2-70 木々
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風槍レッドアイを見ると真っ赤な鋭い円錐の本体に紫の縦線が一本入っていた。……えー、真っ赤なデザインが気に入っていたのに。確か、紫が火属性だったよな。これ、槍が進化してインフェルノツリーの火属性を取り込んだって事か? うーん、風と火の属性になったって思って良いのかな。火属性に弱い魔獣が多いこの辺りだと助かるんだろうけど、紫のラインが入って統一感が消えたのがなぁ。ショーック。と、今はそんな場合じゃ無かった。
俺はトレント達を見る。ブロッコリーのような頭をした個体や折れて頭がトゲトゲになってしまったような個体などなど。それらには全て無数の蔦のような腕が伸びていた。中央には目や口に見える穴も開いている。そんな16体ほどのトレントが木の根をわさわさと動かして一本の光の柱を囲っている。あの光の柱がミカンさんかな。パーティ加入で見えるようになった、その光の柱を見るに、まだ余裕がありそうだった――しかしまぁ、この集団の中で元気に立ち回っているのか、ミカンさん、すげぇな。
しかし周りのトレント達が全部、ミカンさんに集中しているってどれだけヘイトを稼いでいるんだ?
と、俺も参加して数を減らさないとな!
喰らえッ!!
――<スパイラルチャージ>――
風槍レッドアイが赤い風と紫の炎を纏い螺旋を描き目の前のトレントを抉り貫いていく。目の前のトレントは体を抉られているのに、まだこちらに気付いていないようだ。いや、気付いていないと言うよりもミカンさんへ攻撃をすることに夢中なようだ。これ、こっちからの攻撃は楽だけど急がないとさすがにやばいんじゃね?
赤槍を叩き付け、貫き、攻撃を加えていく。急げ急げ、倒せ倒せ。くっそ、固い。紫のラインが入って火属性が加わったんじゃ無いのか? トレントって火属性に弱いんじゃ無いのか? ……俺が弱すぎるのか。
なんとか赤槍がトレントを切り砕いた。よし、まずは一匹。次だッ!
――<スパイラルチャージ>――
引き続きスキルを使いトレントを切り砕く。その後も、斬り、切り、叩き、潰し、砕き……とにかく進め、倒せ。倒せ、倒せ、倒せ!!
トレントを切り砕き進んでいくと中心部にミカンさんが居た。
伸びてくる無数の蔦のような腕を躱し、外周のトレントが放つ木の矢を避け、まるで舞でも踊るかのように全ての攻撃を回避していく。凄いな……って見惚れている場合じゃない。
『大丈夫か?』
俺の言葉にミカンさんがこちらを見る。
「ええ」
俺はミカンさんに駆け寄り、背中合わせの状態でトレントの集団に向き直る。
「ランさ……、ラン殿。ファイアトレントは?」
『ああ、倒した』
即効で倒して来たぜ!
「分かりました。今から私は疾風陣を解除します」
疾風陣?
「攻撃を捨て回避に専念し、周囲の魔獣の攻撃を集中させる陣です。解除後はトレントがランさんにも襲いかかってくるのでご注意を!」
これもスキルなのか!?
――<屠龍陣>――
ミカンさんを中心に地面から周囲に光が広がる。
「この光の中ならばパーティメンバーの攻撃力が増します。光の外には出ないように気をつけてください」
ミカンさんはその言葉と共に手に持った長巻を振り回す。オッケー。
俺も赤槍を持ち、叩き付け貫き、切り砕いてく。
――<スパイラルチャージ>――
風槍レッドアイが赤い風と紫の炎を纏い螺旋を描き、目の前のトレントを貫き砕く。トレントが一撃で砕け散る。あれ? 一撃? 屠龍陣とやらの効果がそんなにも高いのか? と、というか、もしかして……さっき幾ら攻撃しても倒せなかったのって疾風陣とやらの効果か?
まあいい、後は倒すだけだ。
右、中央、左、三方向に赤い線が灯る。左に周り、右と中央、二つの攻撃を回避する。
――<払い突き>――
左から迫ってくる蔦を払いのけ、そのまま一回転、目の前のトレントを貫く。そのまま力を入れ抉り砕く。トレントはその攻撃だけで動きを止める。よし、次ッ!
俺たちは、次々とトレントを屠っていく。ここまで来ると作業だな。赤い線を回避し、攻撃をたたき込む。回避出来ないモノだけを払い飛ばす。何度も、何度も繰り返す。
いつの間にか俺たちの周りに居たトレント達は全てただの木片と化していた。はは、終わったな。
俺は槍にもたれかかり、深く息を吐く。はー、疲れた。見るとミカンさんも長巻を持ったまま座り込んでいた。袴が汚れちゃいますよ。
『終わったな』
「え、ええ……あ、うむ」
思ったんだけど、ミカンさんって、もしかしてキャラを作ってないか。武士キャラを作っている気がする……。
「む、どうしたのだ?」
ま、いいか。人には人の事情がある。それが何時か黒歴史になるとしても、だ。そう……キャラ作りなんて黒歴史にしかならないからな。
『いや、なんでもない。隊商の方々を呼びに戻ろうと、な』
ミカンさんが頷く。そう、すっごい疲れたけど、まだ護衛の仕事が終わったわけじゃない。というか、この後も歩き続けないと駄目なわけで……ホント、マジ勘弁ですわー。って、素材も回収しないと……。
『ちなみに素材は?』
「ああ……うむ。トレント自体が魔素を持った上質な木材として素材になる。魔石を抜いたら持てるだけは持ちたいところだ」
なるほど。
『一旦、こちらの方で全て回収させて貰っても良いか?』
「可能なのか?」
俺は頷く。はっははー、ここで魔法のウェストポーチXL(1)の出番ですよ。全ての死骸がトレントの扱いだから行けるはず。
一匹目をウェストポーチに、次も同じようにウェストポーチに。よし、しっかり入るぞ。どんどん回収するのです。ミカンさんが魔石を回収し、魔石が抜かれたトレントを俺が回収する。どんどん収納していこー。
しかし、インフェルノツリーだけは別扱いになるようでウェストポーチに入れることが出来なかった。
『むむむ』
「ラン殿、コーディ殿と交渉して猫馬車に乗せて貰ってはどうだろうか?」
お、ナイスアイディア。さすがにこんだけ頑張ったんだ、それくらいオッケーしてくれるよね、くれるよね?
さ、うんじゃまぁ、隊商を呼んできますか。
2020年12月12日誤字修正
閉まっていこー。 → 収納していこー。