9-35 名を封じられし霊峰樹海
―1―
木と木の間に作られた道を進む。先行しているシロネが身をかがめ、音を立てないよう静かに駆けていく。
俺たちも距離を取り、音を立てないように気をつけながらシロネの後を追う。
そして、俺の視界の先に巨大なトカゲが見えた。一メートルはある巨大なトカゲは眠ろうとしているのか、動きを止め、静かに目を閉じている。
シロネが駆け、一瞬で間合いを詰める。そのままトカゲの首に手を回し、もう片方の手に持った短剣を首筋に差し込む。トカゲは一瞬、目を見開き、そのまま動かなくなった。一撃か……。
「素材はどうします?」
シロネが聞いてくる。うーむ、今回さ、俺、1回で攻略するつもりなんだよな。だから、素材を持ちすぎて荷物がパンパンになって、てーのもなぁ。
『食料になる部分だけ持っていこう』
この世界のトカゲはタコみたいな味がして美味しいもんな。
「むふー、仕方ないですねー」
シロネがトカゲを解体していく。流れるような作業だ。あれ? シロネって狩人の《解体》スキルを持っていたんだったか。
「次はランちゃんがやってくださいね」
あ、はい。確かにさ、俺も《解体》スキルを持っているけどさ、この体型の俺に解体作業をさせるなんて酷くないか。それなら俺は14型さんに頑張って貰うよ。
シロネが解体した肉と魔石を14型が受け取り、魔法のリュックに詰め込む。
トカゲを退けた後も森の中を進んでいく。えーっと、霊峰って名前なのに、迷宮の中が森とは此れ如何に。まぁ、白い霧で道は限られているんだけどさ。
道なりに進んでいると途中に小さな石像が置かれているのが見えた。うん? 道祖神か何かか?
こんな道ばたで野ざらしになってさ、雨でも降ったら大変だな。まぁ、迷宮と化したこの場所に雨が降るかどうかは分からないけどさ。
と、そうだ。
『14型』
「マスター、どうしたのです?」
『例の物を』
「マスター、言葉は正しく使ってください。事前の取り決めもなく例の物と言われて取り出せる優秀な人材は少ないと思うのです」
14型はそう言いながらも壊れた傘を取り出す。そうそう、それだよ。
――《魔法糸》――
折れた芯を取り、《魔法糸》を結びつけ笠にする。それをサイドアーム・ナラカで持ち、石像にかぶせる。おー、笠地蔵の完成だ。まぁ、自己満足なんだがな。
となればッ!
『14型』
「マスター、何度も言っていると思うのですが、言葉は叡智の結晶、伝えようという意志がなければ伝わらないと思うのです」
そう言いながらも14型がよく分からない果物を取り出す。
「むふー、これは何のお遊びなんですかねー」
「主殿との間に何かのお約束があるのかもしれぬ」
俺は14型から受け取った謎果物を笠地蔵の下に置く。お供え物だぜ。
「主殿、それは何をやっているのだろうか?」
『お供え物だ。旅人の安全を祈る道ばたの小さな姿の大きな神に捧げ物をする儀式だと思ってくれればいい』
まぁ、自己満足なんだけどな。
「むふー、星獣様の知識というわけですか」
いやいや、そういうのじゃないからね。
―2―
「むふー、ランちゃん、またも分かれ道ですよ」
シロネがこちらに手を振って合図をする。うーむ、分かれ道が多いなぁ。木々の先が白い霧で覆われているから無理矢理突き抜けることも出来ないし、ホント、迷いそうだよ。
『魔獣は?』
「魔獣の気配は両方に。左の方が数は多そう、不意打ちは難しいかも」
ふむ。まぁ、多い方に進んでみるか。お宝とかあるかもしれないしな。
「主殿、ここは左ですね」
俺が言い出す前にミカンが反応した。あ、はい。ホント、この子、戦闘狂だよなぁ。単体だとシロネが先制で倒しちゃうから、我慢出来なくなったのかな。
『ああ、左に進もう』
まぁ、行ってみるか。それにそろそろ野営の準備をしないとダメだからな。数が多いって事は開けた場所だろう、ちょうどいいな。
『そこが開けた場所なら、そのまま野営の準備に』
シロネが頷き駆け出す。
と、その途中で足を止めた。
「むふー、ダメ、見つかった」
シロネの足下に矢が刺さる。
俺とミカン、14型は急ぎ走り、シロネの元へ駆け寄る。そして、その先にいたのは、2本足で立ち弓を構えたトカゲの集団だった。
『蜥蜴人か?』
「むふー、蜥蜴人の前でそんなことを言ったら怒られると思いますよ。あれはリザードマンですね」
ん? リザードマンと蜥蜴人って違うの? 同じじゃん。魔獣扱いがリザードマンってこと?
「主殿!」
俺が考えこんだ隙を狙ったのか、リザードマンたちから矢が飛んでくる。ミカンが背負っていた長巻――ナインライブズを両手で持ち俺たちの前へと飛び出す。そして、そのまま長巻を一閃し、飛んできた矢を切り落としていた。
「ここはお任せを」
ミカンが矢のように飛び出す。そして、長巻を一閃し、武装した蜥蜴たちを斬り倒していく。
うーむ、蜥蜴人とリザードマンかぁ。もしかすると『女王の黎明』にいる働き蟻と蟻人族みたいな関係なのかなぁ。他から見ると同じように見えても違うみたいな、そんな感じなんだろうか。うーむ、人と猿とか、人に対して猿って言ったら、ふざけんなってなるよな。そんな感じかなぁ。
俺が考えている間もミカンの旋風が吹き荒れ、リザードマン達を切り伏せていた。あ、うむ。戦闘なら、ホント、頼りになるよなぁ。