9-45 名を封じられし霊峰一合目分岐路
―1―
俺とミカンは青色の鳥居を、シロネ達は緑色の鳥居を選び、くぐり抜ける。
並んでいる8個の鳥居の色は、この世界に存在する属性と一緒で、紫、青、緑、黄、橙、赤、黒、白の八色だよな。てっきり、その色に対応したエリアが続いているのかと思ったら、そんな事もなかったし、色の順番で正解が決まるのかと思ったら、そんな事もなかったなぁ。
さてと、中は、さっきと同じかな?
鳥居の中は岩肌の剥き出しとなった山道に、まばらな木々、その先は白い霧に覆われている。そう、先程と変わらぬ風景だった。うーむ、外れかな?
って、あれ?
気のせいかな? ちょっと数えてみよう。
俺の周囲を漂っている魔素の色を数えてみる。火の紫、水の青、木の緑、金の黄、土の橙、風の赤、闇の黒……あれ? 光の白色がない。白い魔素が漂っていないぞ? さっきの場所は漂っていたよな? もしかして、これはきたんじゃないか? 風景は同じ感じだけどな。
『ミカン進むぞ』
「うむ。主殿、露払いは任せて欲しい」
こと、戦いにおいてはミカンちゃん、ホント頼りになるなぁ。
山道を進み続けると、またも羽音が聞こえてきた。蝿かなー?
現れたのは巨大な翼を持ったトカゲだった。って、竜かよッ!
とりあえず弓で撃ち落と……はっ、弓がない。弓と矢を14型に持たせたままだった。あー、《スイッチ》スキルで保管しておけば良かったッ!
何か効果的な魔法は、と。あいつが火属性だとしたら、うむ、今、俺が習得している中にはなさそうだな。
空飛ぶ蜥蜴の口から紫の炎がほとばしる。
ミカンは空飛ぶ蜥蜴の正面に位置し、腰の刀に手をやる。
――[アシッドランス]――
俺は酸で作られた槍を生み出し、紫の炎をまき散らす蜥蜴に投げ放つ。酸の槍が蜥蜴の羽に当たる。飛んでいた蜥蜴は浮力を失い、錐揉みしながらこちらへと突っ込んでくる。
ミカンの片方の目が大きく見開かれる。そして、そのまま刀を抜き放つ。
――《無拍子》――
一瞬でミカンと蜥蜴の間合いがつまり、そのまま真っ二つに切断され吹き飛んでいく。相変わらず戦闘能力だけは高いなぁ。魔石まで真っ二つにしたのはやり過ぎだと思うけどな!
まぁ、でもさ、現れる魔獣もこの程度なら、二人でも苦労せずに進めそうだな。多分、シロネの方も大丈夫だろう。
―2―
現れる雑魚魔獣を蹴散らしながら進み続けると、二つの鳥居が見えてきた。やはり、結構な距離があるなぁ。足の速い俺とミカンでも、先程と変わらない時間って結構大変な迷宮だな。もう、これだけで4時間だもん。ここも不正解だったら、もう休憩って感じだったな。
にしても、鳥居が二つって、これ、間違いなく正解ルートだったって事だよな。二回目で正解か。まぁ、4分の1の確率だし、こんなもんか。
鳥居の色は、青と白、か。これ、多分、青い鳥居が戻る方で白い鳥居が進む方だよな。
『ミカン、すまないが青い鳥居から戻ってシロネたちを呼んで来て欲しい』
俺の天啓を受け、ミカンが頷く。
「主殿、行ってきます」
はい、頼みます。
ミカンが青い鳥居の中へと消えていく。これさ、見れば見るほど思うけどさ、台座の転送と同じ感じで、どこかに転送されているんだろうな。
にしてもさ、この正解ルートを固定する為に俺が残る必要があるってのがなぁ。パーティメンバーの誰かが残る事によって正解ルートを固定化させるってさ、何というか裏技的な攻略法だよな。本来は運で乗り越える感じなのかな。いや、待てよ。
ここさ、白色の魔素が消えていて、次へ進む為の鳥居の色が白ってことは……? もしかしてさ、白い鳥居が正解になることって無いんじゃないか? となれば、正解の確率は7分の1。1個除外できるだけでも大きいよな。それに一番最初が白って事は、次は黒なんじゃないか? 属性の逆順でさ。この鳥居ルーレットが次もあるっていうなら、黒以外って可能性は高そうだな。ふむふむ、楽しくなってきたぜ。
さあて、さて、俺はミカン達が戻ってくるまで待ちますか。
ミカン達が戻ってくるまで、か。シロネが順調に進んでいれば、同じくらいの時間だろうし、そこから、この場所まで、だから……2、3時間ってとこか。それまで暇だなぁ。
何して待ってようかな。
俺が手持ち無沙汰のまま待っていると、この二つの鳥居のある広場へ続く道、先程、通ってきた道を塞ぐように光の粒子が集まり始めていた。何だ、何だ? 何が起ころうとしているんだ?
そして、光が集まり、巨大な口が生まれた。何だ、こいつ?
ワニのように牙の生えた巨大な口、そして、その大きな口に手足が生えただけの魔獣。口だけで生きているかのような存在感だな。こいつが居たら、来た道が戻れないな。まぁ、鳥居をくぐるだけなんだから、来た道を戻る必要は無いんだけどな。
……って、いやいや、そうだった。俺はミカン達が戻って来るまで待たないと駄目じゃん。ってことは、こいつと戦わないと駄目って事か。
巨大な口が歯を噛み鳴らし威嚇する。こいつ、強いのかな?
巨大な口が大口を開けて、こちらへと迫る。い、意外と早いッ!
――[アイスウォール・ダブル]――
突進してきた大口の前に氷の壁が生まれる。しかし、大口は氷の壁をものともせず噛み砕き、そのままこちらへと迫る。俺の強化した氷の壁があっさりかよ。こいつ、さっきまでの魔獣と比べものにならないぞ。
強敵だ!