何かを確認し出す。
「いえ、むふー、あのー、上位クラスが解放されたような……」
あー、もしかして、さっきのレッサードラゴンで探求士のレベルが16になったのか。クラスの最高レベルって16だもんな。しかも下位クラスなら90万くらいの経験値を稼げば最高レベルになるもんな。シロネのレベルも40後半くらいだったろうしなぁ。にしても、上位クラスってさ、必要経験値の量を考えるとさ、ホント、一部の人間だけしか到達出来ないレベルだよなぁ。
『シロネ、忍者のクラスでも得たのか?』
俺が天啓を飛ばすと、シロネがわなわなと震えだした。
「ら、ランちゃん? むふー、そ、そうですけど、何故、それを」
探求士の上位クラスが忍者ってよく分からないよなぁ。いや、それ以前に、何で忍者だよ。ここは忍者が存在する世界だったのかよ。いやまぁ、侍のクラスがある時点で、それを言ったらダメなのかもしれないけどさ。
『忍者の忍術スキルは一度使うと次に使えるようになるまで時間がかかるが意外と便利な物が多いぞ。それと……』
「いやいや、むふー、ランちゃん?」
『シロネ先生の為に自分が説明しよう』
「いや、あのですねー」
『《致命》スキルは魔獣を一撃で倒す事があるようだ。だが、シロネには必要の無いスキルだろう。それよりも短剣を投げる事が多いシロネならば、《投術》スキルや《忍具作成》スキルで投擲武器を作成することをオススメするぞ』
「むふー、ランちゃん、どうして、そんな事を知っているんですかねー」
シロネがジト目でこちらを見る。ま、忍者もさ、上位クラスだけあって、面白くて有益なスキルが多いよなって事でさ。
ミカンはすでに侍の上位クラスを得ていたはずだし、これでシロネも上位クラスか。
「むふー、まあいいです。後で確認します」
シロネは何かを色々と諦めたような表情をしていた。
まぁ、先に進もうぜ。
―2―
橙色の鳥居を抜け、次の広場へと移る。ここは崖の上か?
切り立った崖の先端に鳥居が並んでいる。周囲を見回す。ここも、何というか、途中の道が白い霧で塞がれているな。何というか一場面を切り抜いた感じだよなぁ。
これ、崖から落ちたらどうなるんだろうか? まぁ、崖の下も白い霧で覆われているから、案外、落ちたつもりが空から降ってくるとか、ありそうだよな。
ま、ここで足踏みしている暇はないぜ。
ここも鳥居の裏にまわ……って、鳥居が崖の先端に立っているから裏に回れないじゃん!
もう、仕方ないなぁ。
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、空へと飛び上がる。俺は、空も飛べる芋虫なんだぜ。
ロケットのように飛び、鳥居の裏側へと回り込む。次は水の青か。そろそろ、確認しなくても答えが分かりそうな個数になりそうだな。
『次は青い鳥居だ』
「むふー、もうランちゃんだから、としか言いようがないですねー」
またも大きなため息を吐いているシロネたちと共に青い鳥居をくぐり抜ける。
そこは黄色い魔素が消えていた。よし、後、少しだな。
崖に作られた山道を進んでいると、その先から激しい音が聞こえてきた。誰かが何かと戦っている?
まさか、例の冒険者たちかッ!