9-43 名を封じられし霊峰一合目
―1―
「星獣様なら、その禍々しさも納得ですね!」
水色の騎士鎧のお姉さんがにっこりと笑う。禍々しいって何だ、禍々しいってさ。まったく、俺が悪者みたいじゃないか。
「ゲルダも戻ってきたんだ、進もう」
ローブの男が大きなため息を吐いている。こっちの方がため息を吐きたい気分なんだがなぁ。
「グエンさん、何で、その星獣様と敵対しているのかな?」
しかし、水色の騎士鎧のお姉さんは動かない。それどころか、ローブの男を威嚇するかのように、にっこりと微笑んでいた。
「この先に進もうとしたからだよ」
ローブの男が吐き捨てるように呟く。いや、だからだな……。
『こちらに敵対する意志はない。何故、進んでは駄目なのか知りたいだけだ』
会話しようぜ、会話。でもさ、その理由が、単純にライバルに先を越されたくないって話なら無視して進むぜ。まぁ、それは、ミカンとシロネが戻ってきてからだけどな。
「この頭に響く声……本当に星獣様なんですね」
水色の騎士鎧のお姉さんは驚いたように周囲を見回し、そして真剣な表情でこちらを見た。
「星獣様、先に進みたい気持ちは分かります。でも、少しだけ待って貰えると嬉しいな」
このお姉さんも同じか、進んだら駄目って言うだけなのか?
『理由を知りたい』
「そうですね……」
水色の騎士鎧のお姉さんが顎に指をかけ、少しだけ頭を傾ける。
「ゲルダ、言うな! それはやっと掴んだ貴重な情報だよ!」
ローブの男が騒ぐ。それを見た水色の騎士鎧のお姉さんが口元に指をあて微笑む。
「ダメですよ、グエンさん。同じ冒険者同士、情報は共有しないと!」
水色の騎士鎧のお姉さんの言葉を聞いたローブの男は、何かに絶望したのか、青ざめた顔色になっていた。おー、このお姉さんは話が分かる人のようだ。
「このトリイは入る度に次の階層に進める正解の場所が変わるんです」
入る度に正解の場所が変わるだと?
「その法則は分かりません。でも、突破率を上げる方法があるんですよね。それが正解ルートに当たった時にパーティメンバーを残すって方法です」
どういうこと? よく分からない。
「んんー、パーティメンバーを分けて、同時に鳥居に入るんですよ」
クロアが会話に混ざってきた。ここからはクロアも説明してくれるみたいだな。
「そうそう、別れてトリイに入るんですね!」
なんだか水色の騎士鎧のお姉さんは楽しそうだ。楽しそうに腕を振って教えてくれる。
「間違っていたら、戻って、鳥居の再抽選ですねー」
「正解なら、1人が残って道を固定しておくんです」
ふむふむ。なんとなく分かったような、分からないような。
「だからですね、ここで別のパーティである星獣様に進まれると、トリイの正解が動いてしまうんです!」
あ、そうなの? 再抽選になっちゃうのか。
「やっと正解を見つけた僕たちの苦労を邪魔されたくない」
ローブの男が悔しそうに呟く。いやいや、だったら、そう言えよ。俺もさ、そういうことなら素直に待ってあげるってば。何だかなぁ。
『そういうことなら、仕方ない。分かった。自分たちは、あなた方が正解ルートの、その先に進むのを待つとしよう』
ま、不正解だった時に正解が出るまで待ってあげる、なんてことはしないけどさ、さすがに正解が見つかっているのを邪魔するのは、な。俺の本意でもないしさー。
―2―
クロア、水色の騎士鎧のお姉さん、ローブの男が正解の鳥居に消えてから、しばらくしてミカンとシロネが戻ってきた。
「むふー、何個かお宝を見つけてきたんですよー」
「うむ。毒を持ったジャイアントリザードなどもいて、少々厄介でした」
へぇ。
「むふー、火属性の弓や魔法の袋、何かのポーションなどですねー。後で分配しましょう」
あ、はい。
と、シロネとミカンにも迷宮の情報を共有しないとな。にしても、今回は先に攻略してくれている冒険者たちがいたから楽勝だったな。
『シロネ、ミカン、情報の共有だ。この迷宮の構造についてだが』
教えるんだぜー。
俺が説明すると、2人は納得したように頷いていた。えーっと、ミカンちゃんも分かったのかな? 多分、分かったふりをしているだけだよな?
「むふー、私たちの人数では同じコトをやるにしても、厳しそうですねー」
あー、そうか。正解ルートを固定する為には誰かが残らないと駄目なんだから、最低、2人で入る必要があるんだよな。14型と羽猫はパーティを組んでいないから、除外するとして……。
ミカンとシロネ、俺と分身体――二ヶ所しか進めないのか。となると4分の1の抽選を繰り返すことになるのか。うーむ、4分の1って聞くと確率は高そうに聞こえるけどさ、外れたら再抽選だからなぁ。大はまりしたら、なかなか先に進めないってパターンもあり得るし、それにさ、俺たち、この先がどうなっているかを知らないんだよな。
よし、まずはみんなで普通に進んでみよう。
この先がどうなっているか確認して、それから考えよう。
再挑戦自体は何度でも出来るみたいだしな!