おどるおどるどうけがおどる
『私の名前は分身体ちゃんです。マスターがつけてくれた名前です。ですが、多分、私は13番目の分身体ちゃんです』
少女が男物の服を持ち悩んでいる。
『今まで女性用の服装だったので女性体だと思い込んでいたのですが、勘違いだったようです。これはマスターの為に頑張らないと駄目なようです』
少女が男物の服装に着替える。そして、何故か、無駄にキリッとした顔を作る。
そして、少女はダンス会場へと歩いて行く。その足取りは戦場へと赴くようにしっかりと重く、一歩一歩踏みしめて行く。
「ノアルジーさまですわ」
「まぁ、あの格好!」
「あのお姿も可愛らしくて素敵ですわ」
ダンス会場の中央では、すでに何組かの男女が優雅に踊っており、踊り疲れた者達は会場の端っこで丸テーブルの上に置かれた料理や飲み物に手を出していた。
『ここが頑張りどころです。マスターに恥をかかせないようにしないと……』
紳士的な男物の服を来た少女がダンス会場の中央へと進む。そして、それを見た一人の少女があわせるように中央へと進む。
「ノアルジーお姉様」
その言葉を聞いた男物の服を着た少女が、何故か長く伸びた青い髪を掻き上げる。
「やぁ、シリア。待たせたね。おっと、踊るのに、この髪は邪魔かな」
男物の服を着た少女が髪を後ろでまとめる。
「さあ、踊ろうか」
二人が踊る。
それに合わせて静かな曲が流れ始める。
優雅に踊る。
二人の踊りにあわせて、周囲の輪が広がっていく。
静かでそれでいて動きに溢れた踊りが終わり、あわせて曲も終わる。
別れた男装の少女が他の少女の元へと歩いて行く。
『次は君かな?』
男装した少女が次々と声をかけていく。
『マスターの為にみんなと仲良くなっていくのです』
……。
「そろそろ、いい加減な吹き替えはやめなさい」
「はーい、お姉様」
「それにしても、《分身》スキルの反応が、こうなるとは面白いですね」
「姉様に聞いていたよりも鋭いヤツでした」
「ええ、あの者が注目すべきと言っていた理由が分かりました。あそこに、離れて、会場ではなく、外にいるのも、こちらに気付いているからかもしれません」
「まさか、私たちの存在に!?」
「ええ、恐ろしく用心深いですね」
「姉様、会場に」
「今度はユニーククラスの勇者持ちですか。レベルは……さすがは魔王討伐者、レベル51ですよ」
「進化済み、と。姉様、この世界の人では最強かもしれませんね」
「あの、強さを隠しているイレギュラー体とどちらが上か気になるところです」
「一緒にくるくるまわっている女性体も40越え、想定外だよ」
「壁際にいる教師陣にも二人ほど高レベルがいますね。一人は勇者越えの52、もう一人は38、確かに異常事態ですね」
「これは御三方もうかうかしてられないですよ」
「そうですね、あの方々も、この事態は想定していないでしょうから、なかなか面白いことが起きるかもしれません」
「そうだね、ゼロ姉の狙い通りかなぁ」
「ええ、もう少し観察したら戻りましょう」