9-29 例の探し物を返そう
―1―
「こちらが卒業の証になります」
分身体を使い、待っていたアルテミシア先生に先程、エミリアから貰った初心の護符を見せる。
「これは……」
アルテミシアが何かを確認するように背後へと振り返る。そして、頷く。
「確認しました。ノアルジーさんは、これで試験終了です。結果をお待ちください」
はーい。これで終わりか。色々あったが、なんだかんだで1日で試験が終わったなぁ。
「お姉様、プロムお待ちしています」
シリアが軽く頭を下げ、騎士学校の方へと帰って行く。あー、そういえば、そんなイベントがあるんだったな。やっぱりダンスパーティみたいな感じなんだろうか。うーん、強制参加なのかなぁ。
試験の結果発表まで後2日……いや、3日か。となると、時間がもったいないし、一度、グレイシアに戻るか。
「分かった。では」
それでは、このまま学院に戻るとするか、的な動きを見せつつ、森の方に逃げて、隙を見てからの、コンパクトを開くッ!
周囲の風景が変わり、そこはグレイシアの王城の屋上だった。はぁ、帰ってきた、帰ってきた。俺は俺で、結構忙しいからなぁ。
さ、皆のところに戻るか。
って、アレ?
背中に乗せていた分身体が居なくなっているぞ。あー、まさか向こうに落としてきちゃったか。うーむ。ま、大丈夫だろう。
とりあえず冒険者ギルド、スカイのところだな。
―2―
てくてくと歩き、スカイの冒険者ギルドへと向かう。
『スカイ、いるかね』
「旦那ー、いますよー」
犬頭のスカイは、冒険者ギルドの中にあるカウンターの向こう側でふんぞり返っていた。
俺が冒険者ギルド内を見回すと、そこには数人の冒険者の姿が見えた。彼らは彼らで忙しそうに、真剣な顔でクエストボードを覗き込んでいる。この時間でも冒険者がいるのか。見かけない顔だから、外から来た冒険者かな。俺の姿に驚かないのは、魔族や魔獣とも暮らすこの国だからこそ、か。
「ランの旦那ー、最近は、人が増えて、冒険者人口増加でー、俺もー、忙しいんですよー」
はい、これは調子に乗ってるな。ホント、スカイ君はすぐに調子に乗るなぁ。
『スカイ、頼んでいたことはどうなった?』
「ランの旦那ー、分かってるすよー。ただ、他にも冒険者がいるんでー、ちょっと待って欲しいかなーってさー」
はぁ、この犬頭はしつけが必要かな。余り俺を舐めていると殺せコールが起きるんだぜ?
『スカイ君、今、君の前にいるのは誰かね』
そう、君はグレイシア王の前にいるのだぞ。控えたまへ。
「へ、ランの旦那のま……はっ!」
突然、スカイ君が揉み手をしながら、へらへらと笑い出す。
「覚えています、覚えてるっすよー。すでに手続き完了ですよー」
突然、どうした。
「マスター、準備は出来ているのです」
俺の背後から14型の声がかかる。って、また気配を感じさせずに……お前は、忍者かよ!
……。
あー、スカイ君の態度が変わったのって14型の姿が見えたからか。何だかなぁ。
「いや、あの、はい。急いで持ってきますです」
スカイが慌てて奥へと消える。
そして、俺がパンデモニウムの隠し部屋で見つけたクラスモノリスの欠片たちを持って戻ってくる。
「ランの旦那、これっす。手続きは完了しているので、ランのだ……ラン王が受けられた依頼以外の石碑の欠片は返却するクエストを発行しま……されてます」
こいつは……。
「いやいや、ランの旦那……いや、間違えた、間違えました。ラン王、べ、別に隠し持っておけば、利用出来るかなとか考えた訳じゃにー」
はいはい。馬鹿正直でよろしい。ホント、ろくでもないことしか考えてないなぁ。それは窃盗扱いにならないのかね?
『治癒術士の石碑の欠片は自分が返してこよう。後は予定通りにクエストとして他の冒険者に依頼を頼む』
たく、俺はさ、すぐに返しに行こうかと思ったのにさ、なんだか手続きがいるとかって話になって、無駄に時間がかかったぜ。
何の手続きが必要だったのか分からないけどさ、こいつ、本当は、クラスモノリスを便利に使いたい、この冒険者ギルドの目玉にしたいとか考えていたんじゃないか? ま、まぁ、でもさ、余り疑ってもかわいそうか。
『では、14型、オアシスに向かうぞ』
「了解です」
オアシスに向かって治癒術士のクラスモノリスを返してきたら、卒業試験の結果発表って感じかな。その後、プロムと。
うーむ、プロムだけは気が重いなぁ。