9-48 名を封じられし霊峰四合目
―1―
『次の鳥居は緑の鳥居だ、進むぞ』
「むふー、何というか、もう何か言うだけ無駄というか……」
シロネ先生、何かね。言いたい事は言うべきだと思うぜ。
「はい、むふー、行きますよー」
シロネ先生がジト目でこちらを見る。そして、すぐに大きなため息を吐き、緑の鳥居へと歩き始めた。
「うむ。さすがは主殿。主殿のお力で迷宮攻略が捗ります」
ホント、ミカンちゃんは調子がいいなぁ。
「そうですよね」
そうそう、そうだよな。って、誰だ? 14型か? にしては、普段と喋り方や声が違うような……気のせいか?
周囲を見回すが、緑の鳥居の前のシロネ、そこから少し離れた位置に立っているミカン、分身体、そして、俺の後ろに控えている14型と羽猫の姿しか見えない。うーむ、この迷宮に住むお化けか何かが返事をしたのだろうか。
ま、まぁ、気にせず進むか。
皆で緑の鳥居をくぐり抜ける。そこは先程までと同じような岩肌が続く道になっていた。風の魔素は……やはり無いな。
ここが正解で間違いないってワケだ。
山道を進み続けるとレッサードラゴンの群れに遭遇したが、難なく蹴散らし、そのまま歩き続ける。
黙々と歩き続けると、やがて二つの鳥居が見えてきた。鳥居の色は緑と赤だ。赤が先に進む鳥居だろう。順調だな。うむ、ここまでは順調だ。
問題は次だよなぁ。
赤の鳥居を抜けた先は、やはり大きな広場だった。だが、先程までの風景とは違い、大きな岩壁に挟まれた崖の下のような場所になっていた。岩壁の近くには小川があり、綺麗な水が流れている。魚の姿も見えるな。そして、その水が流れる先は白い霧に覆われていた。何だろう、一場面が切り取られたというか、そんな感じだな。
で、だ。正面に並んでいる鳥居は火の紫、水の青、木の緑、金の黄、土の橙、と。振り返れば、風の赤、闇の黒、光の白の鳥居が並んでいる。うむ、予想通りだな。
今度は土の橙が消えるんだろうから、残る火の紫、水の青、木の緑、金の黄のどれか、か。もう《風の探求者》は使えないしなぁ。でも、ここまで来れば、確率でも……むむむ。
「むふー、ランちゃん、次は何色でしょう?」
むむむ。ここで外すと運が良かっただけに思われそうだな。むむむ。
いや、そうだな。格好つけてもしょうが無い、素直に言うべきだろう。
『すまない。ここから先は分からないのだ。シロネ、どう思う?』
俺の天啓を受けたシロネは少し考え込み、口を開いた。
「むふー、どう思うと丸投げされても……いえ、そうですね。ランちゃんが聞いている意味はわかりますよ。ここが、この場所も迷宮王の作った八大迷宮であるならば、間違いなく法則があるはずですね。法則……いえ、仕組みや仕掛けでしょうか。てっきりランちゃんはそれを知っているのかと思ったのですが」
なるほど。シロネは、俺が皆にばらさないだけで、迷宮の法則を解いたと思っていたのか。なんだか、力業ですいません。
この辺のヒントは冒険者ギルドの情報にもなかったもんなぁ。先行しているであろう、例の冒険者たちも力押しに近い攻略法だしな。あいつらが、何時から挑戦しているか知らないが、何度か挑んでいるはずなのに、それでも力押ししか答えが見つけられていない時点でなぁ。
うーむ。
「主殿、迷う時はとりあえず進むべきだ」
脳筋のミカンちゃんらしい意見だな。まぁ、でもさ、それしか選択肢がないか。
―2―
皆の意見を参考にし、黄色の鳥居をくぐる。くぐった瞬間、そこが外れだと分かった。橙色が残ったままだもんな。
代わり映えせずに現れるレッサードラゴンを打ち倒し、先を急ぐ。
現れた黄色の鳥居をくぐり、崖下の広場に戻ってくる。
「むふー、ここは外れでしたねー」
「主殿、すまぬ」
「マスター、そろそろ食事の用意を始めます」
あ、はい。って、14型さんはマイペースだなぁ。ここなら水もあるし、泳いでいる食べられそうな魚もいるし、まぁ、野営するにはもってこいか。
にしても、なぁ。やはり人が足りないって感じちゃうよなぁ。紫炎の魔女かジョアンでも居ればさ、二手に分かれても、もう一組を安心して任せられるんだけどな。でもさ、台座がないから、ここまで来てしまった以上、戻るに戻れないしさ。
うーむ。
シロネは法則が必ずあるはずみたいに言っていたけどさ。ランダムの可能性って本当にないのか? そんなに迷宮王って信用できるのか?
……。
鳥居を調べてみるか。先行の冒険者たちが居たからさ、鳥居は入るものだって思い込みがあったからな。そういえば、鳥居を調べてないもんな。
並んでいる鳥居の一つに近寄って見る。これ、意外と大きいよなぁ。横幅が4、5メートルくらい? 高さが10メートルくらい? いや、多分、8が好きなこの世界だから、高さも8メートルくらいじゃないかな。まぁ、馬鹿でかくはないんだけどさ。それでも、それが並んでいるんだから、結構、壮観な眺めだよな。
鳥居のデザインは横棒2本と縦棒2本の組み合わさったシンプルなものだな。柱1本の太さは抱きかかえられないくらいかな。
そういえば、普通に表側から入っていたけどさ、裏はどうなっているんだろう? まさか、裏から入ると裏口に出るとか、無いよな?
俺は鳥居の裏側に回り込み……そして、絶句した。
いやいや、いやいや、こういう、こと、かよ。
鳥居自体には変化はない。表側と裏側、それだけだ。
しかし、鳥居の中が違っていた。
向こう側が普通に見えている鳥居と、橙色の魔素が渦巻いている鳥居があった。こ、これさ、この橙色が渦巻いている鳥居が正解だよな?
な、なんだよッ!
そんなオチかよッ!
裏から見れば正解が分かりますってか。お、俺の苦労は、《風の探求者》まで使った俺の苦労は……。あの先行していた冒険者たちは間抜けなのか、こんな事も気づけない低レベルな冒険者たちだったのか?
「主殿、どうかされたのですか?」
「むふー、ランちゃん、野営の準備を手伝って……どうしたんです?」
俺の様子がおかしいと気づいたのか、ミカンとシロネがやって来た。
『これを見てくれ』
俺は橙色が渦巻く鳥居に小さなまん丸お手々を向ける。ホント、馬鹿らしいよな。
「ん? 主殿、何かありますか?」
「むふー、当然ですが、こちら側でも、向こう側が見えているんですねー。なのにくぐると別の場所に、興味深いです」
ん?
アレ?
2人には見えていないのか?
……。
……あ。
この世界の人々って、魔素が見えないのかッ! だから、ディテクトエレメンタルなんて魔法があるわけだし……。
あの冒険者達も見えていなかったから気づかなかったのか。
なるほど、そういうことか。
2018年4月20日修正
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