9-38 名を封じられし霊峰力の泉
―1―
まずは鑑定してみるか。
【種族:リザードマンランサー】
手前に並んでいる鎧と盾槍持ちは、てっきりナイトかと思ったらランサーなのか。で、奥の方の王冠を守っているのは、と。
【種族:リザードマンエリート】
剣と鎧の――ああ、こっちはエリートなのか。では王冠は、と。
【種族:リザードマンロイヤル】
えーっと、キングじゃないんだ。ロイヤルって何だよ、ロイヤルって。意味がわからねぇ。
数は、と。
ランサーが8、エリートが4、ロイヤルが1か。全部で13体か。結構、多いなぁ。
「主殿、一人4でどうだろうか?」
ミカンが、そんなことを言ってくる。いやいや、ミカンちゃんが全部吹き飛ばしてもいいんだぜ。それとも、うむ、もう面倒だからアイスストームで、全部、吹き飛ばすかッ!
「行きます」
ミカンが駆ける。あ、この子、作戦も考えず、突っ込みやがった。
リザードマンの集団に駆け込むミカン。そこを狙い、ロイヤルなリザードマンが火球を飛ばす。ファイアーボールかよッ! こいつ、魔法を使うのか。この人数で、さらにファイアーボールみたいな強い魔法を使われるとキツいなぁ。俺が世界樹で頑張っていた時に来ていたらヤバかったかもしれんなぁ。
飛んできたファイアーボールをミカンが長巻で受ける。するとファイアーボールが長巻に吸い込まれるように消えた。ミカンは、そのまま長巻を振り払い駆け抜ける。魔法を吸収した、だと!?
ミカンが長巻を振り払い、槍を構えようとしていたランサーを斬り払う。ランサーは、その一撃で上下真っ二つになった。一撃か、鎧ごと斬り裂いたよ、この子。さらに返す刃で迫る槍を切り落とし、その新しいランサーの懐へ入り込む。そして、腰に差した猫之上蜜柑式を抜き放ち、そのまま切り捨てる。あっという間に二匹倒したな。
と、俺らも倒しに行かないとな。
『シロネ、14型、ミカンに続くぞ』
そうそう、まぁ、このままミカンに任せてもいいかなぁって気分だけどさ。
「マスター、了解です」
はいはい、14型さん頼りにしているからな。
「むふー、私は一匹でいいですよねー?」
えーっと、ミカンが4、14型が4、俺と分身体が4、そして、シロネが1か。
『では、あの王冠はシロネに任せよう』
「な、むふー」
シロネが大きくため息を吐きながらも駆けていく。
「にゃ!」
ああ、お前もいたな。まぁ、大きくなれる場所でも無いし、ここは見学してな。
さあて、俺も分身体と頑張るか。
―2―
ミカンが長巻から火の玉を放ち、迫るランサーたちを牽制する。俺は、駆け、その火の玉をくぐり抜ける。そして、俺の背に乗った分身体がゴールデンアクスを縦に振るいリザードマンの頭を真っ二つにする。
『ミカン、こちらも1だ』
「マスター、私もです」
14型が俺を飛び越えたかと思うと、近くのリザードマンランサーの頭を凶悪な篭手で叩き潰していた。
「むふー、もう、です、よー」
シロネがリザードマン達の盾や兜を蹴り飛ばし、空中を器用に進んでいく。おー、凄い、凄い。そして、そのままエリートたちへ迫る。エリートが手に持った剣を上空のシロネへと突き伸ばす。シロネは空中で身をよじり、剣を回避する。そこへ王冠持ちの生み出した火の玉が迫る。シロネは両手に持った短剣を交差させ、火の玉を受け止め、そのまま斬り払う。さらにエリートを飛び越え、王冠持ちの目の前に着地する。
『ミカン、シロネに遅れるぞ』
俺は真紅妃でリザードマンランサーの鎧ごと魔石を貫く。
「負けません」
ミカンが力強く踏み込んだ長巻の一撃でリザードマンエリートを切断する。
「マスター、お任せください」
14型が膝蹴りで槍をたたき折り、そのまま回し蹴りを放ちリザードマンランサーの鎧を凹ませる。よろめいたリザードマンランサーに凶悪な篭手を叩き付け、トドメを刺す。
王冠持ちのリザードマンロイヤルが手に持った杖でシロネに殴りかかる。シロネは、それを片方の短剣で弾き返す。攻撃を弾かれたリザードマンロイヤルが体勢を崩す。そこへ、シロネがもう片方の短剣を伸ばし、喉元へと差し込む。おー、これは致命傷かな?
しかし、シロネは、さらに、その突き刺した短剣を軸としてくるりと王冠持ちの背後へと回り込み、もう片方の短剣を頸椎部分へと差し込んだ。
王冠持ちがぐぇっと潰れた鳴き声だけを残して倒れ込む。
そして、その頃には、残っていたリザードマン達は片付いていた。うーむ、最初の頃ならいざ知らず、今更、この程度の相手なら楽勝だなぁ。だってさ、俺、魔法を使ってないもんな。
と、そこへ王冠を倒したシロネが歩いてきた。
「むふー、少ししくじりました」
見ればシロネは腕に少し焼けたような傷をつけていた。あー、ファイアーボールを斬り払った時に怪我したのか。
――[キュアライト]――
シロネの腕に癒やしの光が降り注ぐ。
「ランちゃん、むふー、助かります」
あー、訂正。魔法は使ったな。
―3―
俺たちがリザードマン達を全て倒すと、それを待っていたかのように空から赤色に輝く小さな宝箱が降ってきた。は? 何だ、この演出。倒すことがキーになっていた? 何というかアトラクションめいているというか、むうむうむう。迷宮だから、こういうこともあり得るのか?
「むふー、罠を見ますね」
シロネが罠を調べ始める。えーっと、鑑定してみるか。
【ばくだん】
あー、爆発するのか。
『シロネ、爆弾の罠のようだ』
「むふー、みたいですねー。解除しました」
へ? 早いなぁ。
「中身はアクセサリーみたいですねー」
へぇ。何だろう。
シロネが取り出した、それは、金属の鎖に繋がれた三角形のエンブレムだった。
【力のアンクレット】
【筋力補正を大きく引き上げてくれるアンクレット】
ふむ。ふむ。ふむ。
『これは筋力補正を上げてくれるアンクレットのようだ。ミカンがつけるといいだろう』
「主殿、良いのですか?」
まぁ、力=ミカンだからな。脳筋が、さらに脳筋になるといいさ。
ミカンがシロネから力のアンクレットを受け取り、それを足に結びつける。あー、アンクレットって足に装備するもんなんだ。あれ? それなら俺でも使えたんじゃないか? ま、まぁ、今更、俺に筋力補正なんて要らないから、要らないから!
「むふー、ここ、これだけみたいですねー」
あ、はい。
「行き止まりでしたか」
そっすねー。
「マスターのお考えを検索中です」
するなよ。
「にゃ」
お前まで便乗して……。
『も、戻るか』