9-41 名を封じられし霊峰一合目
―1―
「むふー、感じが悪いですねー」
悪いよねー。
「主殿、相手の力量も見切れぬ者達に構わぬがよろしいかと」
ミカンは脳筋なのに大人だなぁ、脳筋なのにッ!
14型を見れば無表情なまま口の端を上げていた。怖いんですけどー、その顔、怖いんですけどー。
さて、どうしたものかな。
まぁ、無駄に上から煽ってくる三下は無視して、この先にどう進むかを考えるか。
怪しいのは、あの八つの鳥居だよな。あれの一つが正解って感じなんだろうな。とりあえず見てみるか。
どれどれ。
!
その瞬間、俺の視界に赤い点が灯る。
俺はとっさに鳥居へと踏み出していた足を止める。そして、その前方に木の槍が刺さった。木属性の魔法……あのドリアードかッ!
「何をしている」
ローブの男が長い杖をこちらへと突きつけていた。
『先に進む道を探しているのだが』
「下がれ」
何だ、何だよ。ずいぶんと余裕がないんだな。
『理由を聞いても良いか?』
まさか、俺が魔獣の姿をしているから、とか言わないよな?
「何故、迷宮の攻略に関わることを教えないといけないんだよ」
『そうだ、そうだー』
……。
こいつら、面倒くさいなぁ。
『理由も言わず、ただ従えとは虫が良すぎないかな?』
そうだよ。
「下級冒険者のくせに」
ローブの男が吐き捨てるように呟いた。聞き捨てならないな。
『こう見てもAランクの冒険者をしている』
俺の天啓を受けたローブの男は楽しそうに腹を抱えて笑い始めた。
「そうか、そうか! そのナリでAランク? 雑魚魔獣でもさすがは星獣様って事だね」
な、なにおう。
「それじゃあ、Aランクに上がった時に聞かなかったかな? Aランクの上があるってさ。逆らうことを許されない、国の王すらひれ伏す一騎当千の強者のみがなれるランクがあるってさ。それとも星獣様が住んでいるような田舎の冒険者ギルドでは教えて貰えなかったかな?」
田舎って……。俺の、俺自身の国でAランクになったんだよ、悪かったな。
「いいさ、お手本に見せてあげるよ。最強の冒険者の力を、ね!」
ローブの男が長い杖をクルクルと回し構える。そして、何やら呪文を唱え始めた。えーっと、殴りかかってくるわけじゃないんだ。
「数多の剣閃、煌めく軌跡、全てを従えし剣の陽光……」
えーっと、これ、呪文が唱え終わるまで悠長に待っててあげないとダメなのか? なんだか、偉そうなことを言っていた割には、お間抜けだなぁ。
「ランちゃん、むふー、間違いないですねー。彼は召喚士です」
知っているのか、シロネ先生。
『召喚士とは?』
「むふー、魔獣使いの上位クラスと聞いていますね。長い詠唱を必要とするが強力な魔獣を異界から召喚するクラスらしいですねー。長い詠唱時間をカバーする為に、あのテイムした魔獣がいるのでしょうねー。なかなかに強そうですよー」
へー、さすがはシロネ。物知りだな。にしても魔獣使いかぁ。狩人のスキルに初級テイムがあったけどさ、それのもっと良いのを習得出来そうなクラスだな。なかなか楽しそうだ。
『守るよー』
確かにドリアードが守りを固めているな。ふーむ。まぁ、詠唱が終わるまで普通に待ってみるか。
「出でよ! ルーラーソード!」
しばらく待っているとローブの男が長い棒を空へと掲げた。へ? 魔獣じゃないの? 剣なの?
ローブの男の上空に裂け目が走り、空間が斬り開かれる。そして、そこより長大な剣が姿を現す。
視界に赤い線が灯る。
そして、剣が射出された。飛んでくるか。
恐ろしい勢いで飛んできた剣を、すぃーっと回避する。すぃーっとな! 俺の横を抜けて行った剣が空中を斬り裂き、その中へと飲まれる。そして、何も無い空間から現れ、飛び出す。次々と赤い線が視界に描かれていく。おー、俺をみじん切りにでもするつもりかな。
剣が舞う、舞う、舞う。
剣が空間を渡り、見えない位置から、至る所から飛び交う。おー、これは危険だー。そういえば闘技場で戦ったフェンリルも似たような技を使っていたなぁ。何処からでも湧き出る分、こちらの方が危険か。でもさ、危険感知スキルが働くような攻撃だと、軌跡が見えちゃうからなぁ。しかも無数の剣ってワケじゃなくてさ、飛んでいるのは1本だけみたいなんだよな。
「な、回避する!?」
こちらを殺す覚悟の攻撃だったのが、失敗だったな。にしても、この飛んでる剣、上手くすれば掴めそうだな。試してみるか。
――《集中》――
《集中》して剣の軌跡を読む。
ここだッ!
サイドアーム・ナラカで剣の柄を掴む。よし、捕まえた。剣がサイドアーム・ナラカの中で暴れる。まるで生きているみたいだな。ん?
よく見れば、剣の柄にある装飾かと思われていた部分が人の顔になっていた。うわ、何これ、気持ちわるッ!
思わず俺が剣を投げ捨てると、剣は怨嗟の叫びを残し煙となって消えた。あれ? 死んだ? 弱いなぁ。
「何だと!」
ローブの男が慌てている。
「こうなれば、手加減抜きの最強召喚を……」
『ま、マスター……』
俺がこっそりと動かしていた分身体がドリアードの首筋に黄金の斧の刃先を当てていた。これで護衛はいないよな?
「多勢に無勢とは卑怯だぞ」
ローブの男が喚いている。勝負に卑怯もクソもないと思うんだけどなぁ。それにさ、分身体は俺自身だから、実質、俺1人の力なんだけどな。
『まだやるつもりか?』
「シェンリュが……、く、負けだ」
ローブの男は悔しそうに長い棒を地面に何度も叩き付けている。
まぁ、これでやっと会話が出来るか。
いやはや、最強クラスといいながら、たいしたことが無かったなぁ。