9-40 名を封じられし霊峰一合目
―1―
「シェンリュ、どうしたんだい」
テントの方から長い杖を持ったローブの男が現れる。
『マスター、魔獣、魔獣使いですよー』
ドリアードがローブの男の方へと駆け寄り、その周囲をくるくると回る。
「なるほど、ライドして臨戦態勢。新手の冒険者狩りか。しかし、相手が悪かったね」
ローブの男が杖を構え、こちらへと歩いてくる。いやいや、こっちは戦うつもりなんてないんだけどなぁ。まぁ、向かってくるなら仕方ないか。
「グエンさん、待ってください」
と、そこへ静止の声がかかる。現れたのは……、
「ジャイアントクロウラーの星獣様、お久しぶりです」
長く伸びたさらさらの髪を掻き上げ、狐耳がテントの影から現れた。えーっと、確か、砂漠で拾った、あの小憎たらしいイケメン野郎だな。
『カナイ殿か』
分身体を背から下ろし、立ち上がる。まぁ、俺もあまり芋虫スタイルばかりだと、脳が低下しそうだしな。ちゃんと2本足で歩けるところを見せておこう。
「おや? 星獣様に名乗っていたでしょうか」
狐耳が、こちら目線のまま、手に持ったハープをかき鳴らし首を傾げる。あざといなぁ。
「星獣様、星獣様だって? あれが?」
ローブの男が、こちらを指差して喚いている。
『魔獣、魔獣だよー』
「シェンリュはこう言っている」
いやいや、俺は魔獣じゃないからな。いや、魔獣なのか?
「それでも、星獣様ですよ」
狐耳は長いさらさらの髪を掻き上げる。はい、星獣様です。にしても、そんな髪を掻き上げないとダメなら、切ってしまえば? 坊主頭にしてあげましょうか? 楽になると思いますよ。
「むふー、どうやら戦闘は避けられたようですねー」
シロネは大きなため息を吐き、ミカンは刀の上に乗せていた手を離す。
「マスター、このまま気付かなかったふりをして、この不逞の輩をひねり潰すことを推奨します」
するな。
にしても、この狐耳達が八大迷宮『名を封じられし霊峰』を攻略している冒険者だったのか。そういえば、砂漠で拾った時もそんなことを言っていたなぁ。
「いくら星獣様とはいえ、この迷宮に挑戦出来るようには見えなかったのですが」
狐耳がハープを鳴らす。ですが、なんでしょう。
「マスター、やはりひねり潰すことを推奨するのです」
14型さん、その意見、俺も賛成したくなるぜ。
「では、再会を祝して何か一曲……」
狐耳がハープをかき鳴らそうとしたところで鳥居の一つが輝きだした。
―2―
鳥居から光が立ち上り、その中から一人の男が現れた。
「ヒイロ見参!」
何処かの部族が身につけていそうな格好をした、その男は傲慢な笑顔を張り付かせ笑っている。
「ヒイロさんですか」
それを見た狐耳が大きなため息を吐いていた。
「レン、いつも言っているが、さん付けの必要は無い。気さくにヒイロ様でいいぞ」
「ヒイロさん、お一人ということは……?」
「レン、そうだ、ここが正解だ。今、固定化の為、テストリードに残って貰っている」
ヒイロと呼ばれた男の言葉に、狐耳とローブが大きく息を飲み、頷く。
「しかし、お前達二人の方が早かったとは意外だ。てっきり、いつものように、とぼけた顔でゲルダが待っていると思ったんだが、あの新規加入の探求士が足を引っ張ったか」
「ヒイロ、一人で戦っているテストリードの為にすぐに戻ろう。ここには僕が残るよ」
「おう、グエン、召喚士のお前なら一人で大丈夫だな!」
「では、僕も行きますね。星獣様の為に一曲奏でようと思ったのですが、仕方ないですね」
「ん?」
と、そこでヒイロと呼ばれた男は、俺たちに初めて気付いたのか、こちらを向く。
「ほう、他の冒険者が来ていたのか、珍しい」
男は呟き、こちらへと手招きする。
「お前達、こちらに来るがいいぞ。俺様が、お前達にありがたい言葉を授けてやろう」
えーっと、また俺様系ですか。俺様系はバーン君で間に合っているんだけどなぁ。自分に力があると思い込んでる連中って傲慢になっちゃうのかなぁ。
「いいか、良く聞け。お前達、ここまで来るくらいだ、自分が特別だ、優れていると勘違いしているだろう」
何か語り出したよ。
「しかし、お前達は特別ではない。お前達が出来ることは他のヤツらでも出来る。お前達が到達したレベルは、他の者達でも到達出来るレベルなのだ。それはお前達程度が出来ることなんだからな」
こいつ、何を言っているんだ?
「上には上がいると知れ」
ヒイロと呼ばれた男は陽気に笑っている。何だ、こいつ。
「ヒイロ、一般の冒険者に構っている場合じゃないよ」
「そうだった、そうだった」
ヒイロと呼ばれた男は楽しそうに笑っている。
「では、グエン、後は頼んだぞ。ゲルダと新人の探求士、ホーリーホーリーとマサムネが戻ってきたら……」
「分かってるさ。シェンリュもいる、任せてくれ」
『シェンリュ、頑張るー』
何だ、こいつら。
ヒイロと呼ばれた男が現れた鳥居の中へと再度入る。それに続くように狐耳が鳥居へと進む。その途中、こちらへと振り返り、ニヤリと楽しそうに笑い、そのまま鳥居の中に消えた。
そして、ローブの男がこちらへ振り返る。
「一般の冒険者は僕たちの邪魔にならないように大人しくしてくれ。要らないことをして、僕とシェンリュの手が煩わされるのも鬱陶しいからね」
えーっと、えーっと。
言葉にならない。
何で、こいつら、こんなに上から目線なんだ?
俺、これでもAランク冒険者様だぞ。お前ら、今、この八大迷宮『名を封じられし霊峰』に挑戦しているんだよな? 他の八大迷宮を一つでも攻略したのか? してないよな。してないよなぁ!
1個目を挑戦しているだけの分際で、数々の八大迷宮を攻略した俺に、何それ、何それ。
あー、いかんいかん。落ち着け、落ち着け。
クールになれ、クールになれ。
俺もやつらと同じように傲慢な側になっていたぞ。いかん、いかんなぁ。
ふうふう、どーどー。
ま、先にこの八大迷宮を攻略して、どちらが上か思い知らせてやるよ。
2018年4月16日 修正
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