9-44 名を封じられし霊峰一合目分岐路
―1―
『ミカン、シロネ、中に入ってみよう』
そうそう、物は試しだぜ。
「むふー、あの冒険者たちみたいに別れないんですかねー」
シロネさんは何やら否定的だ。いやいや、そうじゃなくてだな。お前だって、さっき同じコトをやるには厳しそうだって言ってたじゃん。
「マスターは、まずはこの先がどの程度の危険性か分からない為、一度、皆で進んでみることを推奨していると思うのです」
14型さんが説明してくれる。そうそう、それだ。
「と言っておけば、何も考えていなかったマスターでも、周囲の者達に知的なイメージを与えられると思うのです」
いやいや、今回はちゃんと考えていたから! 考えていたんだってばッ! お前がそんなことを言えば、俺がまるで何も考えていなかったみたいに……はッ!? まさか、こいつ、そこまで計算して!
『14型の言ったとおりだ。まずは試し、だ』
とりあえず14型の言葉は無視しよう。シロネが胡散臭そうにこちらを見ているが無視しよう。今回は本当に考えていたんだからね!
「むふー、そうですね。それもいいと思いますよ」
シロネが大きなため息を吐きながらも、こちらに微笑む。
「主殿、良い考えだと思うのだ」
ミカンちゃん、よく分からなかったんだね。
まずは、と。
とりあえず、ヤツらが正解だって言っていた鳥居に入ってみるか。
よし、進もう。
鳥居をくぐると、そこは山道の途中だった。背後を振り返れば、先程くぐったはずの鳥居がなくなっている。岩肌が剥き出しになった周囲には、木々がまばらに生えており、そのさらに先は白い霧に包まれて見えなくなっていた。とりあえず、先程の場所に戻ることは出来ないってことか。
にしても、この白い霧が壁の役目なのか。いかにも迷宮って感じだなぁ。
「むふー、これだと正解なのか不正解なのか分からないですねー」
確かにな。とりあえず進むか。
デコボコとした岩山を進んでいると前方から大きな羽音が聞こえてきた。
「ランちゃん!」
「主殿!」
シロネとミカンに言われるまでもない、魔獣だな。
現れたのは大きな翼を羽ばたかせ空を飛ぶ鶏だった。鶏が空を、空を飛んでいるッ! いやまぁ、鶏も空は飛べるんだろうけどさ。
鶏のクチバシから氷を纏った息が吐き出される。な、ブレス攻撃だと。
鶏が上空からブレスを吐き続け、こちらへと滑空してくる。
「むふー、ミカンちゃん!」
「うむ」
シロネが手のひらを組み合わせる。ミカンがそれを足場として上空へと飛び上がる。その両手には長巻が握られている。
『14型』
俺は14型から水天一碧の弓を受け取る。
鶏が空中へと飛び上がったミカンに気付き、そちらへ向き直る。
――《集中》――
《集中》し、弓に矢を番える。
――《ラピッドアロー》――
番えた矢が即座に放たれ、ブレスを吐き続けていた鶏の口を縫い付ける。これで、ミカンにブレス攻撃が届くことはない!
――《雪》――
ミカンの手に持った長巻から舞い落ちる雪のような連続切りが放たれる。
鶏から情けない悲鳴が漏れ、そのまま粉微塵となって霧散した。一撃か。いやまぁ、一撃というかミカンの連続技だけどさ。でもさ、これだと、この魔獣が強いのか弱いのか分からないなぁ。それだけミカンが強くなっているって事だろうか。
―2―
その後も現れた魔獣を倒しながら白い霧の中を進み続けると、目の前に鳥居が見えてきた。ふむ、これだとさ、ここが正解なのか、外れだったのか分からないな。にしても、ここまで来るのに2、3時間はかかったぞ。これで外れだったら結構、キツいなぁ。1日に何度も挑戦出来ないし、こちらがバテそうだよな。
「むふー、ランちゃん」
はいはい、分かってますよ。
『とりあえず、あの鳥居の先へと進んでみよう』
鳥居を抜けた先は大きなテントが残された、最初の広場だった。広場の入り口部分にはいつもの台座の姿も見える。外れか、外れだな。
「むふー、ランちゃん」
シロネが大きなため息を吐いていた。いやいや、外れだったのは俺のせいじゃないから、無いからな!
「主殿、中の魔獣はそれほどでもなかったと思うのだが」
ミカンの言葉。確かになぁ。割と楽勝で勝てたしさ、パーティを二つに分けるのも有りか。そうすれば正解に当たる確率は単純に倍だもんな。
よし!
『二手に分かれよう』
「むふー、そうですねー。それが良いかもしれませんねー」
問題はパーティをどう分けるか、何だよな。探求士のクラスを持っている俺とシロネは分けるべきだろうし、でもさ、中があんな感じだと俺と分身体が一緒に進むとさ、もし正解だった時に、戻って正解ルートを教える役が、距離的に出来ないかもしれないんだよなぁ。でもさ、それはシロネと分身体で組ませた時も同じだし、あー、もう、あと一人、誰か連れてくるべきだった。
どうする?
一度、戻るか?
でもさ、他に空いている人間がいないから、今のメンバーなワケだしさ。紫炎の魔女もステラも、何やら俺の国で自分の店を構えると言って忙しそうだしさ、キョウのおっちゃんやソード・アハトさん達も国の運営で忙しそうだし……むむむ。
まぁ、物は試し、二手に分かれて、進んでみて、それから考えよう。どうしても無理なら紫炎の魔女かステラに頼み込んで一緒に来て貰うか。
『こちらは自分とミカンで進む。シロネは、ノアルジ、14型、エミリオと共に頼む』
戦力的にこうなるか。分身体をオートモードで動かすのは不安だけど、仕方ないな。
「むふー、の、ノアルジーさんとですか……。でも、ランちゃんとノアルジーさん、同じ人物で、でも今、別れて存在して、むふー」
シロネが混乱している。まぁ、イマイチ《分身》スキルのことは分かっていないだろうから、こうなるか。
「マスター、私は役に立つと思うのですが」
いやいや、14型さん、要らないって言っているワケじゃないのよ。
『14型の戦力を期待しているから分けるのだが』
俺の天啓を受けて納得したのか、14型がスカートの裾を掴み優雅なお辞儀を返してくる。実際、14型は戦力としては凄いからな。そう、もう凄いんだ。
『では、行くぞ』
そのまま二手に分かれて鳥居をくぐる。さあ、正解であってくれよ。